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その幻想術5

 結局、作家たちへの聞き込み調査は、何者かもしくはどこかの組織からの妨害を受けているという事実だけを確認して終わった。成果がないとは言わないが、進捗は決して順調ではないだろう。しかし、とりあえず予定していた聞き込みを終えたところで、その日は解散となった。無理をして深夜まで作業をしようにも、調査方針が立たなかったからである。

 そして、翌朝。

 黒須と空斗の姿は、超特異拉致対策二課のオフィスが入っているビルの地下にある訓練場にあった。

 訓練場とはいうが特殊な器具やモニター等があるわけではなく、コンクリート打ちっぱなしの壁に囲まれた味気ない空間である。ただし、その内装の無骨さに見合うように、強度だけは一級品。何故なら、この訓練場のユーザーには本気を出すことはないにせよ、最強の帰還者であるケースAA——降綱 詩由莉がいるためである。

 とはいえ、今日訓練場で身体を動かしているのは空斗だけである。


「はっ!やっ!」


 空斗は声を出して気合を入れながら、その手に持った剣——当然、彼の相棒であるアズライトの剣形態である——を振るっていた。

 彼に剣術や剣道を体系的に学んだ経験はない。完全に独学の荒削りな剣。しかし、そこには実戦で研ぎ澄まされたもの特有の機能美が備わっていた。


「おーっす、やってる?」


 本人には言わないが、内心黒須が空斗の鍛錬姿に感心していると、そこに特三の課長であるカトラがやってくる。気の抜けた挨拶同様、彼は昨日とほぼ同じ適当な服装をしていた。

 黒須としては仮にも職場にそんな格好で顔出すことに呆れているのだが、いい加減彼との付き合いも長いため、特に触れはしなかった。


「何を壁際で腕を組んで師匠ポジ気取ってんだ。まだ、そんな歳じゃないだろう。一緒に汗を流してくればいいだろ?」

「ケースNA(エヌエー)の俺じゃあ、準備運動もついていくのがやっとさ。お前こそ、宝珠戸の相手をしたらどうだ?」

「お前の力を見せてみろ——的な?良いねぇ、その強キャラムーブ。機会があったらやってみたいわ。出来ないがな!」


 たはは、と何処か他人事のように笑うカトラ。そんな彼の言葉が気になったのか、訓練を打ち切った空斗が近づいてくる。


「昨日聞きそびれたんだが、カトラさんってケースBじゃないのか?」


 完全に自分と同じケースBだと思いこんでいたのだろう。タオルで汗を拭きながらも空斗が問う。ちなみに空斗は当初カトラのことを苗字で呼んでいたのだが、本人が呼ばれ慣れていなくて気持ち悪いという理由から下の名前で呼ぶことになった。


「どう思う?——なんて、冗談はおいておいて、俺はケースEだよ」


 ケースE。通称、例外 (Exception)。

 基本的にどのように帰還したのかという一点のみで決定されるケースにおいて、どれにも分類できなかった者に贈られるケースである。総じて、破天荒な帰還方法をした者や、あまりに帰還方法と本人の能力がかけ離れている者がこのケースに分類されていることが多い。


「俺はさ、ほとんど幻想術が使えないんだわ。曲がりなりにも幻想心臓(イマージナル・ハート)はあるから身体能力は一般人よりマシだけど、帰還者の中でもクソ雑魚な方だね」

「幻想術が使えない……馬鹿にするわけじゃないが、それでよく帰って来れたな」

「まー、あっちでは使えたからな」


 カトラの発言に、いよいよ空斗の混乱は極まっていた。それに気付いているのだろう。原因であるカトラはニヤニヤしているだけである。

 このまま話していても新人の混乱が増すばかりなので、仕方なく黒須は助け舟を出すことにした。


「宝珠戸、お前こっちの世界に帰ってきてから、幻想術の使い方は変わったか?」

「いや?向こうにいた時にスキルを発動していたようにすれば使えるが……こんな感じで」


 空斗が手にしたアズライトを掲げると、その刀身が微かに光る。空斗が唯一使える幻想術——生涯一振りの剣とのみ契約し、それを鍛えるの一端である刀身修復である。

 この幻想術は多少のひびや欠け程度であれば完全に修復するものであり、特にそういったものの無い時にも剣にとっては何らかの効果があるらしく、アズライトからは「むっふー」という気合いを入れたような台詞が棒読みで聞こえてきた。


「研修で習ったと思うが、この世界でお前が今まで通り常ならざる現象を引き起こせるのは幻想心臓にその術式が刻まれているからだ。そして、カトラの幻想心臓に刻まれていた術式の大半は世界に張り巡らされた術式にアクセスするものだったんだ」


 ——例えば、ステータス画面を開くような。

 ——例えば、戦闘に勝利することでレベルが上がるような。

 ——例えば、世界を歩けば、自動的に地図が形成されるような。


 そんな果てしなくゲーム的な仕様を、その世界の管理者はカトラへもたらしたのである。その方法は、世界自体に高度な幻想術を張り巡らし、カトラにはそこにアクセスをする様々な幻想術を与えるというものであった。


「ってなわけで、異世界限定の幻想術に特化した(おれ)は、哀れクソ雑魚になったのでしたっと。ま、世界に依存しない得意属性は多少使えるし、日常生活ではこの程度の方が便利だったりするから気にしてはいないけど」


 と、カトラが袋に手を入れるような動作をすると、彼の手首から先がどこかへ入ったように消失する。そして、彼の腕が引き抜かれるとその手には携帯電話が握られていた。ちなみに、どうやって感知したのか着信アラームが鳴っている。


「はーい、もしもし。こちら特三、課長のカトラ・テルヴォロ。あー、はい。やっぱり四源家はノータッチと……。了解。どうもでーす」


 とてつもなく雑な口調はあったが、少し考え込むような表情で話すカトラ。彼は電話を切るとやれやれと首を振った。


「やっぱ、四源家はノータッチだな。裏取りを頼んでいたのが、上経由で俺にきたわ」

「やはりか……」


 黒須とカトラが納得する中、やや置いていかれているのは空斗とアズライトの二人である。この世界にまだまだ疎いアズライトに質問させるわけにもいかず、空斗は電話の内容について尋ねることにした。


「なあ、昨日も話してたけど、四源家ってこの世界にいる幻想術が使用可能な奴らだよな?」

「ああ、今でこそ絶えてしまったが大昔には常ならざる術を使う人間はこの世界にも一定数いたからな。そうした人間たちの内、国内で生き残っている四つの旧家が四源家だ」


 世界を超える拉致は、幻想力が低い世界ほど防御力が低いため標的にされやすい。この幻想力は科学技術の発展に伴い減少するため、超特異拉致が増え始めたのは近年なのだ。そして、科学技術の発展以前には、日本にも異世界のように幻想術を使える者はいたのである。

 こうした者たちは——特に脈々と続く旧家には幻想術の強度こそケースCの帰還者レベルである者が大半であるが、変わりに国の中枢深くまで根ざした発言力やこの国特有の幻想術についての知識を有していることが多い。

 特に前者に関しては政治的な力に直結するため、超特異拉致対策課を立ち上げる際には、特二課長の左庭と共に黒須もご機嫌伺いをしたものである。


「そんな家がどうして特三の邪魔なんかするんだ?」

「色々あるのさ、メンツとかプライドとか。怖いぞー四源家は。夜鳥家なんてほとんど極道だからな」


 やや茶化すように空斗に詰め寄るカトラ。しかし、それが半ば冗談では無いことを黒須は身をもって体験している。

 とはいえ、本件には関与していないことがいよいよ確実になったため、黒須は四源家のことを一旦頭から追い出した。


「幸い今回、四源家と絡む必要は無いみたいだからな。こうなると詩由莉の方がどうなるかだが、あっちも期待薄か……」

「降綱は今、特一だっけか?」

「ああ、今俺が行くと、無駄に刺激するからな。ただ、詩由莉は詩由莉で心配だが……」


 と、黒須は珍しく隣にいない相棒の身を案じる——わけではなく、彼女が問題を引き起こさないことを祈るのであった。



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