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明るい方へ誘われて

作者: Rink

俺には彼女がいる。

社会人になって2年目の俺には大学から付き合っている彼女がいる。


俺は今病院の前にいる。

彼女に面会するためだ。

昨日病院に呼ばれた。会社から飛んで行った。

「私、ずっと前から病気なの。あと、一週間で死ぬみたい。」

彼女は笑っていた。いつも俺に見せてくれていた笑顔をその時も見せてくれていた。

「だからさ、別れよ。」

「いやだよ。」

「なんで?このままだと君が傷つくだけじゃん!」

「分かってない!分かってよ。」

俺は怒っていた。

「何を?私は君のことを思って!」

「俺のことを思うなら別れようなんて言うなよ!」

「え?」

「俺はお前と別れる方が辛い!最後まで一緒にいたいに決まってるだろ!」

「なんで?そんなのいずれ君は傷つくじゃない。」

「それでいい。いずれ傷つくなら後回しにしたい。俺はそんな人間なんだよ。お前と一緒にいたい。最期まで。」

心の底からの本音だった。俺たちが喧嘩したのは初めてだった。

「明日から毎日来るよ。仕事が終わったらすぐに。」

「そう。ありがとう。でも辛くなったら、別れてもいいよ。」

「お前は俺と別れたいのか?辛くなるわけないだろ。」

「そんなわけないじゃん。」



・1日目

そして今日になる。

俺はノックする。

「どうぞ。」

中からいつもの明るい声が聞こえてくる。

「よ。元気か?」

「そう聞かれるとこまるなぁ。」

「それもそうか。」

「まぁ。元気だよ。」

「それは良かった。これ、フルーツ。お前メロン好きだっただろ?」

「おぉ。分かってるではないか。」

「んだよそのキャラ。ベッドの横行っていいか?」

「うむ。ちこうよれ。」

「だから、なんなんだよ、それ。」

俺は笑いながら椅子に座る。

「なんか欲しいもんあるか?」

「ないにゃぁ。生憎。」

「次は猫か。」

「にゃふふ。」

いつもノリが分からん。

「まぁ、漫画でも明日買ってきてやるよ。」

「ありがとだにゃ。」

「そう言えば今日、会社の後輩がいい歌紹介してくれたんだよ。」

初々しい恋模様をポップに歌い上げた曲だった。

「その後輩は女?」

「女だな。」

「じゃあその子と世間話禁止!」

「なんでだよ。」

「私が死ぬまで、私だけのもの!」

「分かったよ。」

「ニヒヒ」

可愛い。

「面会時間終了ですー。」

看護師さんが来た。

「じゃあ、また明日。」

「うん。また明日。」



・2日目

俺は昨日寝れていない。飯も少ししか食べていない。

仕事が終わり、すぐに病院に行った。

ノックをする。

「どうぞー。」

相変わらず明るいこれが聞こえてきた。

「よ。これ漫画な。」

「おー。ありがとう!ってあれ?なんか疲れてる?大丈夫?ちょっとやつれてるよ?」

「そうか?気のせいだろ。」

「えー、そうかな?」

「お前こそちょっとしんどそうだが?」

「バレたかー。食欲が沸かなくてねー。」

「大丈夫かよ。」

「大丈夫かどうか聞かれてもなー。」

俺たちは大学での思い出を語り合った。

「じゃあ、また明日。」

「うん。また明日!」



・3日目

きのうもやはり寝れていない。飯も少ししか食べていない。

ノックをしようとした時、横から、

「おっ!もうきたんだ!早いね。」

あいつが立っていた。相変わらず明るい声だ。

「仕事がんばったんだよ。お前こそなんでそこに?」

「レディにそんなの聞いちゃダメだよ!」

どうやらお花摘みらしい。

よくみるとあいつは昨日よりもやつれているように見えた。

「またやつれてないか?元々ガリガリなのがさらにガリガリになってるぞ。」

「おっとー。それはさらにナイスバディになったってことかい?」

「更に弱そうになったってことだよ。」

「なら守ってよ。」

「そのつもりだ、安心しろ。」

「たなもしぃねえ。」

「だろ?」

その時俺は1日目に教えられなかった歌を思い出した。

「二人で歌聞こうぜ。」

「いいよ。その前に部屋に入ろ。」

「それもそうだな。」

俺たちは部屋に入った。

「んじゃ、聞くか。」


聞き終わると、あいつが

「この歌は、明るすぎてちょっと似合わないね。」

と言った。

「そうか?俺たちは明るいだろ。」

「そうだね。」

そこで面会時間が終わった。

「じゃあ、また明日な。」

「うん、また明日。」



・4日目

昨日は寝れた。寝たと言っても1時間程度だ。

飯はやはり少ししか食べていない。

病院に着いた。面会時間はほとんどないだろう。

残業してしまった。後輩のミスを押し付けられた。

まぁ文句を言っても無駄だ。

ノックする。

「どうぞ!」

いつもより明るい声が聞こえてきた。

「よ。」

「遅かったじゃん!どうしたの?」

「意図せず残業になっちゃってな。」

「寂しかったよー。」

「すまん。」

「何か明日埋め合わせするよ。何か欲しいものあるか?」

「うーん。明日まで考えさせて。」

「そうか、お前の顔が見れて良かったよ。」

「なにそれー。まあ、私も嬉しいけど。」

もう面会時間が終わってしまった。

「じゃあ、また明日な。考えといてくれよ。」

「うん、また明日ね。考えとく!」


今日のあいつは昨日よりもやつれていた。

心配だ。今日も眠れそうにない。




・5日目

昨日の予想通り、寝れなかった。飯も食えなかった。

ノックをする。

「どうぞー。」

「よ。」

「おー。来たねえ。」

「そりゃ来るよ。約束もしたろ。ところで欲しいもの決まったか?」

「うーん。決まったけど。明後日の私の誕生日に欲しいかな。」

「そうか、先に言ってくれないと用意できないぞ。」

「いや、用意するものじゃないよ。」

「ん?そうなのか?まあ良いか。」

「今日はなにしよっか?」

「なんでも良いぞ。」

「なら、お互いの好きな場所言い合おう。」

「良いけど。恥ずいな。」

流石に俺でも恥ずかしい。

「んじゃ私から。顔!」

「いきなり直球だな。んじゃ声。」

「お?声か、なら背が高い所!」

「背が低い所。」

「そこかぁ。ちょっとコンプレックスなんだけどなぁ。なら目!」

こうして長い間言い合った。

「これが最後かなぁ。側にいてくれること。普通はもう別れてるよ。」

「んなことないって。俺的にも一緒に、いてくれる事かな。」

「照れますなぁ。」

あいつは照れていた。

「もう面会時間終わりか。また明日な。」

「う、うん!また明日!」



・6日目

最後にあいつが言葉に詰まったことがきになって、寝れなかった。

食欲もなかった。

今日は土曜だ。だが俺は出勤になった。

ノックをする。

「どうぞ。」

いつもより暗い声が聞こえてきた。

「よう。どうした?元気ねぇな。」

「うん?そうかな?君も元気なさそうに見えるけど。」

「気のせいだとは言い難いかな?土曜出勤は疲れるんだよ。」

「そっか。」

それから俺たちは他愛のない話をした。


あいつは帰り際に

「もう明日は来ないで。」

「なんでだよ。誕生日プレゼントもまだだし来るよ。」

「君はそう言うよね。でも、泣いてる顔とか見たくないし、来ないで。」

その日俺は帰った。

明日も行ってやろう。



・7日目

ノックをした。

「どうぞ。」

「よ、来たぜ。」

「来ちゃったんだ。」

あいつは悲しそうにでも少し嬉しそうに言った。

「俺は約束は守る男なんでな。」

「そっか!」

あいつは満面の笑顔を浮かべた。

「ケーキ買ってきたよ。」

「え?なんで?最後の晩餐?」

「誕生日ケーキだよ。」

「嬉しい!」

「医者には許可とってるよ。」

「じゃあ私こっちもーらい!」

それから2人でケーキを食べ、少しゲームをした。

「んで、お前が欲しい誕生日プレゼントってなんなんだ?」

「それはね。君。」

「は?」

「聞こえなかった?君だよ君。」

「聞こえたよ。どう言うことか分からなかっただけ。」

「うーん。キスしたいな!」

「キス?」

「うん、キス。」

「分かった。約束だしな。」

あいつが目を閉じてこっちに顔を向けた。

「じゃあいくぞ。」

俺たちはキスをした。

一瞬のはずだった。永遠に続くような一瞬だった。


キスを終えて少し経つと、彼女の容態が悪くなった。

彼女は呼吸器をつけられて苦しそうに息をしていた。

俺は横で見ていることしか出来なかった。

日が変わる直前に医者に部屋に案内された。

「彼女はもう助かりません。おそらくあと10分程度でしょう。」

「そうですか。」

「それまでの間、話しをしてあげて下さい。」

「そうさせてもらいます。ありがとうございます。」


横にいる彼女は呼吸器を外していた。話すことはできるようだ。

「もう、時間みたいだね。」

「そうらしいな。」

「やけにサバサバしてるね。ちょっと悲しいなぁ。」

「もう、色んな感情が混ざってこうなってるんだよ。」

「それはうれしいなぁ。」

「そうか。」

「ねぇ、キス、もう一回しよ。」

「分かったよ。」

俺たちはキスをした。

唇を話すと。彼女はもう動かなくなっていた。

俺は眠たくなった。涙は出なかった。

久しぶりに俺は寝た。


夢を見た。幸せな夢だった。

彼女と空を散歩していた。

彼女は

「これからも守ってよね。誕生日プレゼントありがとう。」

と俺の守りたい弾けるような笑顔で言った。




短編を一つ書いてみました。異能ゲーム部精霊戦争も更新していくので待っていて下さい。

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