新たな修練 第三節
「とまあ冗談はさておき二人共、身に纏ったオドを身体の一部に集中させる事により得られる利点はその身で解ったと思うけど・・・逆に大きな欠点もある。それが何か解るかい?」
「う~ん一時的にではあれ身体中のオドを一ヶ所に集めている状態になるから・・・あっ!」
「集中させている以外の部分はオドが消えている状態に陥ってしまうという事でしょうか?」
「正解。まあ正確に言うと消えているんじゃなくてオドの濃度が極端に薄くなっている状態なんだけどね」
トワが気付きマルグリットが導き出した答えに対しヒメはそう返答すると、ほんの少し真剣になり二人にある事を尋ねます。
「じゃあその薄くなった部分をオドが集中している箇所で攻撃されたら一体どうなると思う?」
「そんな事をされたら勿論・・・」
答えを想像したトワは自身が導き出した結果に顔色を変え絶句します。
同じように答えを見つけたマルグリットも思わず呆然となってしまい、二人は完全に沈黙してしまいます。
「そう君達が想像した通り、もしそんな事になれば深刻な負傷を負う・・・なんてレベルでは済まない。まあ最低でも攻撃が当たった箇所は原子レベルで粉々だろうね~」
「・・・そうなるとオド集中で攻撃された場合、こちらもオド集中した箇所で防御するしかないって事でしょうかね?」
「まあ理屈で言えばそうなるけど、そんな博打の様な戦い方は実戦では全く使われない。何故だか解るかい?」
「攻撃・防御共に大きく力を増しますが、その分隙が大きくなるからでしょうか?」
「その通り。威力は大きくても外した時や、受ける箇所を間違えた時のリスクを想定したら、とても実戦では使えた物じゃない・・・だけどオド集中は先程君らが実際に体感した様に非常に強力で有効な技術だ。これを捨て置く手は無いよね~」
「・・・つまり竜伎様はオド集中自体問題のある技術だけれども、運用方によってはとても有益であると仰せられるわけですね」
「そうだね。ならどうして運用すればオド集中は有効な技術・手段になりえるか君達は解るかい?」
ヒメはそうオドの集中について利点と欠点を挙げ、実戦では使えぬ技術だが使い方によっては有効な手段になると説き、更にどうすればその様になるか二人に問います。
(う~ん身体中のオドを一ヶ所に集中させるからあれだけの力を発揮出来る・・・けれどその他の箇所はオドが薄まりほぼ無防備になる。しかし運用のやり方によっては有効になる・・・か。まるで謎かけださっぱり解らん。何かヒントになる事でもなかったかな?)
ヒメの問いに対する答えが全く解らずそう頭を抱えるトワでしたが・・・今まで自分が経験した事、見聞きした事にヒントがあるのではないかと思い、必死に記憶を辿ります。すると--
(そういえばこの前、ギニー火山で戦ったフレイム・イールとかいう魔物は変則的なオドの使い方をしていたような・・・)
そうトワは赤竜ロッソがギニー火山にて自身に課した試練の際に戦った魔物、フレイム・イールが変わったオドの扱い方をしていた事を思いだします。
(確かあの時フレイム・イールは泳いでいる時は普通にオドを纏っているだけだったけど・・・攻撃に転じる際には身体全体に纏うオドを増大化させつつ、牙や尾びれなど攻撃に使う箇所をっ・・・!)
そこまで思い返したトワはある事に気が付きました。
「もしかして・・・オドを必要な時、必要な箇所に必要な量を適切に振り分ける事によって有効な技術になるとか?」
「!?」
トワの一言に、彼女と同じように思考の迷路に迷い込んでいたマルグリットは驚きのあまり目を丸くします。
「正解!いや~トワ君の割には今回に限って中々頭が冴えているじゃあないか」
「そりゃどーも」
トワの答えに満足しつつもどこか茶化すヒメに対してトワはぶすっとした表情になり、そう答えました。