7話。。転校生
「・・・・おい、大丈夫か?」
「おぅ、なんとか」
学校に着いた俺は、自分の席につく前に教室でこけてしまった。
朝の件が、精神的にも肉体的にもダメージを残したらしい。
倒れた俺に声をかけ、手を伸ばして引っ張り起こしてくれたのは言うまでもない、帳 洸薫〈とばり こうた〉だ。
「ありがとう洸薫。」
俺は起き上がって制服についた埃をはたく。
俺の席は洸薫の隣、一番後ろの窓側、という好ポジションだ。
「しかし、樹夜。こけたお前は笑えたぞ。」
洸薫が口元に手をあてながら、プッと吹き出す。
そんなこと言われんでもわかってる。
こけた瞬間教室の隅々から笑い声が聞こえたからな。
「はぁ、今日は厄日だ・・・・。」
俺はそう呟きながら自分の席につく。
「ん?何かあったのか?」洸薫が一応聞いてやるか、見たいな声で聞いてくる。
「まぁ、色々と、だな」
魔物とか霊能力とかそんなこと言ったら、あだ名が電波野郎になっちまう。
「むぅ、気になるな。教えてくれ。」
洸薫が眼鏡を上げながら聞いてくる。
どうやら少し興味をもったらしい。
「敢えて言うなら・・・・金髪ロリがうちに来て樞と言い争って、俺がそれに巻き込まれたって感じ?」
「金髪・・・・『ロリ』だと?」
やっぱりロリに反応しやがったか、変態め。
「まぁ、ロリ。たぶんお前の好みだと思うよ。童顔でAカップくらいだったな、確か。」
俺は朝起きて、揉んだ胸の感触を思い出す。
「よし、今日樹夜んち行くぞ!部活は休む!」
洸薫が目、もとい眼鏡をキラキラさせながら俺の手を握ってくる。
「はなせアホ、気色悪い。」
俺は洸薫の手を振り払うと、こう言ってやった。
「たぶんたが・・・・こういういきなり現れた美少女ってのは、転校生として同じ学校に通うパターンが多いんだぜ?」
ガラガラッ、俺がそう言うと同時に担任の五十嵐 満〈いがらし みちる〉ことみっちーが教室に入ってきた。ちなみに21歳独身。
「みなさ〜ん!今日は可愛い転校生が来てくれましたよ!なんと女の子です〜!」
「「きたこれぇぇぇーー!!」」
洸薫含め殆どの男子が歓喜の声を上げる。
俺はため息をつくしかない。
(やっぱり、こうなったか・・・・)
案外、漫画やゲームから得る知識も馬鹿にできない。
そんなうるさい男子を先生が宥める。
「皆さん、静かにしてくださいね〜。さぁ、転校生さん、どうぞ〜。」
静かになった教室だが、それと反するように熱気が高まる。
「皆さんこんにちは、エリア・ヴァンスといいます。よろしくお願いします。」
ペコリと頭を下げるエリア。
見た目外人なのに流暢な日本語。
「やべぇ、どストライクだ・・・・。」
洸薫はそう言うと席を立ち、エリアの方に歩いていく。
「こんにちは、エリアさん。俺は帳洸薫、よろしければ結婚を前提にお付き合いを・・・・」
「うるさい、童貞眼鏡。お前なんかピーしながらピーしてピーになっちまえ、ハゲ」
エリアは洸薫の台詞を遮ると、かなりひどい言葉で罵った。
教室が静まりかえる。
だってそうだろう?
美少女転校生に心踊っていたら、そいつが汚い言葉でクラスメイトを罵る。
期待してた分ショックも大きいだろう。
直接言われた洸薫なんて真っ白になってるよ。
あれ?身動き一つとってないな。まるで屍のようじゃないか。
やれやれ、流石に可哀想になってきたから救出してやるか。
俺は席を立ち、白い物体(洸薫らしきもの)のとこまで行くと、それを掴み席まで戻った。
もちろんエリアは無視して。
俺たちが席につくと、先生が話を進める。
「じゃあ、転校生さんの席は〜・・・・。」
教室全体から唾を飲むような音がする。
「樹夜君の前の席で〜。」
おいおいおい。俺の前の席には吉田君が居ただろう。
まて、これはあれか?よくある、転校生の席にいるはずの元クラスメイトは消えてしまうパターンか?
「先生、吉田君は?」
俺は恐る恐る手を上げる。
「吉田君は、隣のクラスにプレゼントしましたぁ〜。」
「そ、そうですか。」
吉田君。物扱いの吉田君。俺は君のことを忘れない!
俺は涙ながらに吉田君を哀れんだ。