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Cavalry Saga キャバルリー・サガ  作者: 雲来末
竜圏の聖域
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呉越同舟 第四節

「あっ、あべ・・・あっあっあっ」


 修行を始め幾らかの時間が過ぎ、度重なるオドのコントロールの失敗によるヒメの制裁に、暗闇そのものがもたらす時間感覚の消失を始めとする様々な恐怖によってトワは肉体的にも精神的にもすっかり参ってしまいます。 


「あっ、ま・・・まだ、やっ、やれえええ・・・」


 それでも体に、そして魂に刷り込まれた恩師であるハイライン王国の機士であるヒューの教導の賜物か、トワはヒメに何度も打ちのめされては立ち上がり再びオドを纏い直し増大させますが・・・


「ダ、ダメだ。ち力が抜けけけて・・・」


 トワの灰色に輝くオドは修行開始時に比べて、明らかに減退・縮小しておりもはや生死に係わる所にまで小さくなっていましたが、ヒメはそんな事はお構い無しにオドの減衰したトワに慈悲なく制裁を加え、彼女は盛大に血を吐き出しその場に倒れてしまいます。


「やれやれもうダウンかい?所詮、君の覚悟とやらはこの程度の物だった訳だ」


 血を流し全身ボロボロになり倒れているトワに、ヒメは呆れ交じりにそう吐き捨てます。


(・・・身体中が痛くてたまらないし力も入らない。これまでかな・・・)


 傷だらけになりながらも、かろうじて意識があるトワはヒメの言葉を受けて心中で修行を続ける事を途中で放り出そうとしますが・・・


(・・・いやここで終わる訳にはいかない。まだ私にはやらなきゃならない事があるんだっ!)


 そう奮起しヨタヨタとふらつきながらも何とか立ち上がり、オド纏おうとしましたがもう完全に絞り出せるオドが尽きたのか、もはや何の現象も起こりませんでした。

 その様子を醒めた目で見ていたヒメは・・・


(フム、やはりこれまでだったか。なら仕方ないな)


 そうあっさりとトワに見切りをつけ止めを刺そう動こうとしたその刹那--


 ズオン!バリバリバリッ!!


 轟音と共に稲光を放つ真紅のオドを突如トワが発現し、身体中に纏うとたちどころに周囲の暗闇を紅蓮の輝きで照らし出しました!


「ほお~このギリギリのタイミングで赤竜ロッソのオドを引きずり出し、纏ってみせるか」


 ヒメはトワの尋常ならざる今の状態を見て、そう言うと更に言葉を続けます。


「とはいえまだまだ出力も不安定で、とても制御出来てるとは言えないねぇ」


 そうヒメが感想を述べていると、未だロッソの強力かつ莫大なオドを長時間引き出す事の出来ないトワは、あっという間にオドを切らし今度こそ意識を失いブッ倒れてしまいました。


「ここまでか・・・まあ最後の最後までオドを絞り出し、更にロッソのオドまで引きずり出してみせたんだ。結果は上々かな」


 そう呟くとヒメは再びパチンと指を鳴らし、結界空間を暗黒の闇から元の何も無い荒野へと戻します。


「彼女も少し前からノビているし、今日はもうお開きにするかねえ~」


 トワと同じく、地に伏せ完全に意識を失っている甲冑の人を見やりながらヒメはそう言うと現れた時と同じく唐突に結界から姿を消しました。



 数刻後--


 バッ!という音と共に意識を取り戻したトワは条件反射で立ち上がると、周囲の空間を見回し疑問の声を上げます。


「あれっ?いつの間にか元の荒野に戻ってる・・・それにヒメ様は?」


「竜伎様ならもうお帰りになられた。今日の修行はこれまでという事なのだろう」


 トワの疑問に甲冑の人がそう答えました。


「そうかい・・・しかし今日は徹底的にボコボコにされたな私もアンタも」


 元々が超頑丈なファータ鋼製の甲冑ゆえに目立ったモノは無いものの、全身に細かい傷が無数に出来ている事に気付いたトワは甲冑の人にそう言いました。


「そう・・・だな。私もまだまだ未熟者である事を骨の髄まで思い知らされた」


 そう少しうなだれ弱音を吐いた甲冑の人は次の瞬間、突然居住まいを正しトワに頭を下げます。


「トワ殿、先程までの貴殿に対する無礼な言動の数々ここに謝罪いたします」


 そう言うやいなや甲冑の人はトワに対して深々と頭を下げます。


「ちょ、ちょっと急にどうしたのさ!?」


「・・・竜伎様に何度も何度も倒され、その都度立ち上がり最後にはオドが尽き果てるまで修行を続ける貴殿の不撓不屈の精神に誠に感服致した」


 修行開始前までとは打って変わってしおらしい態度と言葉使いになった甲冑の人に多少たじろくトワに彼女はそう答え言葉を続けます。


「たかが傭兵と侮り、更には出身地を嘲り蛮族と愚弄した事を心よりお詫び申し上げる」


「あ~別にその事はあんまり気にしてないから、急に畏まらないで欲しいんだけど逆に」


甲冑の人の急な、そしてやや丁寧過ぎる言動に戸惑ったトワは彼女にその四角四面な対応を止める様に促し更に言葉を続けます。


「あとそのやたらバカ丁寧な敬語も止めて欲しい。今は同じ師の下で修行を受ける身なんだから、お互いタメ口でいいっしょ」


「・・・了解したトワがそう望むのであればそうしよう」


 甲冑の人は渋々といった感じでそう言うと身に付けていた兜を脱ぎ、綺麗に結い上げられた赤みがかったブロンドの長い髪と、薄紫色の美しい瞳に整った顔を露にします。


「そう言えば自己紹介がまだだった、私の名前はマルグリット。出身はゲインブルで現在は一人前の機士になる為の武者修行を行い諸国を巡っている」 


(成程、ゲインブルの出身ならハイラインの事を快く思っていないのは当然か)


 マルグリットのハイライン王国に対する厳しい言動の理由を理解したトワはそう心中で呟きつつ会話を続けます。

 

「へえ~綺麗な響きの名前だね。ところでファミリー・ネームはわざと伏せてるの?」


「すまない家訓でね。成人するまではファミリー・ネームは伏せておく習わしなのだ。あと甲冑で顔と姿を事もね」


「ゴメン。無神経な質問だった」


「いや構わない。むしろ私が初めに説明しておくべきだった」


 トワの不躾な問いに対して、マルグリットは僅かに微笑みそう答えました。


 こうして最悪なファーストコンタクトをした二人は、互いの事を知り始め共に第二階梯習得の為にヒメの下、修行に励んでいく事になりました。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ストーリーはもちろんですが、次回の引っ張り方も上手で、次はどうなるんだろうと思いながらどんどん読み進めちゃいました。
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