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自由と不自由、幸福と不幸

「おいしい!」



サンは1人でアランから受け取ったパンを食べていた。

少し塩味の効いただけのパンがサンにとってはおやつのようなものなのだ。



「……なくなっちゃった」



気付くとサンの手にパンは残されていなかった。

パンの入っていた袋は部屋の床に捨てられているがサンは気にしない。



四角形の何の変哲もないただの部屋。

その部屋には娯楽やおやつなどは存在しない。

1人用の小さく柔らかい椅子が無造作に置かれているだけ。



サンは1日の大半をそこで過ごしてそこで寝る。

もちろん部屋に鍵などかかってはいないがサンは外の世界にさほど興味がないのだ。



外の世界にあるのは自由という名の不安定であることをサンは知っている。

自分が今よりもっと幼い時に経験してきた自由はその言葉ほど満たされたものではなかったから。



サンがパンを食べるために無造作に捨てた袋を見てサンは過去を思い出す。

その袋のように捨てられた自分のことを。




-------




知らない男たちに使われていた過去。


唯一の楽しみは男たちの部屋に飾ってあった花を見ることだった。



窓際に置かれて光の差した日に綺麗に咲くその花の名前がヒマワリだと聞いたのはしばらく後の話だ。



毎日毎日、サンは苦しんでいた。



何かを飲まされていた、何を飲んでいたかは分からない。

何かを食べされられていた、何を食べていたかは分からない。

顔を殴られ、身体を蹴られていた、理由は分からない。



ただ一つ言えるのはそれが辛かったこと。



だからこそサンは幼いながらに自由になりたいと思っていた。



そしてある日、外に出かけた男たちが帰って来なくなった。

理由はいまだに分からない。



サンは嬉々として外へ出た。

部屋に咲いていたヒマワリに目もくれず。



サンが願っていた自由になる日が訪れたのだから。



しかしそれはサンの望んでいた幸福などではなかった。



生きるためにどうすればいいか分からない。

何をすれば自分は生きていけるのかをサンは知らなかった。



森に行き、生きるために野草やキノコを食べた。

死ななかったのが幸運と言えるほどサンは苦しんだが。



川へ行き、生きるために魚や貝を食べた。

立っていられないほどの腹痛や吐き気に襲われたが。



サンは何も知らなかった。

そしてようやくサンは知ったのだ。

自分が何も知らないことを。



何をして、何を食べればいいのか。

どうすれば自分は生きていられるのか。



サンが唐突に手に入れた自由は幸せなどではなかった。

生きるということに縛られた自由という名の檻。



ある日、サンは野犬を拾った。

落石か何かで死んだであろうそれを見てサンは思った。



これは食べられるものなのだろうか?



サンはそれにかぶりつく。

動物臭くて硬くて筋張っていて。

それでも美味しく感じた。



そしてサンは血と肉の味を知った。

動物の肉は全て食べられるものだと考えた。



それからサンは動物を見つけては襲い掛かった。

噛み付いてきた野犬を殴りつけて殺して食べた。



しかしサンは考えた。

ふわふわした毛が邪魔だ、肉にたどり着くのを邪魔する皮が邪魔だ。



そしてサンは尖った石を拾ってそれらを削ぐことを覚えた。



尖った石で突き刺せば殴るより簡単に殺せることを覚えた。



そしてまたある日、サンはウサギを見つけた。

しかしそれはサンを見てすぐに逃げ出してしまった。



だがその先でウサギは野犬に噛みつかれて死んだ。



サンはその野犬を殺して2匹分の肉を手に入れた。



そしてサンはまた知った。

美味しいということを。



ウサギの肉は野犬と違って柔らかくて筋張ってなどいなかった。

獣臭さはあるものの野犬より幾分マシだった。



だがウサギを捕まえることはなかなか出来なかった。

ウサギはすぐに逃げてしまう、あの時は運良く野犬がいたがそう上手くはいかない。



美味しい肉が食べたい。

自分1人でも先回りできるようにならなくては。



サンは野生でそれを学んだ。

今相手がどこを見てどう動こうとしているか。

どうすれば相手より先に回れるのか。



相手の目を見ることを覚え、空間を把握することを覚えた。



今、どこに何があって相手がどう動くのか。



そして自分が遅いことを知った。



じゃあどうすれば早く動けるのか。

動く時、どこに力を入れればすぐに早く動くことができるのか。



つま先に力を入れて蹴り出す練習を足がボロボロになるまでやった。

皮が剥げてマメが出来て、そのマメが潰れてタコになる。

そのタコが剥けて潰れてもサンはやめなかった。



そしてまたある日。

ウサギを見つけた。



ウサギの目を見て睨み合う時間を作った。

その時間が出来上がった瞬間に足のつま先に力を入れる。



駆け出す瞬間、足に光のようなものが纏われていた。

それがこの世界における魔力だというものだなどサンには知る由もなかったわけだが。




そしてウサギが逃げようと後ろを向いた時。





サンは既にそこにいた。



サンはウサギの首根っこを掴んでその場で首を捻って殺した。



そしてその日が運命の日だった。



それを見た男がいた。

それが現在サンの隊長に当たるアランだった。



そこでサンはアランに攫うように王国に連れていかれるのだがそれはまた別の話。



「あ!王様に褒めてもらってない!!」



サンはふと思い出すと急いで部屋から出た。



今日の成果を王様に褒めてもらっていないと思い出したからだ。



強くて優しくてサンから自由という不幸を奪ってくれた王様。

お洒落で立派でサンに不自由という幸せを与えてくれた王様。



サンはいくらか綺麗になった足で王室の方へ駆けていくのだった。

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