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意思の呪いと剣帝

今回は父、ネイト・マーシトラス視点です。

あと、コーヒーがすごく美味しい。FIREブラック民になりました

子供が産まれた。

人という種の中で言えば当然のことなんであろうが、俺たち二人にとってはそれは大きなことだった。

俺とソフィアの愛の結晶が形になったのだ。

その日は夕方ごろに産婆に定期検診を受けいつ産まれてもおかしくないと診断を受けた。明日の朝には準備をして家にいてもらう予定だったが、深夜に突然陣痛が来た為に、執事のグリューエルは産婆を呼びに隣村に馬で駆け出してもらった。



辺境の片田舎に引っ越して、静かでゆったりとできるこの村はとても好きだが、この時ばかりは田舎であることを呪ったほど、あの時の俺はとても焦っていた。

しかし、サーシャが初めてながらも産婆にしっかりと出産について教えてもらっていたことで、大事には至らなかった。サーシャには何かしてあげなければならないと、その後夫婦で話したこともあったな。

子供は生まれると、全身が敏感ですぐに泣いてしまう為、元気な声を確認した後にに〈ヒーリング〉で気持ちを落ち着かせるのが冒険者の慣わしとして教えてもらっていた。



ソフィアが〈ヒーリング〉を使った後に大声で泣き出したのはかなり驚いたがそれでも元気に産まれてきたことが嬉しくて我が家は笑顔で溢れていた。あぁソフィアは〈ヒーリング〉が失敗したのかと、オロオロしていたな。



その後、産婆が駆けつけたが、産まれていることもあり、産まれた後の処置や今後のことをサーシャに教え、帰って行った。グリューエルは産まれた瞬間に立ち会えなかったことを悔やんでいたが、ソウルの眠っている姿を見て、感極まったのか大粒の涙で泣いていた。そういえば普段感情を表に出さないサーシャも少し泣いていたように見えたな。

なんにせよ子供の誕生を一緒に喜んでくれる、ということはとても嬉しいことだった。


それから数日経ち、全く夜泣きをしないソウルに家族全員で心配したが、当の本人は「?」という感じであった為に不思議な子だが大丈夫だろう。という結論に至った。ソフィアは天才が産まれたんだわ!と舞い上がっていたものだ。まったく、産後まもないのだから大人しくしていてくれ。


それからさらに数日経ったある日事件は起きた。


「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


突然の叫びに家の全員が駆け出した。

当然だ。ずっと落ち着いた様子のソウルが叫び出したのだ。

俺とグリューエルが先にソウルの元に辿り着いたが、ソウルの小さなゆりかごには結界が張られており、近づくことすらできない状況であった。

さらに結界の中にはおそらく妖魔族らしき存在が確認できた。



妖魔族は善意と喜びを生きる糧とする種族であり、時として他の種族に加護や呪いを授けるという言い伝えのある存在。伝説上の種族であることは確かであるが、赤子に何かを施すなんて聞いたことがない。

しかしまだ、体内の魔力すら安定していないはずだ。加護など与えられるはずはない。

けれど目の前で起こっている現象は確かに加護の儀式。文献でしか聞いたことはないが確かにそれは加護の儀式であった。

光が踊り、集約され、光の柱がソウルを中心に立ち上る。それは儀式成功の証でもあった。

結界が解かれ、俺と爺は安堵したがそれも束の間。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁヴあっっぁぁあ」


さらに大きな叫び声をあげ体が大きく跳ねたのだ。

表情はなく、麻痺させられているような状態になっていた。

なんだこれは、が最初に思ったことだった。まるで()()()()()()()()()()()状態、といえばいいのだろうか。

確かに加護は大きな情報量を持ち、加護によっては世界の見方そのものを改変する、とも伝わるがそれでも加護を授かった瞬間にこのようになることなどありえないはずだった。

俺は急ぎソウルの元に駆け寄ると既にソウルの意識は途切れていた。

その姿を見た途端に怒りが込み上げ、爆発する。全く時間は掛からなかった。

そしてその場を去ろうとする妖魔族に怒鳴りつける。


「妖魔族!!ソウルに何をした!!」


「あれ!君も僕が見えるの!あははは!すごいね!すごいね!」


「質問に答えろ!妖魔族!」


「え〜なんでそんなに起こってるの?私は加護を授けてあげただけなのになー!」


「ふざけるな!加護であれほどのことが起こるわけないだろう!」


「仕方ないよぉ。意思の加護だもん。」


意思の加護。聞いたことがある。自分に向けられている意思を言葉のように理解できる加護のことだ。それは時に人を疑心暗鬼にさせ、心の弱いものは二度と人に会うことすらなくなるという加護。嘘を見抜けるという部分で聖職者に多い加護のはずだ。しかし、ソウルのような状態になるなど聞いたことがない


「意思の加護なら尚更そんなことになるはずないだろうが!」


「しかたなーい。色無(エラー)だもん」


色無(エラー)だと....」


色無(エラー)の加護などそれこそ世界に10人も持っていない加護だぞ?そんなことあり得るのか?


「意思の加護はねー色無色無(エラー)すると世界中の声が聞こえるっぽいんだよね!森羅万象全ての声が聞こえるんだよ!喜びも悲しみも、希望も絶望も、人の意思も魔物の意思も聞こえるんだよ!すごいよねー!」


それを聞き愕然とする。世界中全ての意思だと...?

この世界にどれほどの生き物がいると思ってる?

そんなものがあったら頭も心も容易に許容できなくなってしまうじゃないか!

そんなもの、そんなもの、もう加護ですらない。それこそ呪いの類と何が違うというんだ!


「ふざけるな...ふざけるな!今すぐ加護を消せ!妖魔族!」


「え〜やだよ〜せっかくゲームしてるんだから〜」


「お前.....!!」


「旦那様、もう良いでしょう。」


そこに爺、グリューエルが声を挟んだ。


「爺、何を!」


「もうこやつは生かしておけますまい。()()()()もう良いでしょう?」


グリューエルは激昂していた。腰に帯刀していたレイピアを抜き出し、既に魔力を立ち上らせていた。

その姿はまるで狼のような。王者としての風格すら感じるほどだ。

立ち登る魔力は渦を巻き、息苦しさすら感じる。これがかつての....


「ソウル様が生まれ、まだ間もないにも関わらず一方的に加護を授け、生死を彷徨わせたこのゴミ虫など処刑して当然。何より、この魂がもう耐えること叶いません。」


「爺...お前...」


「あはは!なになに!遊んでくれるの!いいね!いいね!遊ぼうよ!」


「遊ぶ、か。貴様はよほど私の怒りを逆撫でしたいらしいな。ならば望み通り遊んでやろう。自らの命が事切れ、灼熱の魔界(デモン)で永遠の時を過ごすこと方がマシであったと思えるほどにな!!」


「あはは!すごいすごい!とっても楽しそう!妖魔族第四師団団長エアリアル!負けないよ!」


「テレーズ様、カイン様。今一度名乗ることをお許しください。私は今一度ソウル様の為に!生涯を守り抜く刃となります!」


グリューエルと魔力に生命エネルギー、闘気が重なりさらに膨れ上がる。そして溢れ逃げ惑っていたそれらが全て剣と体に集約され、不気味なほど静かになる。


「我が名は()()、グリューエル・オルバ・リンドバーグ。....貴様を殺す者の名だ。」


刹那、グリューエルの姿が消えた。いや違う()()()()()のだ。

そしてその速度を殺さずエアリアルの背後から真っ直ぐに横なぎする。それをスレスレでかわすエアリアル。その余波で家の風防の役割をしていた木が一刀両断される。


「わぁ!すごいね!でもでも負けないよ!」


言うなり、エアリアルは体を中心にいくつもの光球を生み出しそれを打ち出した。

グリューエルに急速に接近し、グリューエルもまたそれらを剣で全て斬り伏せる。

そしてそれを返す刃で考えうる全ての角度から全て同時に斬撃を入れる。

しかしその瞬間、既にエアリアルはその場に居ない


「あはは!切られちゃうところだった!テレポートなかったら死んでたね!」


テレポート、時空間移動魔法。魔力の消費が激しく一度使えば魔法使いとして生涯使える魔力を全て消費すると言われる魔法だ。それをエアリアルは呼吸するように行ったとそう言った。


「でもでも!私は切れないよー!私のテレポートは空間の加護!それに緋色(ルビー)だからね!色無(エラー)なんてものがなければ、加護としては最上級なんだよ!」


緋色(ルビー)の空間の加護、おそらく妖魔族の隠し球のような加護であろうそれは、単体で盤面をひっくり返すだけの能力を持つ


「加護か。そうかならば私も加護を使おう。貴様に逃げられていてはソウル様に面目が立たぬのでな。」


「あはは!加護あるんだね!でもでも!私は相手の加護の色がわかるんだよ!私は緋色(ルビー)だけど君のは蒼色(サファイア)!私より2つも下のレベルの加護だね!どんな加護か知らないけど蒼色(きみ)じゃ緋色(わたし)に勝てないよ!」


エアリアルが自慢するように二つ目の能力を話す。ただ、そうだ確かに加護の色は戦闘に置いてかなり重要なものとなる。まして加護の色が二色かけ離れていれば戦いにすらならないはずだ。

そしてそれを聞いたグリューエルはエアリアルから離れているにも関わらず、剣も神速で振り下ろした。


「.....?」


俺はその動作の意味を理解できないままその姿を見守る、そしてグリューエルは口を開く。


「........そうか。だがもう終わった。」


「え?」


瞬間、エアリアルの体が()()()

そしてズレた場所を起点に血が飛び散る。


絶影(ぜつえい)


「え?...なんで,なん..で?」


「冥土の土産に教えてやろう。私の加護は影の加護。その能力は全ての影に干渉すること。ただまぁ私の色ではせいぜい、()()()()()()()()()()ことしかできなんだ」


俺は自分の目の前の光景を疑うしかできなかった。突然エアリアルの体がズレたのは、羽の付け根にある影に干渉し斬った、とそう言ったのだから。羽の影という常に震えまともに形を残していない影に刃を干渉させ断ち切ったのだ。


目の前で見せつけられた。これが剣帝の剣技。世界でただ一人、まごうことなき英雄の剣技だった。


「あは..は、すご...いすご...い、まけ...ちゃ...た。」


斬撃の余韻を残して、エアリアルは力なくその場に落ち、緋色の核を残して、


虚空に消えた。

読んでくださり、ありがとうございます。できるだけ早く次を書いて行きます。

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[良い点] 先が気になりますね [気になる点] 主人公、大丈夫なんですか...? [一言] がんばってください
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