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Cavalry Saga キャバルリー・サガ  作者: 雲来末
追放立志編
2/147

トワ・キビマキ 一節

物語が本格的に回り始めるのが25部の『動き出す歯車』からなので、そちらから読み始めてもらえても楽しめます。

 竜暦1520年--


「今日も今日とて重い雲だなぁ~」


 手に掴んでいる鍬を軽々と弄びながら灰色の雲を見上げた少女は憂鬱そうに呟きました。


「・・・トワ。真面目に畑を耕せ、でないと給金を減らすぞ」


「おっと申し訳ないです伯父さん」


 トワと呼ばれた中肉中背で黒い短髪と髪の色と同じ瞳の色をした十六歳の少女はちょっと慌てた様子でそう応えます。


「解ればいい」


 伯父はトワにそう応えると畑仕事に戻り、その姿を見たトワもため息をついてから黙々と作業を続けるのでした。


「ふう、自分で言うのもなんだけど今日はよく働いたよ~」


「ふふっお疲れ様、今日だけじゃなく毎日よく働いてるよトワは」


 夕暮れ時、トワ達が暮らす小さな島の小さな寒村の近くにあるなだらかな丘の上でトワは車椅子を保持しながらソレに座る一人の少年と楽しげに語らっていました。


 少年の名はクリスと言い、トワの幼馴染みの友人で唯一の理解者でもあります。


「でもやっぱり凄いよトワは、大人達ですら音を上げるの力仕事を難なくこなせちゃうんだから」


「そうかなぁ~まあ昔から頭より体を使う方が得意だし凄いとは思えないけど?」


「実際十分凄いよ。これならトワの機士になるっていう昔からの夢が叶う日も近いよ!」


 クリスが興奮気味に語ったトワの将来の夢、目標である機士という生業。


 超人的な体力と膂力、人間離れした反射神経と動体視力を持つ人の形をした怪物。そして全長約18メートルの巨体を誇るドラッへにおける最強・最厄のロボット兵器『キャバルリー』を駆り、戦場に破壊と殺戮を撒き散らす恐るべき存在。


 それ故にドラッへに住まう人々や種族は機士という存在を敬いながらも恐れていました。


「・・・小さい頃はさ、物語や新聞に出てくる機士に憧れてたけどさ、最近じゃ私みたいな毎日の労働でいっぱいいっぱいの奴なんかじゃとてもじゃないけど無理だと諦めてるんだぁ~」


「そう・・・なんだ・・・トワなら絶対になれると思ってるけど」


「まあ機士になるには家柄とか莫大な支度金が必要みたいだし・・・今の暮らしに全く不満も無いし、このまま穏やかに命を終えるまで村で日々を過ごしていくのが今の夢かな~」


 トワは重たくなったその場の空気を変える為にわざとトボけたフリをしてそう応えると、今度は少し真剣な顔つきなって語ります。


「・・・私なんかよりクリスの方がよっぽど凄いよ。昔から頭が良くて勉強も出来るし、村のじい様達だって解らない難しい事もたくさん知ってるし」


「こんな体の僕が村や皆の為に出来る事なんてこんな事しかないしね・・・ただの役立たずまま死んじゃったら父さまに悪いし」


 そんなクリスの投げやりな言葉をトワはハッとしてクリスの方に向き直りそして・・・


「クリスのバカ!そんな事、冗談でも言っちゃダメだよ!」


 クリスの瞳を真っ直ぐに見つめながらそう叱咤し更に語り掛けます。


「お父さま・・・村長さんだってクリスの病気を治す為にあちこち駆けずり回って、お薬や腕の良いお医者様を探し回ってるんだからっ!」


 クリスは幼い頃に突然、身体中の筋肉がゆっくりと萎縮していく奇病に侵されてしまい、完治はおろか明確な治療法さえ見つかっておらず薬による病の進行を遅らせているのがせいぜいという体なのです。


「・・・不安な気持ちにさせる事を言ってゴメン」


「・・・私の方こそ急に大きな声を上げてゴメン」


 日が落ち夜の帳が下がり始める丘の上で二人は気まずそうにそう言いあった後、なぜだか自然に泣き笑いの顔になっていました。


 とても何気ないお喋りと変わらぬ日常。それが自分にとってささやかながらも、どれだけ幸福な時だったとトワは後に幾度も思い返す事になるのでした。

物語全体で1節が行間を入れて千文字、あるいは二千字程度なので読み安いと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんばんは! ツイッターからやって来ました。 世界観が分かりやすくて文章も読みやすいです。 ロボットとドラゴンという組み合わせも良いですね。 今後、物語がどう展開するか楽しみです。 [一…
[良い点] トワとクリスのお互いを思いやるやり取りが、心温まるもので良いと思います。機士の社会的身分の高さも想像できて、にじむ憧れも感じられました。どういう経緯で2人が絡んでいくのか楽しみです。
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