基礎学科教室 第二節
トーコの迂闊な一言で気不味くなりかける二人でしたが、コリンナは機転を利かして話題を逸らします。
「やっぱりそうなんだ基礎学科の授業だから、てっきり私より年下の子供達二~三十人程度で授業を行うとばかり思ってたんだけど・・・種族はともかくとして私より年嵩の人達がこれだけ集まっているとは思ってもみなかったよ」
「まあ学院は創設時からの特性で、どんなに年齢を重ねていようと学びへの意欲があるから基礎学科から勉強を始める高齢者の方も多いけど・・・この教室で行われる授業に限っては別の理由があるの」
「別の理由?」
「ええ、基礎学科の授業を行う教室は他にもそれなりにあるけど、この教室を受け持つ講師の人がかなりの変わり者だけれど、それと同じ位人気があるから毎度これだけの受講生が集まるって訳」
「へえ、それでその講師の方はどんな風に変わっているの?」
「それは見てのお楽しみ」
コリンナはトーコにそう言うと教室の扉を見やります。
すると丁度扉が開く音が聞こえ、その瞬間それまで私語を交わしていた者や本を読んでいた者、タブレット端末を触っていた者達が一斉に言葉を止めまた手を止めました。
「丁度来られたみたいね」
「・・・・・・ひっ!?」
静まり返る教室に入って来た講師の姿を見てトーコは小さいながら思わず悲鳴を上げました。
赤色のシャツに黒色のネクタイ、タイと同じ色のズボンとジャケットの上に白衣を羽織っており、それ自体は全く違和感はありません。
しかしトーコが悲鳴を上げた理由はその服装の中身。
標本と見間違える程の白骨の体躯に、眼窩に青白い炎を宿した髑髏の頭、そして身体に纏った強力なオド。
それら異様な、そして恐怖を感じさせる姿を見たトーコはコリンナに眼前の講師について尋ねます。
「あっ、あの人?が講師の方・・・なの?」
「フフフ、やっぱり驚いてるね。まあ初めてならそうなるか」
コリンナは悪戯っぽく笑みを浮かべてそう話すとトーコの問いに答えます。
「ええ、あの様に少し変わった風体だけれどあの方は立派な講師様よ」
「そっ、そうなんだ。私の居た地域にはあの講師の方と同族の人がいなかったんで少し驚いちゃった」
「まあアンデット族のスケルトンの人々自体はドラッヘ中に割といるけどリッチとなるとそう滅多にお目に掛からないしね~」
「リッチ?」
「アンデット族の中でも並外れて高いオドの保有者で、高度な技能と豊富な知識を持つ人々だけど人口が物凄い少いって話。まあ詳しい話は私にも解らないけど」
コリンナがトーコにそう説明していると、室内に設けられた教壇に立った件の講師は一度教室全体を見回してから、静かにしかしよく響く声で自己紹介を始めます。
「私の名前はハンス・オタラ。既に知っている者もいるかもしれないが、この基礎学科教室で教鞭を執る事になった。以後よろしく頼む」




