王都アルナトラ 九節
「ふわ~っ・・・・・・ココどこ?」
オニゴト終了から数時間後、トワは見覚えの無い質素ながら手入れの行き届いた広い部屋に置かれているベッドの上で目を覚ましました。
「目が覚めましたか特に体に不調は無さそうですね」
「ヒューさん・・・あのココは一体?」
「ここは私の屋敷です。と言っても下級貴族所有の物件なのでさほど大した建物ではありませんが」
「はあ」
トワがベッドの傍らに立つヒューの説明に気の抜けた返事をすると、その後彼はとんでもない事を言います。
「そして今日から私の徒弟となる貴女の住居にもなるのですよトワさん」
「・・・へっ?」
あまりの急展開ぶりに思考が追いつかないトワは、思わず間の抜けた声を上げましたが・・・
「えっえっえっー!?私本当に徒弟になっちゃっていいんですか?オニゴトにも勝ってないのに?」
「無意識でしたでしょうが、確かに貴女は私をしっかり捕まえましたよ」
そう言ってヒューは自身の軍服の袖、トワの歯形がくっきりと残っている部分を彼女に見せます。
「これで納得して頂きますか?」
「・・・ヤッベ、意識が飛んでとは言えかなり滅茶苦茶な事をしたな私」
トワはヒューの袖を見ながら自身の無軌道な行動に呆れそう小声で呟きました。
「それからトワさん。貴女に機士への志望理由と動機を尋ねた際にその志を貶めた事、心より謝罪します」
ヒューはトワの瞳をしっかり見つめ、改めて深々と頭を下げました。
「やっ止めて下さい!私の方こそ色々とやましい下心があったので・・・この件はお互い水に流しましょう」
「いえ、トワさんが本当の本気で機士を志望しているか。また機士になるための必要最低限の力を持っているかそれを見極める為とはいえ・・・」
長くなると感じたのかヒューは一旦言葉を切り一拍置いて更に続けます。
「トワさん自身の名誉、それに御家族や友人の方の名誉まで貶め傷つけてしまいました・・・機士としてあるまじき行為です。なのできっちりと謝罪させて頂きます」
「はあ、それはありがとうございます」
トワはヒューにやや気圧されつつも謝罪を受け入れました。
するとその様子を見ていた彼はトワの瞳をしっかりと見据え話し掛けます。
「・・・一連の件の贖罪として私が出来る事は貴女を一人前の機士に育て上げる事だけです。その為にこれからは師として教えられる事は全て仕込みます構いませんか?」
そう真剣な様子で言葉を述べてヒューは手をトワの方へ差し伸べます。
「私の方こそ、まだまだ未熟で至らない所だらけですが・・・必ず機士になってみせますのでよろしくお願いいたします!」
トワはそう力強く返答し、差し伸べられた手を握りました。
こうして彼女は一人前の機士になる為の長い長い道に足を踏み入れたのでした。