草生える
「ははっ、(カタカタカタッターン!)『草』っと」
動画配信者が投稿した新たな動画に、『草』のコメントを残した。
長文のコメントはなんだか恥ずかしいし、自己主張が苦手な彼には『草』がちょうどいい。他にするコメントは『うぽつ』や『おつ』くらいだ。
随分前、彼が戯れに投稿した動画に、初めて付いたコメントが『草』だった。
そのシーンは自分でも面白くなるように工夫した箇所で、それが認められたようでとても嬉しかったのを覚えている。
動画投稿そのものはあまり興味が向かなかったので、投稿した動画はそれ一本だった。けれども『草』のコメントは深く印象に残った。
それ以来、彼は面白いなと思ったシーンには欠かさず『草』とコメントしている。
たまに『草』に派生して他の人がコメントを残すこともある。追い草、大草原、叢、草の連鎖に、この『草』は自分が最初に生やしたんだと、少し誇らしくなる。
彼は様々な動画に『草』を生やした。ジャンルは問わず、面白い動画であればなんにでも生やした。
ただ、『草』と。
それが自身の天命であると感じた。
長文など必要ない。自分の気持ちに、心に従って、ただ一文字を。
『草』
精一杯の賛辞を込めて。
『草』
抱えきれないほどの好意を込めて。
『草』
あなたに届いてほしい。
あなたにも『草』