学院 第三節
今から自身が通う学院が三百年という途方もない長い歴史と伝統を持つ所だと知ったトーコは、思わず大声を上げて驚きかつ緊張します。
そんな彼女の様子を見た女官は緊張をやわらげる為に声を掛けます。
「ふふふ、そんなに身を強張らせなくても大丈夫ですよ」
「あのそれはどういう意味でしょうか?」
そう不安気に尋ねるトーコに女官はゆっくりと学院の詳細な概要を説明し始めます。
「貴女にはまず基礎学科・・・ドラッヘの他の学校でいう所の初~中等部程度の教育を必ず受けて頂きますが、それを修了すると基本全て自由になります」
「全てが自由とは?」
「言ったままの意味ですよ。貴女の学びたい学問、興味のある分野を好きな時に好きなだけ学習出来るのですよ。それこそ五年でも十年でも」
「十年!?そんなに長い間勉強しても良いのですか?」
「ええ、学院には基本入学という概念はあっても卒業というものはありません。故に数十年、長命種族の方なら百年近く学問と研究を続けておられますよ」
「ひっ、百年!?」
途方もない時間を使って学問を修めている存在がこの学院にいると知らされたトーコはまたも大声を上げて驚きます。
「まあ百年というのは極端な例ではありますが、少なくともそれぐらいかあるいらその半分くらいの年月を勉学や研究に勤しんでいる院生もそれなりにいるという話です」
「学院の建造物と同じで凄く大きなスケールの話ですね。しかしそれだと学費が天文学的な数値になるので、個人では到底賄い切れないのでは?」
「確かに他所の教育機関ではそうなるでしょうが・・・ここでは院生が支払うのは筆記用具等の日用品のみで、その他諸々の費用は学院側が負担しているのですよ」
「えっ!そんな気前のいい事して、学院の経営は大丈夫なんですか?」
「まあそう疑問に思われるのが普通ですね。しかしその事は特に問題になっていないのですよ」
「それは何故ですか?」
学院のあまりの気前のいい経営体制を不審に思ったトーコはそう女官に質問します。
「まず学院の出身者の多くはどの分野においても非常に優秀な人材で、創設当初からここシン・ロンを含むテューロス地方を始めドラッヘ各国で活躍しており、その見返りからか毎月各国から莫大な資金が寄付されているのですよ。それに・・・」
「それに?」
「院生が自身の研究結果や発明で得たロイヤリティを自身の学費や研究資金に充てたり、また学院に寄付する為に経営資金は常に潤沢なのですよ」
「成程。それだけドラッヘの各国家が学院や院生達の事を重視しているからこそ資金が集まり、また院生の方々も学院の為に資金を提供しているからこそ、学院の経営は成り立っているという事ですね」
「その通りです。さて学院の概要と成り立ちは一応全て説明し尽くしたので、私の付き添いの役目はここまででございます」
「はい。説明と学院への案内ありがとうございました」
トーコはそう女官に頭を下げ感謝の言葉を伝えると、目の前の三百年という歴史を持つ建造物に相当緊張を覚えつつも、勇気を出して学院に足を踏み入れるのでした。