妖精と公式チート
最近、コーヒーにハマりました。
誤字脱字などある際は教えてもらえると嬉しい限りです。
異世界転生して数日が経過した。
いまだに親の言っている言葉はわからないが、自分の名前と家族の名前ぐらいはなんとか理解できるほどになった。
まず、俺の名前はソウル・マーシトラス。なかなかに厨二心をくすぐられるいい名前をもらえた。
父の名前はネイト・マーシトラス、茶髪で短髪、筋肉質でやや日焼けた肌になかなかのマッチョ。20代後半?身長はパッと見180ないぐらいだが、赤ん坊になってることで目線も違うし、目測が間違っている可能性は十分にあり得るがおそらくは間違ってないだろう。仕事はなにをしているのかよくわからないが、庭でナイフをふるっている姿が窓からチラチラ見えている。
母の名前はソフィア・マーシトラス。腰ほどにある銀髪、整った顔立ち。異世界感万歳の美しい姿。親でなければ画像だけで3回イけるほどだ。年は20代前半かな?普段は長い髪を肩のあたりで木のバレッタのようなものでまとめているが、髪留めを解いた時のその姿は絵になると言ってもいい。仕事は産後なこともあって休んでいるのか、こちらもまだわからない。ヒーリングを使えるあたり、魔法使いなのか、それともかつて冒険者だったのか。パパンも外でナイフをビュンビュンしてるしね。ひとまず、赤ん坊特典でおっぱいが吸えることに感謝、感謝。眼福、眼福。
ま、まぁ、人生で自我が目覚めてから吸ったおっぱいがまさか二人目の母になろうとは思わなかったけど...
元の世界で恋愛っぽいことはあったにはあったが、致すこと叶わず。あと10年長生きしてたら多分魔法使いになってた気がする。二度目の人生、しっかりと10代で童貞を捨てていきたいものである。
話が逸れた。我が家は苗字があるあたり、割と裕福な気がするんだが、その決定となるものが一点。一人のメイド、一人の執事が居る、ということだ。メイドの方は異世界転生初日に見た亜麻色の髪の女性。名前はサーシャ。30代前半かもっと若いかぐらいだが、こちらも美人。ソフィアと比べると見劣りはするが、それでも美人の部類だろう。髪はミドルで短いポニーテールがふりふりしているのが素敵。個人的にポニーテール萌えなのでとても嬉しいところです。
ありがとうございます。家では掃除、洗濯、俺の世話など、さすがは異世界メイド、といったところだろうか。料理もしてくれている。俺はいまだ母乳を飲んでいるが、うまそうな匂いはずっとしているので是非とも食べたいところである。
もう一人が執事だ。いかにもって感じの60代ぐらいの白髪おじいちゃんでとても優しい顔をしている。爺、あるいは爺や、と呼ばれているので現状名称不明。家の細かな部分での管理とかやってそうな気がする、来客なども最初に対応しているのは爺やだ。デスクワークをしているのかインクの匂いが少しする。家の中では執事という役職ではあるが、俺からすればおじいちゃんだ。じいじのことはだいぶ好き。
しかし、毎日毎日同じ天井を眺めるのもそろそろ飽きてきた。今の楽しみなんて授乳と抱っこで家の中を見せてもらうぐらいのこと。病院の上のベット生活もキツかったがまだ娯楽があったからな。惰性で見るテレビも存在しないこの世界では時間が流れるのがまぁ遅い。
「あうあー」
「君、なにしてるのー?」
突然、声をかけられた。しかも理解できる言葉で、だ。俺は驚きながらその方向に目を向ける。
「あれ!君は見えるの!」
そこにはかなり小さい空飛ぶ人がいた。まさに妖精といったところだろうか。
青を基調とした服に4枚の羽、青色のティ○カー・ベルがそこにはいたのだ。
思わず目が点になる。だってそうだろう。妖精がいるんだもの。
これが異世界か、魔法で驚いたのも束の間次は妖精だよ、まいったね。さすがは異世界。まだスライムも見てないって言うのに。
しかし、待てよ。これはチャンスかもしれない。意思疎通できればこの世界の情報だってゲットできるかもしれない。俺の異世界生活がよりスタイリッシュに充実する足掛かりかもしれないのだ。
やっぱり神は俺を見捨てていなかった!チートチャンスは異世界転生で必ず訪れるんだな!
まさに携帯を買ってもらった中学生のような気分だぜ。
「あうあ?(妖精?)」
「うわぁすごい!見えるニンゲン初めて見た!それに私のことも分かるみたいだし!でも妖精みたいな小物と一緒にしないでほしいな!私は妖魔族の第4師団団長のエアリアルなんだから!」
妖魔族第4師団団長?会話が成立するのも喜ばしいけど、なんかすごい妖精に話しかけられたのでは?
ただの妖精じゃない。しかも名前付きときた上に師団持ち。なんらかの直属の部隊のトップって。ちょっと考えただけでも凄そうだな
「だから妖精じゃないってば!!妖魔!よ、う、ま!でも君!なかなか見る目があるね!そう!私はすごいんだよ!」
うわぁ考え丸ごと干渉してくるじゃん。どんなファンタジー...。しかもなんか頭の中弱そ〜。こんなんで師団長つとまんのかよ。エアリアル社の株暴落だよ。俺恐慌っていうのかな。こういうの
「君!初めて会ったのになんてひどいこと言うんだ!むむ!さては私の凄さを疑ってるなぁ?じゃあ特別サービスで君に私の加護をあげようかな!初対面で加護貰えるなんて、ほんとは泣いて喜ぶことなんだからね!」
加護....だと....?
勇者御用達公式チート、加護...なんて素晴らしいんだ。
ください!ください!お願いします!あ、でもどんな加護なんですか?
「わぁ君テンションの上げ下げと態度の切り替わり露骨だね。オベイロン様もため息着くレベルだよ」
いえいえ、そんなとんでもない。私はしがない赤ん坊ですから。まさか妖魔族第4師団団長、エアリアル様と出会えたことで少しばかり驚いていただけですとも。ええそうですとも。
「ふふん!やっぱり君は見る目があるね!そう!私は!妖魔族!第四師団!団長!エアリアル!」
きゃー!エアリアル様ー!加護くださいー!
「よーしじゃあ君にはどんな加護をあげようかな!ええっとじゃあそうだなぁ...よし!君には意思の加護をあげよう!」
意思の加護?なんだそりゃ?
「意思の加護はね、どんな相手でも意思疎通できる加護だよ!うーんざっくり言うなら誰とでも会話できる加護だね!」
はーそりゃーすげぇ。どんな言語も一発理解ってことか。まさに公式チート。
攻撃系じゃないにせよ、言葉だけでなく、相手の意思まで汲み取れたらとんでも詐欺師完成させちゃえるな。
「はいじゃー右手を上げてー?」
「あうあー!(よっしゃカモン!)」
「私は私はエアリアル。あなたにあなたに加護あらん」
エアリアルは俺の手のひらの上で踊りながら光散らし始める
「私は私はエアリアル。右手に右手に加護あらん」
エアリアルの散らした光が手のひらに集まっていく。
「私は私はエアリアル。あなたに刻むは意思の加護!」
刹那右手に激痛が走る。なんだこれ!痛ってええええええええええええええええええええええ!!
「ああぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「はいおしまい!」
その言葉で瞬時に痛みが消えた。そして右の手のひらに紋章が現れる。
刹那、言葉が頭の中に流れ込んできた。
「ソウぼっちゃニンゲンが痛い痛殺さな子供だけ踏まないデデデあの子を返しソウル様お前は一体なにしこのバカ弟子はなんでこんなとこ貴様を処刑しいやだお母さん離れないで奴隷になったお金をかえゴミどもがニンゲンは一体お父さんは立派だこれで邪神様がなんでなんでえええまってどこいくの姫様は一体なにを殺してくれぇえええソま青にあんbdsこうjdしにcしあんふぇなcいぢんcぢbcえwぼく」
思考に言葉が割り込んでくる。幸福、心配、恐怖、殺意、悲しみ、動揺、尊敬、感謝、絶望、理解、希望、孤独、願望、悪意、絶賛、全ての意思が満遍なく世界から聞こえてくる。
甘い考えを抱いていたのかもしれない。両親の言葉がわかったらいいなどと。
そんな程度で受け入れたはずがそれらをぶち壊す情報量を持っているなど考えにすら辿り着かなかった。
悠々自適に世界を生きていく自分の姿しか想像できなかった甘さが招いた結果だった。異世界というものを見聞きした程度で推測ってはいけなかったのだ。自分の持っている秤で測ってはいけなかったのだ。
しかし、そんなことを後悔する暇も、いとまも、時間もなく、人の、植物の、動物の、魔物の、龍の、獣人の、奴隷の、殺人鬼の、死刑囚の、孤児の、海の、妖精の、風の、全ての意思が満遍なく聞こえてくる。
脳内に駆け巡る意思、人格を塗り潰さんとする意思、心を破壊する意思、が止めどなく、止まることなく、溢れていく。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁヴあっっぁぁあ」
まっさらなキャンバスにペンキを缶ごと投げつけるように脳が染まっていく。
次から次に意思が流れ込み、その度に体がエビのように跳ね蠢いてしまう。
「あれれ?大丈夫ー?あ、すごいすごーい!意思の加護が色無だね!」
辛うじてエアリアルの声が聞こえるが、それどころではない。
世界中から聞こえてきている全ての意思が、自分を塗り潰そうとして止まない。
「すごい!すごい!意思の加護の色無なんて滅多にないよ!せいぜい、自分に向けられた意思が聞こえる程度だからね!色無した加護だって珍しいのに意思の加護で色無ならどうなっちゃうんだろ!世界中から全部聞こえるのかな!あはははすごいすごい!ひっくり返った芋虫みたーい!」
エアリアルが笑っているのが見える。けれどその事を理解できるキャパシティが無い。頭も心も全部が他人の意思で埋め尽くされてしまっている。けれど、辛うじて聞き取れた言葉をおうむ返しすることがなんとかできた。
それこそ、意思の力というものに他ならないが。
色無....?
「あはははは、ビクビクしてる、はーこんなに笑ったの久しぶりだよ。ふー、はー。色無のこと教えてあげてもいいけど、君そのままだと多分心が擦り切れて他人に塗りつぶされて死んじゃうでしょ?死んじゃう人に話しても仕方ないからなぁ〜。あ、そうだ!じゃあ一年経っても生きてたら教えてあげるよ!多分それまでに死んじゃうけど!』
エアリアルはただただ笑って俺に条件を突きつけてくる。言葉と同時にエアリアルからの意思も感じるがそれは全て『喜び』の一点のみ。見下されているのでもなく、ただひたすらに俺の様子を見て笑っているだけ。
人間という枠にない存在故の心を、強制的に送り込まれ、理解する。
人を、命を全てをおもちゃのように嘲笑うことができる寿命からかけ離れた価値観を。
「んじゃね〜!異世界の旅人さん」
エアリアルが言った最後の言葉を、俺は記憶に止めることなく気絶した。
色無は呪術廻○戦でいうところの特級みたいな感じです。