Part.01 眠れない街
かつて平和であった東京...どれくらい平和だったかというとまぁ、今これを見ている貴方達が住む世の中程の平和だった。人は幸せに暮らしていた。目に見えぬ恐怖に怯えることもなく、起こりうるである危険を恐れることもなく───。そこの公園で走る少年が、段差に躓いて手に持つアイスを落とすことも、信号を待つ一人のサラリーマンが、数秒後に交通事故にあうことも、マンションの三階のベランダで洗濯物を干す女性が、不注意で育てていた植物を落としてしまうことも、そしてその下をたまたま通った宅配業者の頭に落ちることも───。
「まさか自分に限りそんな目に合わないだろう」
人々は皆そう思ってしまう。しかしだからこそ見える平和に人々は浸っている。辛くても平和に浸っている。そんな腑抜けた毎日を過ごしていた。
「はぁ...はぁ...」
しかし残念ながら平和というものは───
「はぁ...っ...くそぉっ...!!」
いとも簡単に崩すことができるのです
「はぁ...はぁっ...!!...ぅうっ...」
どれくらい走っただろうか。逃げることに必死だった僕は自分の体が悲鳴を上げていることに気づかなかった。疲労で膝ががくがくと震え、乾いた喉が砂礫を飲み込んだかの様に痛み、それは肺や胃にまで生じた。
「...ぁ...あぁ...」
一度立ち止まってしまった僕は残りの気力を振り絞り、ビルの隙間に身を隠す。もう、動けないだろう。
「く...そぉ...」
思わず目を疑った。確かに最初、僕は三人の友人と一緒にいた。そしてただいつも通り馬鹿みたいに遊んでた。それが急にどうなった?急に狂った人々が襲いかかってきたんだ。友人の一人が鉈で切り裂かれ、一人は酸で喉が爛れ落ち、そしてもう一人は木槌で頭をふっとばされた。
何がどうしてこうなった?
あの人達は何故急に狂いだした?
しかし彼らだけではなかった。あちらこちらで人を殺す狂人がいたのだ。確かに殺人が無いわけではなかった日々だったが、ここまで殺伐としていたのは初めてだ。まるで僕の知っている東京じゃないかのようだ───
「...っ!?」
すぐそこまで狂人が来ていることに気づいた。手に持つのは...砲丸?砲丸投げの選手か...?
「ぐ...ぁ、がぁ...!!」
まずい、まだ体が回復していない、殺されてしまう!!
「そこを動くな少年!!」
ふとそんな声が聞こえた。と同時に辺り一帯が白い霧...いや、煙か?何も見えなくなる程白い煙が覆った。
「な、何...!?」
そしてすぐ近く、砲丸投げの選手がいた辺りで何か音が聞こえた。しかし何が起こっているのかは白い煙のせいで認識することができなかった。
視界が慣れるより先に煙が薄れ、辺りが見えるようになった。ふと、音の辺りを見てみると、一人の男が倒れている。さっきの選手が頭から血を流して...いや、首から上が無くなっている。
「大丈夫か、少年」
さっきの声が、声の主と同時にまた認識できた。彼は忍の様な服を纏っている。
「あ、貴方達は...?」
「説明は後だ、一先ず君を安全なところへ避難させる。立てるか?」
「あ、ん...うぅ」
「...無理そうだな。シックス、護衛は頼む、この少年を背負ってシェルターへ向かう!!」
「了解で〜す」
一体全体何が何だか分からなくなってきた。何が起こっている?彼らは敵じゃない?何処へ連れていかれる?
かつてない恐怖が少年を襲った。
そう、平和を崩すのはとても簡単なのです。
そして平和を取り戻そうとする者達が現れるのです。