内なる世界へ 第六節
「痛っつ!」
胸に感じる強烈な痛みによりトワは意識を取り戻します。
「私はさっきまで・・・そういえばあの怪物にかられた傷はっ!?」
そう慌てた様子ですぐに自身の胸の辺りを確認したトワでしたが、痛みを感じる以外特に傷などは負っていませんでした。
(私は確かにあの気味の悪い怪物の巨大な爪に胸板を貫かれた筈・・・なのに傷一つ負っていないのは一体どういう事なの?)
「ど~したの胸の辺りを必死に触って?幽世で何かあったの?」
トワが自身の胸板を確認していると、今まで彼女を膝枕していたヒメがそう話しかけてきました。
「それが・・・」
ヒメに話しかけられたトワまだ少しぼやけた意識をゆっくりと整え、幽世で何が起こったのか語り始めます。
--まず最初に自身の生まれ育った故郷の集落が幽世に現れた事。
--集落が現れたのと同時に謎の怪物も現れ滅茶苦茶に暴れ始めた事。
--怪物の凶行を止めるべく立ち向かうも、あえなく返り討ちに遭い瀕死の重傷を負った事。
--その直後、怪物に胸板を貫かれ、傷口に大量のオドとその影響と思われる強力な怒りの感情を流し込まれ意識を失い現実に引き戻された事。
--現実に引き戻される直前、その怒りの感情はトワ自身のモノと指摘され更に赤竜らしき巨大な影を見た事・・・
それら幽世で体験した事をトワはヒメに事細かに報告しました。
「フム、成程ね・・・それで肝心の赤竜のオドとは接触出来たのかい?」
「それが・・・怪物を止める事で余裕がなくなって・・・」
「おいおいトワ君、本来の目的を忘れてやしないかい?」
トワの歯切れの悪い返答を聞いたヒメは呆れた様子でそう返します。
「君が幽世で成すべき事は赤竜のオドを発見し、制御下に置く事であって別にその怪物とやらを止める事じゃないだろう?」
「それは・・・そうですが」
「それに幽世に再現された故郷はしょせん君の心が写し出した幻・・・虚像に過ぎない。破壊されようが住人達がおう皆殺しされようが君には関係ない事だ。それより成すべき事を優先するべきじゃあないのかい?」
「ちょっ!?それはっ!」
ヒメの酷薄な物言い怒りを覚えたトワはその場に立ち上がって反論しようとしますが・・・
「へっ?」
立ち上がった瞬間に立ちくらみを起こしたトワはふらつき、その場にしゃがみ込んでしまいます。
「クッ!急に目眩が・・・一体どうなっている!?」
「そりゃ一時間もオドを全開状態にしていれば、一時的に総量が枯渇し掛かってそんな状態にもなるさ」
しゃがみ込むトワに対してヒメはそう諭し今の状態が普通であると述べます。
「・・・成程それで地下での修行が始まった当初、オドを増大させたまま一時間纏い続けられるように鍛え上げて下さったのは、この時の為でもあったんですね」
「そういう事。もしあの修行をクリアしていなければ、君は幽世に至れなかっただろうし、至れたとしてもそこから現実には戻れず肉体が死を迎えるまで幽世をさ迷う事になっていただろうねぇ」
ヒメの返答を聞いたトワは思わずゾッとしますが、同時にここまで精密なオドのコントロールが出来るように鍛え上げてもらったヒメに対し内心感謝するのでした。