星を巡る力 一節
ヒューの徒弟となってはや一週間経ったトワは機士となるべく苛烈な修行を積んでいた・・・訳では無く、なぜかメイド服を着用し彼の屋敷において家事全般を行っていました。
「徒弟となったからにはまずこの屋敷の家事をこなしてもらいます」
一週間前にヒューからそう告げられメイド服を渡されたトワは大いに困惑しますが、これも何かの修行の一環だと捉え彼の熱心な指導の下家事に勤しみます。
「・・・どうでもいいですけど師匠って家事がお上手なんですね」
「師匠という呼び名は気恥ずかしいので止めて下さい。今まで通りで結構です」
「はい。ではヒューさん改めて尋ねますが、貴族の方なのになんでこんなに家事が出来るですか?」
掃除、洗濯、買い物、料理、そのどれをやらせてもヒューは完璧な仕事振りを発揮し、特に料理に関しては一流の料理人に匹敵する技術を持ち、とてつもなく美味しい料理を調理出来てしまう腕前にトワは感動すら覚えました。
しかし同時に貴族の出身である彼がなぜ女中や家政婦やシェフの真似をしているのか疑問も感じていました。
「答えは非常に簡単です。なぜなら我が一族は代々下級貴族の家系なのでメイドや執事といった使用人を雇える財力が無いからです」
「国家機士団に所属する正規の機士なら莫大な報酬を貰っている筈だし、それなりに資産があるのでは?」
「トワさんの言う通りですが・・・亡くなった両親、特に母親が浪費家だったので私が機士になる前に財産を使い果たしましてね。結局私が家事を行うしかなかったんですよ」
「あの・・・何かすみません変な事を聞いてしまって」
トワはヒューの言葉に甘え、特に深く考えずバンベリー家の複雑な家庭事情に踏み込んだ質問をした事を悔いて謝罪しました。
「貴女が気にする事ではありませんよ。それに私にとって家事、特に料理は趣味でありストレス解消として行っているのでね」
そう述べてヒューは改めてトワに家事の指導を始めたのでした・・・
(実家でやってた家事と全く次元が違って疲労も半端ないけど、新しい発見とかもあって楽しい・・・けどそろそろ機士になる為の具体的な修行もつけて欲しいなぁ~」
屋敷の家事に従事して一週間程たったある日トワがそう考えていると、勤めを終えて帰宅したヒューに突然ある事を告げられます。
「今日から本格的な修行に入ります」
「よっよろしくお願いします!」
今までの少し砕けた感じでは無く真剣な様子で語りかけるヒューに、多少気圧されつつもトワはしっかりと返答しました。
そしてその返答を聞いたヒューは彼女を屋敷の敷地内にある修練場に誘いました。