キャバルリー、その起源 第三節
「ふむ。では何故高い身体能力と高い加速度耐性を持つ機士ですら乗りこなす事が困難・・・というより不可能な兵器がキャバルリーが登場するまでドラッヘ各地で使用されていたと思うかね?」
「古代エルフ文明が滅んだ後、ドラッヘでは長い長い混乱の時代が続き新型の兵器を開発する余裕が無かった為に、結局絶滅したエルフ達の遺産であるベルフォルマを掘り起こして使うしかなかったとある古文書には記されていました」
「加えてベルフォルマは生まれつき非常に優れた身体能力と反射神経、及び膨大なオドと演算能力を種族全員が保有していたとされるエルフ族が、自分達のみが扱う事を前提として開発した為に、その他の種族の者達では到底扱い切れぬ代物であったとも伝えられています」
「ふむその通りだ。ベルフォルマは非常に高い性能を保有するが故にエルフ族以外では扱い切れなかった為にキャバルリーが開発された訳だが・・・この二つの兵器には決定的に違う所がある。それが何か解るかね?」
「あの~もしかして単純に機体性能に差がある所なんじゃないでしょうか?」
他の研究生達の積極的な発言に触発されたトーコは、自分も何か意見を言わねばと感じ突然そう発言します。
「・・・具体的にはどんな差があると?」
「言い方は悪いかも知れませんが・・・エルフ族しか乗れないベルフォルマを他種族の人々でも扱える様に、性能を抑える改良を施したのがキャバルリー。つまりキャバルリーとはベルフォルマの廉価兵器として生まれたのではないかと推測します」
『・・・・・・』
トーコがそう発言した途端、先程まで活発に意見をしていた研究生達が一斉に沈黙し気まずい雰囲気が漂います。
(やっちゃった・・・これはかなり的外れな事を言ってしまったかも)
「概ねその通りだ。しかしキャバルリーはただの廉価版ではなく、ある人物の手によりベルフォルマから発展・向上した箇所も幾つか存在する」
気まずい沈黙を破りトーコの意見を肯定しつつもキャバルリーについて新たに補足説明を加えたハンスは更に解説を続けて行きます。
「そのある人物とは魔工師ベルナール・ベルトーネ博士。皆も名前くらいは聞いた事があると思う」
「はい。確か竜暦八五十年代頃に活躍した魔工師で、ここテューロス地方の出身。その優秀な頭脳と聡明さを買われ当時のベルモント帝国皇帝が直々に帝国筆頭魔工師として招聘したと伝わっています」
「そうそのベルトーネ博士が自身を招いた皇帝に改良案を具申し、その案が通った事によりキャバルリーが誕生したとも言える」
「一体どのような改良案を具申したのですか?」
「主に三つの案を具申したとされ、最初の一つはアリア・エンジンのオミットだ」
「えっ?それじゃあ機体のオド出力が減少して・・・あっ!」
トーコはハンスと他の研究生達とのやりとりを聞いてある疑問が浮かびますが、直ぐに答えを思いつきます。
「そう君が気付いた通りだ・・・アリア・エンジンを取り外せば機体のオド出力は大幅に減衰する。しかしそれと引き換えに搭乗者は自身にかかる肉体的負担と煩雑な機体制御作業から解放される」
トーコの言葉にそう返答しつつハンス更に話を続けます。
「二つ目は機体のダウン・サイジングである。ベルフォルマの巨体は何かと困難を伴ったらしいからな」
「ベルフォルマとはそんなに運用に支障をきたす程に巨大だったのですか?」
「ああ、なんせ全高が30全幅15メートル以上もある超巨体な上に、構造応力を外部装甲に依存していた為に装甲が損壊すると稼働不良に陥る事は古代エルフ文明の時代からままあったらしい」
「それは・・・運用面でかなり難がありますね」
「古代のエルフ達はどう考えていたか今では知る術は無いが・・・時が経ちエルフ以外の種族が運用するようになってからはトラブルが続出したのは確かな事実ではある」
ハンスはそう呆れた様子でベルフォルマの欠陥を語りました。
「だからこそ機体のダウン・サイジングを実行したが、これにより様々な利点も得られた」
「様々な利点?」
「ああ、機体のダウンサ・イジングにより使用するファータ鋼が減り、より量産性に優れた工業製品に近づいた事。更に--」
ハンスは研究生達の熱心な眼差しを受けつつ、更に解説を続けます。
「機体の構造応力をフレームのみで賄えることに成功した点が一番大きいな。これにより外部装甲が全て損壊しても稼働不良に陥るという事は無くなり、理論上ではあるがフレームだけの状態でも数時間程なら行動が可能と言われている」
「成程。それは戦略・戦術の両面から見て重大な技術革新だと言えますね」
「更に機体自体が小型化した事により本体やパーツの輸送や装備の運搬等の作業がよりスムーズになり運用面での使い勝手が格段に向上した点も上げられるが実は他にも重要な点もあるのだが・・・解る者はいるかな?」