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映る誇りと愚かさ

作者: dragon
掲載日:2022/01/09

 これまで、何人もの世界を燃やしてきた。しかしそれはこの現実ではなくて、黒だったり白だったりする画面の中の世界、「SNS」という世界でである。自ら火をつけて燃やせなくてもいい。誰かがスキャンダルを見つけてきて、それを火種に火をつけて、相手を追い詰めていって、最後には「炎上」と呼ばれる形で焼き尽くす。これが面白い。この世界で死んでも、戻ってくるのが難しくなるだけで、もう一つの「現実」で生きていけばいい。だから、本当は自分でもおかしいと思っているこの殺人もできてしまう。

 今日、一人の獲物を見つけた。少し古いグループの歌手のボーカルの二股報道である。既婚者であったのにも関わらず、一般の人との不倫をしていたらしい。しかもその不倫相手はそのことを知らなかったらしい。このニュースが広まり始めると、私以外の人達が動き始めた。この時、三つの人達が出てくる。「ww」とか文の後ろにつけて笑う者、この事実という火種だけ(不倫をしても、復帰をする人は沢山いる。だから今の内に焼こうとしてるのだ。)に、必死に空気を送り込んでいる者、情報を収集して次のタイミングで燃料を投げ込もうとする者、この三者でこの世界が回り始めた。私は三番目の方法で次のスキャンダルを探した。過去に何か傷を持っていないか?消すことのできないデジタルタトゥーを体に彫っていないか?手のひらサイズのこの世界に残った情報を探して歩き続けた。

 ある場所で、思わずあっと声が出る情報を見つけた。どうやらこのボーカルは過去にも不倫をしていたらしい。しかも、その時も既に結婚をしていた。見つけたのは私だけでなく、多くの人が見つけていた。すぐにこの情報が広がる。ガソリンや薪がどんどんと投げ込まれて追い込まれているボーカルの姿が容易に想像できた。

 私も拡散しようとした時、急に頭がズキッときて、その後に睡魔が襲ってきた。クラクラする中で電源を切った。充電器に差し込むと、一人きりの暗くなった部屋で、暗くなった画面に、なんとなくだが私の姿を見た気がする。その姿は恐ろしさを持っていて、自信があって、強そうで。それが私だと思うとなんだか誇らしかった。

 次の日、私は中学に行かなければならなかった。私はほとんど不登校だ。それでも時には親に連れられて行かなければいけない。だから今日は、いつもの狂った生活リズムを正して、スマホも見ずに準備しなければいけなかった。誰にも会う気がなかったから、軽く髪の毛を整えていくつもりだった。それで鏡を見たら、昨日の画面の姿は見る影もない、この世界に嫌われていると思っているような醜い表情をして、自信なんてもってのほか、絶望を感じさせるオーラを出している私が見えた。はぁ、はぁといきなり息が上がる。心臓の動きも早くなって、皮膚の表面が突き破れそうなほど血液が巡る。急いで部屋のベットに飛び込んで、少しでも整えた髪を掻きむしりながら縮こまった。扉の向こうから母の声に似た悪魔の声が聞こえる。嫌だという思いが凝縮された右腕が「SNS」の世界を求めた。一種の精神安定剤のように、その世界に入る前の黒い画面の私の姿はまた醜い姿を忘れさせた。鏡に映る私は私では無い。ただの弱者だ。そう思うと悪魔の声も母の声に変わっていた。

 下校時間になった学校に登校してきたと思うと少し面白い。階段を登って、先生と母と私の三人で部屋に入るまで誰にも会わなくてよかった。家を出てから自分の姿を見てなかったけど、もしかしたらベットに入った時に泣いてしまって目が腫れていたかもしれない。

「どうですか?最近の調子は。」

「・・・・・・まあまあです。」余り話したくなかったからそれで口を閉じた。

「私としては何とかいって欲しいんですけど、」母は私の怒りが入った視線に気づいたのか、話を止めた。先生もそれに気づいて深掘りしなかった。

「えー、ではこれからの行事はどうしましょうか。これから体育大会がありますが、どうしましょう。遠くから見ているだけでも、参加させて行きたいのですが。」

「そうですね、参加をするならばその方向でいきたいですね。」私は何も言っていないのに話は進んでいく。

「嫌だ、行かない。」ここだけはしっかりと言った。ちらっと先生の目を見ると、朝見た愚かな姿が映っていた。発作は何とか抑えたが、苦しかった。

「いい加減にしなさい!」という声が頭の中の想像で流れた。きっとそう言われる、そう思っていた。その中で聞こえてきたのは涙の音だった。母の涙の音。先生は驚いてオドオドしている。

「すみません、体育大会は参加しないことにします、すみません」最後は濁って余り聞こえなかった。

 今日は部屋に帰ってきてもSNSの世界には入らなかった。結局、この世界にもあっちの世界にも私が学校に行かない理由を誰も知らない。ただ、学校で何もできなかった自分が嫌だっただけ。テストもできないし、人には好かれないし頼られない。それに、先にもっと生きやすい世界を見つけてしまったから、逃げてしまった。けど、その逃げた私も画面に映れば強く見える、その幻覚に魅せられた。

 あぁ、そうだと思って世界に入ってニュースを見るとあのボーカルは燃え盛っていた。その火がグループにまで燃え移ろうとしていた。流石に関係のない人を燃やすわけにはいかない、ちょっとした罪悪感から電源を切った。

 翌日、電源を切っただけで消してなかったサイトを下にスライドして更新すると、最新のニュースが出てきた。

「不倫後、炎上し自殺を図る。」起きたばかりなのにドバッと汗が噴き出る。昨日少しだけ芽生えた罪悪感が、急に発芽して心を蝕む。今までこの世界にしか影響を与えていなかったのに、ついには別世界にまで影響を与え始めた。急いで記事を読んでいく。

「首を吊り自殺しようとしたところを、マンションの部屋に入ってきたメンバーに止められたということです。」未遂で終わったから良かったものの、もしこれが止められなかったら。汗がさらに出てくる。

 恐怖に満たされた私は何も誇らしくない。ただの愚か者だ。朝の鏡で起こった発作が戻って来る。早く、あの姿を。誇らしいあの姿を!

 電源を切っても暗い画面にはあの姿はなかった。朝の鏡に映ったあの姿と同じ、愚かな姿だ。

 その時、ふっとある考えが浮かんだ。私はこの「現実」のどこにいるんだ?愚かな姿も誇らしい姿も、この現実にはない。

 そう思って、私の生きやすかった世界を消した。

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