1話。。お地蔵様
屋上、それは割りとよくある告白スポットだったりする。
それはうちの学校も同じようで。
「・・・・っっ。好きです。付き合ってくださいっ!」
「・・・すまん。今、好きな人いるんだ。」
その一言に告白した女子生徒は涙を浮かべながら走り去っていく。
そんな様子をボーッと見ている俺の名前は、千歳 樹夜〈ちとせ みきや〉。
もちろん告白されてるのは俺ではなく、俺の友人、帳 洸薫〈とばり こうた〉ということは、この学校の生徒ならよく知ってるはずだ。
「また断ったのかよ、もったいねぇ。」
俺の一言に洸薫は顔をしかめる。
「ばぁか。樹夜は俺の趣味わかってんだろ?」
そう言いながら眼鏡をクイッと上げる。
そう、こいつは特殊な趣味がある。
まぁ、一言で言うと所謂ロリコン。世にいう変態なのだ。
しかし・・・。
「お前、さっきの子中等部の藤宮さんだろ?ギリギリロリなんじゃね?」
そう、うちの学校は中等部、高等部からなる学校でエスカレーター式、つまり中学でうまく入学できれば試験いらずで高校生になれる。
そういうのが目的で中学入試を頑張った例がここに一人。
もちろん俺のことだが。
「はぁ・・・お前はわかってないなぁ。」
と、洸薫がため息をつく。
あほか、俺はロリコンの気持ちがわかるほど落ちとらんわ。
「ロリコン、その真髄は胸にある。顔は俺好みの幼い顔だったが胸がダメだったな。あれは推定Cカップはあった。俺はA以上は認めな――――――。」
なんかごちゃごちゃと語っているが聞き流そう。
なんでこんな変態がもてるのか、というと、まず頭脳明晰。実力テストでは必ず上から3に入る。
次に運動神経抜群。100メートル10秒台の化け物。
で、最も大きい理由が顔。こいつの顔はそこらのイケメン俳優もビックリするくらい整っている。
ちなみに高等部に進学して2週間。
告られた回数20以上というありさま。
「ったく。ロリコンじゃなかったら今ごろハーレムくらい作れんじゃないの?」
俺の一言に洸薫はフンッと鼻を鳴らす。
「あほ、ハーレムなんてもっての他だ。俺の愛は一筋だ。」
なんでロリコンのくせにまっとうなんだよ・・・・。
「まぁいいや、お前そろそろ部活なんじゃね?」
俺の一言にムッと眉をひそめると、時計を見ながら手をシュタッと上げる。
「遅れてしまう。ではまた明日な。」
「はいよ、またな。」
告白というのは大抵放課後なわけで、俺は帰宅部。つまりさっきの告白を見守ってたのは暇潰し。
「っと、俺も急がなきゃな。」
今日は妹こと嘉那 樞〈よしな かなめ〉の誕生日だったりする。
実は昼休みくらいにふと思い出したのだが。
というわけでプレゼントを買いに行かなければ殺される。
比喩表現ではなく、リアルに殺される。
妹は怒るとかなり恐いのだ。
俺は屋上のドアを開けると階段を駆けおりた。
弥生商店街、弥生町唯一の商店街で俺の通う弥生学園からは歩いて15分くらいのところにある商店街だ。
俺は商店街に来てみたもののプレゼントに何を買えばいいか悩んでいた。
(くそぅ、樞に欲しい物聞いとくんだった。)
俺は携帯電話を取出し電話帳を開く。
もちろん妹と母以外の女性のアドレスなど知るはずもなく、どうしたものかと唸る。
(・・・確か、気持ちさえこもっとけば何でも嬉しい、なんて言ってた女の子がいたな。)
もちろん2次元の話。
3次元の女の知り合いはほとんど洸薫繋がり。
「・・・・・はぁ」
俺はため息をつきながら、何かいいものはないか、と商店街を歩く。
「・・・・??」
ふと気になって立ち止まる。
何か妙な視線が・・・。
俺はキョロキョロと見回すがその視線の主がわからない。
神経を集中させ視線の元を探る。
「裏路地か?」
ふと目に止まった裏路地へ続くわき道。
俺は何かに誘われるように裏路地へ足を運ぶ。
路地をゆっくり進んで行くとお地蔵様がぽつん、とたっていた。
それを見た瞬間、背筋がぞわっとなり変な疎外感を感じる。
本能が告げている。
早く逃げろ、と。
しかし、足はいうことをきかず縫い付けられたように動かない。
「・・・・・こりゃびっくり。」
俺は久しぶりに感じるこの感覚に身震いする。
「そなた、大丈夫か?」
後ろから声がする。
誰かしらんが路地に入ってきたらしい。
声から察するに女の子だな。
「誰かわかんないけど、早く逃げたほうがいい。引きずりこまれるぞ。」
クスッ、俺の言葉を聞いて後ろのそいつは笑う。
「私に逃げろと?こんな雑魚相手に?」
後ろの挑発めいた言葉にお地蔵様が反応した。
「・・・雑魚?神である我に向かって。」
その声はお地蔵様から聞こえる。
低く、それでいて暗い。
そんな声。
「ふん。何が神か、堕ちた神ふぜいが調子にのるな。」
その言葉を聞いたお地蔵様がカタカタと揺れはじめた。
「お主、人間ふぜいがしゃしゃるな。」
怒気のこもった声とともにお地蔵様から黒い影が伸び犬のような形をとる。
「人を食らう堕ち神に言われとうないわ。しゃしゃりはそちじゃろ?」
「・・・コロス、コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス・・・・」
犬の影はただコロスと唸りながら怒気を高めていく。
後ろの気配が俺に近づいてくる。
俺の目の前に現われたのは中学生くらいの女の子だった。
金髪を後ろでくくりポニーテールにしている。
「燃えろ」
その女の子が手を前に出し、静かに言い放つ。
すると、犬の影を包むように火が影を燃やす。
「くっ・・・狩る者・・・・。しかも外国の・・・・・」
犬はそう言い残すと頭に響くような悲鳴を上げ消え去った。
俺は動けるようになった足を確かめつつ考えた。
なんだ、この展開。
嫌な予感がする。
消えそうになった火を見つめながら微笑む金髪の女の子を見つめる。
(・・・関わったらダメな人だ。)
そう判断した俺はターンすると走って逃げ出した。