第1部
Leibstandarten SIEBENTZUG −またまた 護衛連隊 第7小隊ー
STAND ABLAZE
前回の任務以降、すっかり大トカゲは現れなくなり、ヴォルストブッフの都にもいつもの平和な日常が戻ってきた。
第7小隊の連中は相変わらず任務から干され、訓練という名の昼寝と、演習という名のハイキングを繰り返すだけの、
無為で怠惰な日々を送っていた。
つまり、前回の任務で彼等は、事態の収束という当初の計画を達成してはみたものの、未だに上層部からの絶対的な
信頼は得られてはおらず、待遇は全く改善されないままでいたのだった。
その日もヴィリー、ニート、アイヒの3人は、中央区域の一角にあるだだっ広い公園の中にある芝生に寝転んで
無意味な“訓練”を満喫している。
そこへ連隊本部へ呼び出されていたタウが歩いて戻ってきた。
「みんな起きろ、訓練は中止だ。新しい任務に出かけるぞ」
「何?任務だって?」
ヴィリーは芝生に転がったまま起き上がろうともせず、顔だけをタウに向ける。
目は半開きのまま、見るからにやる気が感じられない。
「トカゲの次は何だ、トカゲロンか?、ヒトカゲか?、それともモグラか?」
「え〜?モグラ?」
モグラと聞いて、両手を後ろについて上体を起こしたニートが、眉をひそめて嫌悪感を露わにする。
「いやよモグラなんて。 断ってよ、そんな任務」
「モグラなんて一言も言ってないだろ、いいから起きて話を聞け。
いや、アイヒは起こさんでいい、どうせ聞いても分からんだろうから」
「またトカゲ退治なんていやよ、絶対」
芝生に腰を下ろしたタウに向かってニートが言う。
「いや、トカゲじゃあない、もっと手強いやつだ」
「まさか、ドラゴン!?」
「またかよ!」
ニートとヴィリーの脳裏に前回の出来事が蘇る。
「いやいや、ドラゴンでもない。 今度は人間だ」
「人間?」
「そう、山賊だ」
「山賊!?」
「もう、いい加減にしてよ。 あたし達の任務って何でいつもそうなのよ」
ニートは、またしても本来の任務である王室の護衛とかけ離れた任務に落胆し、ふて腐れた。
「まあそう腐るな、ニート。
今の俺達にとって一番大事なのは、与えられた任務を確実にこなし続ける事だ。
本来の任務に近付くための近道は他にないんだ」
「わかったわよ。 で、何すればいいの?」
「このヴォルストブッフから、トレーデリヒ街道を通って南に真っ直ぐ行くとムレーネ海に出る。
そのムレーネ海に面したホファート子爵領と、その北側のブレートマン男爵領の、ちょうど境界線を東西に山地が
走っている。
山地は両貴族領の東側に広がっているのだが、この境界線の部分だけが天狗の鼻のように平地に突き出た形に
なっている。
その鼻の付け根あたりをトレーデリヒ街道が通っていて、ドロッセル峠と呼ばれている。
そこに山賊が出るんだ」
「天狗の鼻・・・付け根・・・・、鼻の穴? 山賊は天狗なのか?」
「バカ!喩え話でしょうが!」
「知っての通り、トレーデリヒ街道はヴォルストブッフとムレーネ海を結ぶ重要な幹線路だ。
ムレーネ海からホファート子爵領の港に揚がる海産物や外国の品物は、全てこのトレーデリヒ街道を通って
ヴォルストブッフの都へもたらされている。
しかしドロッセル峠に山賊が出没するようになってから、商人達は山地を一週間以上もかけて迂回しなければ
ならなくなった。
峠を通れば一日足らずのところをだ。
資金力のある商人は、傭兵を雇って護衛させて峠を通行しているが、その分の人件費は商品に上乗せされてしまう
ため、都の商人は仕入れの段階で既に高い値をつけられ、住民は更に高い値で商品を買わされる羽目になる。
そこで、都の住人や小売り商等の組合からの陳情を受けた国王陛下が、ホファート子爵、ブレートマン男爵両氏に
山賊の討伐を要請したのだが、両貴族はそれぞれあの山地は自分の領地ではないと主張し、山賊退治に消極的な態度
を示した・・・」
「なんで? 山賊が出て困るのは自分達でしょ」
ニートが不思議そうな顔をする。
「俺も同じ質問をした。
しかしどちらの貴族も山賊から直接被害を受けている訳ではない。
被害を被っているのは峠を利用する商人や旅人などの通行人だ。
これは連隊長の言葉だから俺は詳しくは知らんがな」
「そこでオレ達の出番ってワケか」
そう言ったのはヴィリー。
その言葉からはいつものヴィリーらしい溌剌とした活気が感じられない。
「まあな、だが今回は俺達だけで行動するのではない。
ブレートマン男爵家の騎士団と共同で討伐に当たる」
「何!?」
「まあ、説明は追々することにして、すぐに出発するぞ。
みんな一旦家に帰って、支度を調えてまた集合しろ、長旅になるぞ」
旅支度を終えたニートが集合場所の第三城壁の南門へ行くと、既にタウとヴィリーが待っていた。
そのタウの後ろには一頭の馬と馬車が・・・・。
「そ、それに乗って行くの?」
「ああ、そうだ」
「それってただの荷馬車じゃないの! いやよそんなの、おしりが痛くなっちゃう」
「文句を言うな、予算がないんだ。 歩かないだけましだと思え」
「まったくだ、てめえのデカいケツなら座布団もいらねえだろうに、わがまま言うんじゃねー」
「マジでブッ殺すわよ、ヴィリー」
「まあ、どうしても嫌だと言うんなら別の馬車を借りるが、そうなると何日か食事を抜かなきゃならんぞ。
なにせ予算の半分はお前の食費なんだからな」
「あんたのそういうものの言い方って大っ嫌い!」
「へへ、どうすんだ?、この大飯喰らいが(笑)」
「うるさい!ダメに決まってるじゃない!(赤)」
そこへアイヒが登場。
「すいませ〜ん、遅れました〜」
「あんたその格好は何?」
ニートはアイヒのいでたちを醒めた目で見る。 アイヒはフリフリのワンピースに麦わら帽子、完全に旅行気分だ。
「旅行じゃないって言ったでしょ!」
「あれ? そうでした? だってニートさん海へ行くって・・・」 キョトンとするアイヒ。
「海へ行くなんて言ってない! 海の方へ行くって言ったのよ!」
「まあいいじゃないかニート、後で着替えればいい」
「何言ってんのタウ、隊長のあんたがそういう態度だから、みんないい加減でまとまらないんでしょ」
「そう言うな、俺は規則でガチガチってのはあまり好きじゃないんだ」
「そうだぞニート、アイヒだって悪気があったわけじゃねーんだし、もっと生暖かい目でみてやれ」
「生暖かいって何だ! 使い方が違うだろ!」
「とにかく乗れ。 急がないと、山賊は待ってくれんのだ」
そう言いながらタウは馬車の御者席に座る。
続いて後ろの荷台に乗ったヴィリーがアイヒの手を取り、かけ声と共に引き上げる。
「いよっ!」
「ありがとうございます」
その時、ヴィリーは荷台に上がって礼を言うアイヒの背中の真新しいバッグに目が留まった。
「お、アイヒ、新しいバッグか?」
「ハイ!」
嬉しそうにニコニコ笑うアイヒの後ろから、荷台に上がったニートが自慢げに言う。
「あたしが買ってあげたのよ、どう?似合うでしょ」
「わたしは隣りのお店のウサギさんバッグの方が良かったです〜」
「何言ってんの、ブッチよブッチ、外国製よ、高かったのよ!
いつまでもあんな子供じみたのばっかり欲しがるんじゃないの」
「え〜、でも〜・・・」
ヴィリーは、ふと、ある事に気が付いた。
「あれ?、これブッチじゃねえぞ」
「はあ!? 何言ってんのかなこのバカは。 あんたにブランドの何が分かるっての!(怒)」
ヴィリーにいちゃもんを付けられたニートはちょっとご立腹。
「うるせー、よく見てみろ、このタグ、“BUCCI”じゃなくて“BOCCI”になってるぜ」
「え?、ボ、ボッチ!?・・・、じ、じゃあ・・・ニセモノ・・・?(汗)」 ガーン!
タグの文字を見ながら愕然とし青ざめるニート。
「うえ〜ん、ニセモノつかまされたぁ〜(涙)」ベソをかくアイヒ。
「あんたが言うな! それじゃまるであたしがニセモノ売ったみたいじゃない!」
「売ったのか?」
「売るか!」
荷馬車は走るよコトコトと・・・。
かくしてヴォルストブッフを旅立った一行は、ブレートマン男爵領を目指し、一路南へ向かってなだらかな丘陵地帯を
進んでいた。
道はいつしか石畳の舗装もなくなり、都から大分離れたことを知らしめているが、さすがに大街道は道幅も広く、路面
も綺麗で安定していて、行き交う馬車や人々の数も多い。
ニートが出発前の話の続きを聞く。
「ねえタウ、男爵家の騎士団と共同で山賊退治って言ったわよね」
御者席で手綱を握りながら、後ろへ顔を振り向けてタウが答える。
「ああそうだ、これには色々と事情があってな」
「何だよその事情ってのは」
荷台でニートと向かい合うように座っているヴィリーも、この件には興味があるようだ。
「山賊のいるドロッセル峠は、ホファート子爵もブレートマン男爵も共に自分の領地ではないと主張している。
しかし元来はどちらかの領地であったはずだ。
主要街道が途中で領有権のない土地を通るなんて保安上あり得ないだろ、普通」
「つまりどっちか嘘をついてるわけね」
「まあな、だが政治的なことは俺達にはどうでもいい。
連隊長の話によると、その件について国王陛下のご裁可があった。
つまり、新たにその山地をブレートマン男爵領と認め、関所を設け通行税を徴収する権利を与える代わりに山賊を
討伐せよというものだ。
一方ブレートマン男爵はといえば、男爵は経済的に裕福とはいえず、山賊討伐のために必要な兵力を集められない
ため、国王陛下に国防軍の派遣を要請した、という訳だ」
「じゃあ何であたし達なの? 国防軍を出せばいいじゃない」
「戦争でもないのに国防軍は出せんだろう。
それにお前とヴィリーは護衛連隊に入る前に山賊退治に参加したことがあるんじゃないのか?」
「ああ、ニートは知らんが、オレはあるぜ。 ボッコボコにしてやったっけなあ・・・」
「あたしもあるけど、一度だけよ。何で知ってるの?」
「一度でも、ないよりましだ。 護衛連隊で山賊退治の経験があるのは地方兵出身のお前等ぐらいのものだ。
山賊退治は地方兵にとっては重要な任務の一つだからな」
「なるほど、それでオレ達に出番が回ってきたってわけか」
「そういう事だ、男爵も直属の騎士団を派遣するから、共同で作戦を行う」
「共同作戦なんて、めんどくさそう・・・」
いつになく消極的な態度をみせるニートをタウは不審に思った。
「なんだ、お前にしては随分投げやりだな」
「まあね・・・、護衛連隊に入ってまで山賊退治なんて、考えてもみなかったわ・・・」
そう言って荷台の側面板に肘をつき、手に顎を乗せて景色を眺めるニートの表情は、明らかにいつもの彼女と違い、
どことなく沈んでいるように見えた。
説明しよう。
ゾルクロース王国には、正規軍として国防軍と近衛連隊が存在する。
護衛連隊もその運用に国費が支出されているため正規軍として扱われるが、どちらかというと国王の私兵と見なす
傾向が強く、特に貴族達の大多数はそういう見方をしているようだ。
なにより護衛連隊は、国王の勅命によってのみ行動する事を認められている部隊なのだから。
国防軍はその名の通り他国との戦争の為の組織で、王都ヴォルストブッフの他、国内の数ヶ所に駐屯地を有し、
それぞれ作戦本部と関連施設の他、演習地等を所有しており、その全てが国有地、つまり直轄地である。
また、国防軍の下部組織として、国境周辺に展開している辺境守備隊があるが、その運用費は国境に面した当該地方
領主が負担しているため、他の地方領主が私有する領兵と同様、非正規軍として扱われている。
辺境守備隊出身のヴィリー、領兵出身のニートは共に、非正規の地方兵から護衛連隊入りを果たした非常に珍しい
存在となっている。
「じゃあさ、何でホファート子爵に山賊退治させないのかな?」
「それこそ政治的問題というやつだ、俺に聞かれても分からん」
「そんなにブツブツ文句ばっかり言うんじゃねーぞ、ニート。
山賊退治なんて、アイヒの魔術で山ごと吹っ飛ばしちまえば一発で終わっちまうだろ。 楽なもんだぜ」
ニートの向かいでふんぞり返るヴィリーが手振りを交えてへらへらしながら言う。
だがタウから返ってきた言葉は、ヴィリーの考えとは正反対のものだった。
「そうはいかんぞヴィリー、今後アイヒにあの手の攻撃魔術は使わせん」
「なんでだ? どうしてなんだよ」
驚いたヴィリーは身を乗り出すようにしてタウにその真意を聞く。
「いいか、護衛連隊の各小隊に1名ずつ配属されている魔術師の基本的な役割は防御とケガ人の応急治療にある。
アイヒはその中でも突出して強力な破壊系魔術を持っているが、それは本来のアイヒの仕事には不要なものだ。
それにその手の魔術は大きく精神力を消費するんだ。 本来の任務に差し障りがあっては元も子もない」
「じゃあ、もうアイヒには全然攻撃魔法を使わせないってのか?」
「時と場合によっては使うこともあるだろうが・・・、山を潰すような強力な術は二度とごめんだ。
あれではこっちの身まで危うくなる。
もっとも、アイヒ自身があの術を自由に操れる程に熟達しているとも思えんがな」
そう言うと、タウは荷台で横になって眠るアイヒを見る。
「なんだ、つまんねえ・・・」
がっかりしたヴィリーは頭の後ろで手を組み、再び荷台にふんぞり返った。
その様子を見ていたニートがヴィリーに向かって言う。
「そういうあんたもいつものバカらしくないわね、いつもならもっとギャーギャー大声でわめきたてるのに」
「うるせーぞてめー、だいたいオレのハーレム計画に山賊退治は入ってねーんだよ」
「あ、そう・・・」
納得するニート。<やっぱりバカなんだこいつ>
「ハーレム計画か・・・、じゃあブレートマン男爵家に年頃の令嬢がいたとしても、計画には入らんのかな?」
「なに!?」
いきなりガバッと身を起こすヴィリー。
「それは本当か!タウ!! 何でそんな大事な事を先に言わん!
そうと分かればぐずぐずしておれん! もっと急げんのか!」
「誰も令嬢がいるとは言ってないだろ、いるかも知れんという仮定の話だ。 早合点するな」
「なに? いないのか!」
「どうだろう、そればかりは行ってみないと分からんな・・・。 だがこれで少しはやる気が出たろ」
「おうよ! なんか急に腹減ってきたな、飯にしようぜ」
「現金なやつだな・・・」
荷馬車は走るよコトコトと・・・・。
その後4日ほどは、天候にも恵まれたせいもあって何事もなく平穏に経過した。
彼等の行方に暗雲が垂れ込め始めたのはその翌日、グライスナー伯爵領へ入る関所に於いてであった。
そこは武装した兵士が数人、鉄板で補強された頑強な門扉の前で、そこを通る人々の通行証や手形を確認する作業を
行っていて、既に商人の馬車や旅人などが5、6人列を成していた。
タウはその最後尾について馬車を止める。
荷台で寝ていたヴィリーが、馬車が止まったのに気がついて目を覚ました。
「なんだ? 着いたのか・・・?」
「いや、関所だ。すぐに済む」
「関所?」
「そうだ、ここから先はグライスナー伯爵の領地に入る・・・と、この地図には書いてある」
タウは持参した地図を広げて眺めながら言う。
「ちぇっ、めんどくせえの」
そう言ってつまらなそうな顔をするヴィリーをニートがからかう。
「だったら強行突破すれば? 有名になれるかもよ」
「おっ、それおもしれーな、いっちょやったるか」
「バカなことを言うな、こんな所で騒ぎを起こしてなんになる」
待つこと数分、一行の乗る荷馬車に兵士の一人が近付いてきた。
「何者だお前ら、傭兵か?」
兵士はタウ等の出立ちを見て不審な顔をする。
一行は甲冑こそ装着していないが、肩や腕に金属の保護プレートを縫い付けた黒い連隊服を着ているため、どう控えめ
に見ても商人や一般の旅人とは思えないのだから、兵士が怪しむのも無理はない。
「我々は護衛連隊の者だ」
そう言いながらタウが懐から鑑札を取り出して兵士に手渡す。
「護衛?、・・・ウッ!!(汗)」
兵士は鑑札を見て驚き、たじろいだ。
それは王室発行の御印鑑札、天下御免のフリーパスだった。
通常、商人達が持つ鑑札というのは木製で、そこに所属するギルドの紋章や家紋が彫刻されたり刻印されたりしている
ものが普通だが、タウの差し出したそれは金属製の上、刻印は王家の紋章である鷲とくれば驚くのも当然。
しかも、王室ゆかりの者が訪れる時は事前に通達があって然るべきところを、何の連絡もなくいきなり現れたのだから
兵士の狼狽ぶりもタウには容易に理解出来た。
「ち、ちょっとそこで待て・・いや、お待ち下さい(汗)」
そう言って兵士は鑑札を手に、慌てて門の内側にある詰所に向かって走って行った。
「なんだあいつ、焦ってやんの」
兵士の背中を見送りながらヴィリーが面白がる。
だが暫く待っても、さっきの兵士は詰所へ入ったままなかなか戻って来ない。
その間も他の通行人達は、別の兵士が確認作業を済ませて次から次へと門の中へ入って行く。
ヴィリーはイライラしながらその様子を眺めていた。
「くそー、いつまで待たせるんだ、あのヤロー」
それとは対照的にニートは落ち着き払っている。
「焦ってもしょうがないでしょ、大人しく待ってなさいよ」
「うるせー、黙ってろ」
「その貧乏揺すりやめなさいって」
「てめーに言われるとますます腹が立つ!」
「にしても遅いわね、どうなってんの?タウ」
「俺に聞かれても分からん、もう少し待て」
「あの鑑札、ニセモノなんじゃない?」
「あれは連隊長から直接預かった御印鑑札だぞ、そんなはずがあるか」
「もう辛抱たまらんぞ!」
遂にヴィリーは立ち上がって、門の前で他の通行人の通行証を確認している兵士に向かって大声を張り上げた。
「おい!そこの! てめーだ、おい! いつまで待たせるんだ、こら!
さっさと通せ!このヤロー!」
タウが一喝する。
「やめろヴィリー、騒ぐな!」
ちょうどその時、詰所から先程の兵士ともう一人、どうやら門番隊の隊長らしき人物が現れ、一行の方へ向かって
歩いて近付いてきた。
「やっと出てきやがった。 おいこら!ちゃっちゃと通せ!」
「待たせたな、お前らが護衛連隊か」
その小太りで口ひげの隊長らしき男は、腰のベルトに手を掛けてやたら偉そうな態度でニヤけながら話す。
「おうよ、さっさと通しやがれ!」
「ここへ来た用件をお聞かせ願おうか」
「なに?」
「何しに来たと聞いている」
「なんだと、てめー!偉そうに!(怒)」
「よせヴィリー、お前は黙ってろ」
握り締めた拳に力を入れるヴィリーの前に手を差し出して制止するタウを見て、門番隊長がタウに向かって話す。
「お前が隊長か?」
「タウゲニヒツ・ラングヴァイラー軍曹だ、だが我々の任務の内容を話すわけにはいかないな」
「何?」
「我々護衛連隊の任務は常に極秘というのが鉄則だ、必要な者には事前に通知されているから口外は一切無用だ」
「なんだと!」
ニヤけていた門番隊長の表情が一変した。
タウの冷静沈着、というかあまりに冷徹な物言いに、言いしれぬ緊張を感じ冷や汗を流した。
というより、王室直属を盾に慣例を無視するかのようなタウの態度を見て甚だ気分を害した、と言った方が正しい。
「そ、そうか・・・、どうあっても言えんと言うのだな・・・(汗)」
「そうだ」
「・・・ならば致し方ない、我々としてはお前等をここから先に行かせる訳にはいかない、と結論せざるを得ないな」
「なんだと!」
それを聞いたヴィリーが荷台から身を乗り出して声を荒げる。
対して門番隊長も毅然とした態度で言葉を返す。
「それが我々の任務だ。
如何なる理由があろうとも、何をしでかすか分からん者を我が領内に入れる事は許されん!」
「なんだと!このクソおやじ!
じゃあ何か? このオレたちが盗っ人にでも見えるってか!」
「そうは言わん、だが例え護衛連隊と言えども、我がグライスナー伯爵領内で身勝手に振る舞い、領内の治安を乱す
ような事をされては叶わんからな」
「てめー!言いたい放題言いやがって!(怒)」
「ならば目的を言え、さもないとここから一歩も中へは入れんぞ」
「うるせー! そこまで言うんなら力づくで入ってやるぜ!」
とうとうヴィリーは腰に下げた剣を抜いてしまった。 シャキン!
「殺すぞ、てめー!」
「き、貴様!(汗)」
門番隊長は1、2歩後退りした。
ヴィリーの迫力に押された・・・、のではなく「護衛連隊の剣士」という肩書に尻込みした。
いつしか不穏な空気を感じて集まっていた数人の門番の兵士達にも緊張が走った。
兵士達も剣に手をかけ身構える。
「やめろ、ヴィリー!」
タウがヴィリーの袖を引っ張って止めに入る。
「ここで問題を起こせば、間違いなくお前はクビだぞ」
「なんでだよ!」
「任務以外で軽々しく剣を抜くな、これは鉄則だ。
それとも、お前のハーレム計画に「貴族領の門番と悶着を起こして護衛連隊をクビになる」のは入っているとでも
言うのかな?」
「くっ・・・・(汗)」
「ここは俺に任せろ、いいな」
ヴィリーは苦虫を噛み潰したような顔をしながら剣を納めた。 ハーレム計画は相当重要らしい。
タウは門番隊長に向かって言う。
「迷惑をかけたな、では我々はここで引き返すことにしよう」
「なに!!?」
これにはその場にいた全員が驚いた。
あまりに突然のことにヴィリーとニートも慌てて声を荒げる。
「何言ってんだタウ!」
「そうよ、それでいいの? せっかくここまで来たのに」
「いいから、お前等は黙ってろ」
タウは手綱を引いて今来た方へ馬の向きを変える。 ヒヒン(馬の声)
そこへ門番隊長が恐る恐る声を掛ける。
彼はタウの意図を計りかねていた。
タウはいつも飄々としている、というか感情を表に出さず無表情で話すので、彼を知らない人にとってはその言葉を
額面通り受け取っていいものかどうか、判断するのが難しいのである。
「お、お前・・・、に、任務を放棄するというのか・・・・(汗)」
「貴殿には関係のないことだ」
そう言い残してタウは馬を歩かせ、荷馬車は何事もなかったかのようにその場を後にした。バシッ!ヒヒン(馬の声)
ヴィリーとニートには到底納得がいかない。
「おい!どういうことなんだ、タウ! なんで戻らなきゃいけないんだ!
あんなクソおやじの言いなりになるこたねぇだろ!」
「そうよ、説明してよ」
「別に・・・、この道がだめなら他の道を通るだけのことだ」
「なに?」
「俺達はグライスナー伯爵領に用がある訳じゃないからな、どこを通っても目的地に辿り着ければそれでいいんだ」
「じゃあ都へ戻るわけじゃないのね」
「当たり前だ、まだ何もしてないのに戻れるか。
この先に横道があっただろ、そこを通って伯爵領を迂回する」
「あんた、もしかして始めっからそのつもりだったの?」
「そうだ。
それをヴィリーが横から余計な口を出すからややこしくなってしまったんじゃないか」
「オレのせいじゃねー! あのクソ頑固おやじのせいだろーが!」
「あのおやじ・・・いや隊長は職務に忠実なだけだ。 何も悪い事はしていない」
「なんであんなヤツが忠実なんだよ!」
「そうだな・・・、少なくとも国王陛下には忠実ではないかも知れんな、御印鑑札を無視したんだからな。
だが領主には忠実に従っているとみえる」
「何よそれ、どういう意味?」
「お前等は知らんかも知れんが・・・、以前、連隊長が言ってた事があった。
元々、護衛連隊の発足には色々と問題があったようで、貴族の中には国王陛下に向かって堂々と反対を訴えた者も
いたんだそうだ。
それも一人や二人ではなかったらしい・・・。
もしかしたらその貴族の一人がグライスナー伯爵だったのかも知れない。
そう考えると、あの門番隊長の態度も頷けるというものだろ」
「そ・・・そうだったのか・・・」
「だから俺に任せておけって言ったのに・・・」
この時のタウの想像は間違っていない。
事実、護衛連隊の発足に際してグライスナー伯爵が反対派の一人に名を連ねていた事は、このゾルクロース王国の
貴族ならば皆知っていることである。
門番隊長は自分の領主であるグライスナー伯爵の意向に沿うであろう決断を下した。
つまり、タウが関所で任務の内容を話したところで何も変わらない、初めから結論ありきのいやがらせ的行為だった
のである。
「だったら通り過ぎるだけだって言ってやったら良かったんじゃないの?」
「それでは困る。 そんな事を言ったら通過した先の、別の貴族の所へ行くことが分かってしまうだろ」
「それの何が悪いの?」
「目的地を明かすことは、任務の内容を明かすに等しい」
「でもブレートマン男爵のところへ行くとは限らないでしょ、それ以外の貴族領もあるんだから」
「それでもだ。
貴族ってやつは面倒でな、そうなったら今度は貴族同士で勘ぐり合い、あらぬ噂を立てては話の種にして面白がり、
延いては争いの火種にも成り兼ねん。
俺達のせいで貴族間戦争なんか起こってみろ、斬首でも済まないぞ。
だから俺達は、任務のことは一切他言してはならないんだ」
荷馬車は走るよガタゴトと・・・・・・。
幹線街道を外れて脇道へ入ったことで、路面は一気にその快適さを失った。
石ころだらけのデコボコ道・・・、荷馬車は石を踏んで跳ねたり窪みに落ちたりして、始終ガタガタ揺れている。
下手に喋ったり欠伸をしていると舌を噛んでしまう恐れもある程に荒れている。
この状況ではさすがのアイヒも眠れない。
先程からアイヒは眠そうな目を半開きにして、膨れっ面で頬に手をつき横の景色を眺めている。
珍しく相当機嫌が悪そうだ。
ヴィリーもニートも気を遣ってか、一言も口を利かずに黙ったまま、ただ荷馬車の揺れに身を任せていた。
次第に人気もなくなり、景色も開けた田園風景から木々に覆われた林に変わり、それが森へ、そして山の中へと、
徐々に暗い方へ暗い方へと移っていく。
まるで彼等の気分をそのまま反映させているかのように。
山の中に入って暫くすると、どこからともなく一羽の小鳥が突然アイヒの頭の上に舞い降りた。 チュンチュン
頭上でピーチク鳴きながらピョンピョン跳ね回る小鳥に気付いたアイヒは、やっとその大きな目をパッチリ開いた。
その光景を見て驚いたヴィリーとニートも無言で目をパチクリさせる。
だがそんな2人を余所に、アイヒは平然として左手を軽く上げると、小鳥は何の躊躇もなくその甲に跳び乗った。
思わずヴィリーが声を出す。
「アイヒ、そいつを捕まえろ、焼き鳥にして食おうぜ」
「ダメです〜、小鳥さんは食べません!」
小鳥はアイヒの手の上で、跳ね回ったり毛繕いをしたり、リラックスしまくっている。
それを見つめるアイヒの顔に、ようやく笑みが戻ってきた。
なぜかアイヒは動物に好かれる気質がある、それは野生の動物といえども例外ではない。
田舎の山育ちということも一つの要因なのかもしれないが、正確なところは誰にも分からない。
ニートが静かに尋ねる。
「ねえアイヒ、あんたってなんでそんなに動物に好かれんの?」
「わかりません、動物さんが寄ってくるんです」
「だからそれがなんでって聞いてるのよ。
都にいる時だって、よく野良猫があんたの後ろをくっついて歩いてたことがあったじゃない」
「それは猫さんに聞いてください」 ニコニコしながらきっぱり答えるアイヒ。
「聞けるかっつーの!」
それを聞いていたヴィリーが茶々を入れる。
「なんか美味そうな匂いでもするんじゃねーのか」
「そうかな・・・」 ニートはアイヒに顔を寄せ、鼻をクンクンする。
「や、やめてくださいニートさん、お饅頭なんか食べてません」 笑顔でこそばゆそうに肩をすくめるアイヒ。
「いつの間にそんなの食べたの!? 別に、なんにも匂わないけど・・・」 ニートは不思議そうな顔をする。
「ハハハ・・、そりゃそうさ」
そう答えたのは御者席で手綱を握るタウ。
「人間の嗅覚なんてたかが知れてる。 動物の方が遙かに優れているんだよ。
アイヒの場合それだけじゃないんだろうが、なんにしても、動物に好かれるのはいいことだ」
そんなアイヒの気質が本格的に発揮されたのは、その3日後のことだった。
一行は幾つもの山を越え、幾つもの村落を通り過ぎてもなお、トレーデリヒ街道に合流出来ずにいる。
さすがに3日もデコボコ道を揺られ続けていると、いい加減みんなうんざりして嫌気が差していた。
本来ならば、ヴィリーとニートが大ゲンカをしていても何の不思議もないが、この任務自体に乗り気でないニートが
ヴィリーの愚痴やら不平やらに全くと言っていい程反応しないせいで、喧嘩らしい喧嘩もしないまま、ヴィリーは
ひたすらストレスの捌け口を求めていた。
時間は夕刻、もうすぐ日が暮れる。
タウは馬を急がせた。
馬も疲れていたが、それでもその歩みを止めさせる訳にはいかなかった。
彼の計算では、今日中にあと一つ峠を越えれば、明日にはトレーデリヒ街道へ合流出来るはずだ。
それまで後ろの荷台にいる連中の、特にヴィリーの暴発を抑えられるかどうか、それだけが心配だった。
その時、道端を歩く一人の地元民とすれ違った。
「あー、あの、あんた方旅の人かね」
その人は初老の、山で一仕事終えて家へ帰る途中の樵のようだった。
「今から峠を越えなさるつもりかね」
「そうだが、何か」
タウは馬を止めた。 ヒヒン
「あーそりゃだめだ、悪いこたぁ言わねえ、そればっかりは止めれって」
それに対してヴィリーが不機嫌そうな目つきで、喧嘩腰に言う。
「なんでだよ、じいさん」
「この山は夜んなると狼に占領されるだ。
そりゃあ凶暴な狼の群れが出てきて、動く物はなんでもかんでも寄って集って骨まで貪り食うだ。
今までに何人も襲われて死んだだ。
んだから、日が暮れたら村のもんはだ〜れも絶対山ん中には入んねえだ。
おめさん方も悪いこた言わねえがら、村さ泊まって、明日越えればいいだべ(汗)」
「狼か・・・」
そういえば、山の方から狼の遠吠えのような音が聞こえるような気がするし、カラスの鳴き声も不気味だ。
タウは腕組みをして空を仰ぎ考え込んでしまった。
任務を前に狼相手に余計なことをして、万一隊員が怪我でもしたら、作戦に支障を来すのは明白だ。
しかし、何としても今日中に峠を越えたい。
「けっ、狼がなんだってんだ。 そんなのパッパと片付けてやるぜ!」
そう言い放ったヴィリーが、狼と聞いて急に活き活きし始めたのを見たタウは、これは絶好だと直感した。
多少危険は伴うが、狼相手にストレスを発散させてやるのも悪くない、そう考えたのだ。
タウは老人に向かって言う。
「助言は有難いが、我々も先を急ぐのでな、今日中に峠を越えねばならんのだ」
老人は青ざめて反対する。
「いやいや、そんだだあんた、死にに行くようなもんだべ、命がいくつあっても足りねえだよ(汗)」
「心配すんなってじいさん、狼なんざオレがまとめて退治してやるって!」
ヴィリーの言葉にタウがつけ加える。
「俺達は軍人だ、それにこういう事には慣れている」
「いや〜、なんぼ軍人だって言うたって・・・(汗)」
「つべこべ言うんじゃねーよ! まあ、泥舟にでも乗った気で待ってるんだな、明日から狼は出ないぜ」
「泥舟は沈むだよ・・・(冷)」
不安気な顔をする老人を残して、タウは再び馬の手綱を取った。 パシッ ヒヒン(馬の声)
山へ入ってすぐ、日が暮れた。
鬱蒼と茂る大木に囲まれて月明かりすら通らず、辺りは次第に暗闇に包まれ始めていく。
タウはランプのロウソクに火を入れ、御者席に立てた棒に吊して、馬の前方を照らした。
道幅はますます狭くなり、馬車ではすれ違うことも出来ない。
更に奧へ進むと、藪で覆われた道の両側が急な斜面となって、峠が近いことを知らせている。
そしてどこからか、狼の遠吠えや、何か合図でも交わしているかのような鳴き声が聞こえ始めた。 ワオーーーン
その声はまだ大分離れているようではあるが、彼等が一行のことに気が付いているのは間違いないだろう。
緊張が走る。
タウとヴィリー、それにニートはそれぞれ剣に手を掛けて、周囲に気を配りつつ馬車を進めた。
アイヒは・・・、座ったまま首をカクンカクン、鼻ちょうちんで居眠りしている。
そこへ都合の悪いことに風が吹き始め、草木の葉がガサガサと音を立てて揺れ出す。
これでは狼の動きが掻き消されて、気配も掴みずらくなる。
だが獣臭なのか、なにか嗅いだことのない不思議な臭いがかすかに漂ってくる。
狼が近付いているのは間違いない、鳴き声が一段と大きくなってきている。 ワオーーン ワンワン
察するに、どうやら一匹二匹、そんな単位ではない。
10か20か、いや、それ以上の相当な数がいると見える。
「かなりヤバいな・・・、これは、気合いを入れんと殺られるぞ・・・」
タウは独り言のように呟いた。
突然、馬がヒヒヒンと首を振りながら嘶き、その歩みを止めた。
とほぼ同時に、横の斜面の藪の中から、馬車の目前に一匹の狼が転がるように躍り出た。
「出た!狼だ!!」
タウが叫ぶ。
ヴィリーとニートが剣を抜き、前方を見る。 シャキン!
狼は頭を低くして四肢を踏ん張り、鋭い目つきで一行の方を睨み、牙を剥き出しにして喉の奥を鳴らしながら激しく
威嚇している。ガルルル
「よし!オレに任せろ!」
ヴィリーが馬車から飛び降り、狼に向かって駆け出す。 ダッ!
ところが、狼は急に体をフラフラふらつかせたかと思うと、その場に横倒しに倒れ込んでしまった。 ドタッ
いきなり何が起こったのか、まるで分からない。
驚いたヴィリーは足を止め、剣を構えながらゆっくりと一歩ずつ近付いていく。
狼は一体何をしようとしているのか、これは演技なのか。
「どうしたヴィリー、何があった?」
タウが御者席の上から伸び上がってヴィリーの背中に向かって問いかける。
「なんだこいつ、全身ずぶ濡れだぞ」
ヴィリーは、剣の先で横になって倒れている狼の体をツンツンしながら答えた。
「死んだのか?」
「いや、死んでない。 息はしてるが、動けないみたいだ」
狼は見たところまだ若い、1歳くらいのオスのようだが、目を閉じて横になったまま身動きもせず、ただぜえぜえ
息を荒げているだけだった。
しかも絶え絶えに。
「こりゃ時間の問題だな・・・」
「そうね、でも仲間が近くにいるかも知れないわ、油断は禁物よ」
ヴィリーに次いで馬車を降りたニートが周囲を見回して言う。
そこへ近づいてきたのが、騒ぎで目を覚ましたアイヒ。
「!!」
アイヒは死にかけた狼を見るなり駆け寄って、素早くその横に跪いて狼の体に両手を翳し、気を集中して治療を
開始した。
その行動を見て驚いたニートが慌てて制止する。
「ダメよアイヒ! 近付いたら危険よ、いきなり襲ってくるかも知れないわ!」
狼の側に立っているヴィリーも同調する。
「そうだ、って言うかもうすぐ死ぬぜ、こいつ。 やってもムダだ」
だが、アイヒは全く従う意志を見せない。
「ダメです、止めません。オオカミさんはまだ生きてます」
アイヒは2人に見向きもせず、ただ狼を見つめたまま黙々と治療を続けた。
額に汗をにじませながら拭おうともしないで、それこそ一心不乱に集中している。
こんなに健気で真剣なアイヒを見るのは珍しい。
そして数分後、狼がゆっくりと目を開いた。
それに気付いたヴィリーは咄嗟に剣を構えて警戒する。 チャキ!
だが狼はまだ体を動かすことが出来ないとみえて、目だけを動かしてアイヒの方へ視線を向けて威嚇した。ガルルル
アイヒもそれに気が付いたが、治療を止める気配すら見せず、それどころかニッコリと微笑み返した。
「大丈夫ですよ、出血はしてないし、骨には異常はないみたいです。
でもだいぶ疲れているみたいですね。 ダメですよ、こんなになるまで無茶しちゃ」
まるで人に向かって話しているようだ。
狼は暫くアイヒの顔を見ていたが、何をするでもなく、表情も変えず、声一つ上げず、再び静かに目を閉じた。
まな板の鯉の如く。
ただただ黙ってその様子を見ていたヴィリーとニートには、まるで自分の全てをアイヒに委ねたかのように、
安心しきっているようにも見えた。
そうこうしているうちにも、周囲の狼達の声が一段と大きくなってきている。
ただ、その声はワンワン吠えるだけではなくなってきていることにタウは気付いていた。
タウは御者席の上で、いつでも馬車を走らせることが出来るように待機しながら、狼の声に注意を払っていたのだが、
その声の中に、次第にガルル・・という威嚇の声や、キャインキャインという悲鳴のような声が混ざってきている
のがはっきりしてきた。
一体やつらは何をしているのか、群れ同士のテリトリー争いか、仲間割れか。
いずれにしろ、大騒ぎしている音だけが辺りに鳴り響いていて、その姿はまるで見ることが出来ない。
そんな事態が続くにつれ、ヴィリーは段々イライラしてきた。
「くっそー、姿が見えんというのは性に合わん!
そっちがその気ならこっちから出向いてやるぜ!」
ヴィリーは一気に駆け出すと、山の斜面の藪の中へ飛び込んで行った。
「あっ! 待ちなさい、ヴィリー!(汗)」
ニートが叫ぶ。
「くそっ、あいつ勝手なマネを!」
タウが慌てて御者席から立ち上がって馬車を飛び降りた。
「ニート! お前はアイヒの側にいろ!」
タウはそう言い残してヴィリーの後を追ったのだが、暗闇の藪の中ではヴィリーの姿を見つけるのは困難を極める。
タウは、狼たちが騒いでいる音を頼りに斜面を登った。
その方向に行けばヴィリーがいるに違いない。
案の定、ヴィリーの大声が聞こえてきたが、何か様子が変だ。
そういえば、先程から急激に狼の声の数が少なくなってきている。
「どわっ! な、なんだこれは!」
ヴィリーの叫び声が聞こえた。
タウは急いでヴィリーの声のする方へ走って行くと、木々の間の藪の中のあちこちに何匹もの狼が倒れている。
どれも既に息絶えてしまっているようだ。
そしてその先には、大きな得体の知れない物体とその周りに大量の狼の死体、それを前に立ち尽くすヴィリーがいた。
「ヴィリー! 大丈夫か!?」
タウはヴィリーの側へ歩み寄りながら声をかける。
「お、タウか・・・、なんだあれは?」
ヴィリーが指差したその先には、得体の知れない巨大な物体がゴニョゴニョと、地を這うように動いていた。
それは半透明の、液体生物のような物体だった。
クラゲの傘のようでもあったが、3m以上はある大きなものだった。
「あれは・・・・、恐らくスライムだな・・・」
「スライム!? あのでっかいのがか?」
「たぶんな・・・、どうやら狼を襲って食っているようだ、見てみろ」
タウに言われてよく目をこらして見てみると、半透明のスライムの体内に、何匹かの狼が取り込まれているのが
分かった。
「ああやって、体内に取り込んだ物を溶かして食うんだな・・・、きっと」
「なに!? じゃあ、この周りに転がってる狼はなんなんだ?」
「恐らく、一度体内に取り込んで、中で窒息死させてから放り出したんだろう。
狼の死体はどれもこれも体液で全身ずぶ濡れになっている。
そうして群れを全滅させておいてから、再び一匹ずつ取り込んでは、溶かして食うんだろう。
あっちこっちに骨が散らばっているのが見えるか、全部狼の骨だ」
「・・・・なんてこった・・・、あのヤロー、オレ様の獲物を全部殺しやがって・・・」
ヴィリーはせっかくのストレス解消の相手を奪われて悔しがった。
「こうなったら、あのナメクジ野郎で腹癒せさせてもらおう!」 ダダッ!
ヴィリーはスライムに向かって突っ込んで行った。
「やめろヴィリー! ヤツに剣は効かん!」
タウが制止したが、ヴィリーは構わずスライムに斬りつけた。 シュパッ!
スライムの体の一部、しかし全体がグニャグニャしていてどこが頭か体か分からない、その一部がスッパリと裂けて
切れた。
透明な体液が飛び散って・・・、ところがすぐにまたくっついて元に戻ってしまった。
「な、なんだこのヤロー!」
驚くヴィリー。
「だから言っただろ、ヤツに剣は無力だ。
スライムは、アメーバのような小さい原始的な軟体生物が無数に寄り集まって出来たものだ。
一つの個体が細胞の集まりで形成されている点では他の生物と同じだが、スライムはその細胞一つ一つが一個の
生物で、それぞれが単独で生命活動を営んでいる。
ヤツらに意思はない、ただ食欲があるだけだ。
ただこうして寄り集まることで、それぞれの細胞にある一定の役割分担が生まれるようだが、細胞同士の繋がりが
緊密ではないから、いくら斬ったところでスライムは殺せない。
細胞全てを死滅させない限りはな」
「く・・・、なんてこった・・・」
つまり、ヴィリーとタウの剣ではスライムに何ら損傷を与えることが出来ない。
ヴィリーは口惜しそうにスライムを見つめた。
だが攻撃を受けたスライムは、今度はヴィリーに向かってズルズル接近してくる。
「やべえ! こっちに来るぞ!」
「お前が余計な手を出すから、敵と思われたに違いない・・・、いや、狼と間違われてるのかも知れん」
いずれにしろ、2人はスライムに手も足も出せない。
2人はじりじりと後退りしながらスライムの動きを警戒した。
スライムはなおもズルズルとゆっくり接近してきていたが、突然、体の一部が触腕のように突き出し、ヴィリーに
向かって伸びてきた。 シュルルッ!
「どわっ!」
咄嗟に身をかわすヴィリー。
「やべえぞ! 襲ってきた! どーすんだよ!」
「この場は逃げるしかあるまい」
2人が逃げようとした時、山の下からニートとアイヒが登ってきた。
「どうしたのヴィリー、狼はやっつけた?」
ヴィリーを見つけたニートが声をかける。
「狼なんかみんな死んでらあ!、全部あいつがやったんだよ」
「あいつ?」
「見てみな、スライムだ!」
言われてニートがよく目を凝らして見てみると、暗がりの中にゴニョゴニョ動くものが。
「うわ! 何あれ!? でっか・・・」
「だからスライムだっつってんだろ!」
タウはニートの後についてきたアイヒを気遣う。
「大丈夫か、アイヒ」
「はい、ワンちゃんは下で眠ってます」
「ワンちゃん?」
タウはアイヒ自身のことを気遣って言ったのだが、アイヒは狼のことだと勘違いしている。
「そうなのよ、アイヒったらあの狼をワンちゃんって呼ぶのよ。 犬じゃないって言ってるのに」
「でもワンワン言うんですよ。 だからワンちゃん」
「まあ、同じイヌ科だからな・・・」
アイヒを見つけたヴィリーが叫んだ。
「丁度いい、アイヒ! あいつに一発電撃をお見舞いしてやれ! やつは剣で斬っても死なんのだ。
ヤツがワンちゃんをヒドい目に遭わせた張本人だぁ!」
「はい!わかりました」
「いいの?タウ」
「いいだろう、今はそれしか手がない」
「えい!」
アイヒの電撃が炸裂。 バチバチバチッ!
スライムは、その体の殆どが水分で出来ているため電撃を浴びて通電し、細胞が焼け、水分が沸騰してブスブスと
体のあちこちから煙と水蒸気を上げ始め、とたんに動かなくなった。
それこそみるみるうちに。
もはやスライムに生物らしさは感じられない、ただの潰れたゼリーと化してしまった。
辺りに焦げ臭い、生臭い臭いが漂い始める中、ヴィリーが飛び上がって喜ぶ。
「やったぜ! よくやった、アイヒ!
ざまー見ろ! オレ様の獲物を横取りした罰だ、このヤロー!」
「あんたは何もしてないでしょ!
とにかくさっさと戻りましょ、臭くて気持ち悪いわ」
ニートは鼻を押さえてそそくさと山を下り始める。
一行が山を下り、馬車のいる峠道まで戻ってくると、最初に出会った狼はまだ道端で横になっていた。
狼は、アイヒの匂いを嗅ぎつけると頭を上げ、アイヒの方を見てクーンクンと声を出した。
「ワンちゃ〜ん」
アイヒがニコニコしながら狼に駆け寄り、抱きついて頭を撫で撫でする。
それに返事をするように、狼はアイヒの顔をベロベロ舐める。
「なんだなんだこいつ、ちょっと見ない間に完全にアイヒに懐いてやがる」
ヴィリーが呆れると、ニートがさもありなんという顔で答えた。
「そりゃそうよ、命の恩人なんだもの」
「おめーが偉そうに言うな」
タウは大人しく待っていた馬の首を労うようにポンポン叩いた後、馬車の御者席に跳び乗り、みんなに声をかけた。
「よーし、みんな乗れ、出発するぞ。
夜明けまでに峠を越えれば、明日中にはトレーデリヒ街道に合流出来るはずだ。
行くぞ、アイヒ」
「はーい。 じゃあね、ワンちゃんバイバーイ」
その2日後、無事にトレーデリヒ街道に合流した一行は、遂にブレートマン男爵領に辿り着いた。
一行はそのまま男爵の屋敷がある中心都市メーレントロットを目指す。
メーレントロットは男爵領北部のほぼ中央にあり、さすがに領主の邸宅がある町だけあって、これまで通過してきた
どの町よりも賑やかで華やいでいる。
しかし所詮は地方の、しかも裕福ではない小さな領の町、王都ヴォルストブッフとは比較にならない簡素さである。
男爵の邸宅は、そのメーレントロットの外れにあった。
「ここが、そうなのか?」
ヴィリーが馬車の上から身を乗り出す。
それにタウが答える。
「そのはず、なんだが・・・(汗)」
それは、常緑のキンメツゲの生垣で周囲を囲われた、町の中でもひときわ広い敷地にある大きな3階建ての木組みの
館で、明らかに一般家庭の住居ではないのだが、門番もおらず、人気がない。
いくらこの町が平和でのどかとはいえ、およそ貴族の住居としては不用心が過ぎると思われる。
「とりあえず、入ってみよう」
タウは、馬車から降りて鉄格子の門を開けると、馬を牽きながら中へ入って行く。
館の方へ歩いて行くと、館の陰にある木々の方から一人の小柄な男が歩いて近付いてくるのが見えた。
「こりゃ! おめさん方勝手に入るでねー、ここは男爵様のお屋敷だべ」
どうやら庭師のような老人だった。
「すまんな、門番がいなかったものでな。 ブレートマン男爵閣下にお会いしたいのだが」
「門番なんかはじめっからいねーだよ。
ありゃりゃ、おめさん方地元の者でねーだな、何者だべ」
馬車から飛び降りたヴィリーが言う。
「なんだ? てめーの方から呼んどいてそりゃねーだろ。 オレたちゃ護衛連隊の、ドラゴンフォースだ!!」
「ドラゴンフォース!? ドラゴンフォースってなによ!」
びっくりしてニートがつっこむ。
「バカヤロー、オレ達はドラゴンを倒した英雄だぞ。 英雄には英雄に相応しい名前が必要だ。
だからオレ達は、これからドラゴンフォースと名乗ることにした」
「勝手に決めんな!
それにドラゴンをやっつけたのはアイヒよ、あんたは何もしてないじゃない! おまけに英語だし」
「いちいち細かいことは気にすんなって、それになんかカッコいいだろ、なんかこう・・・優柔不断って感じで」
「それを言うなら勇猛果敢だ! バカ!
あんた、もしかしてずっとその名前を考えてたのね、どうりでいつものバカらしくないと思ってた」
「おうよ! 名乗りを挙げるチャンスを待ってたんだ!」
「護衛連隊・・・って言うと、あんただつが都から来なすった山賊退治の軍隊かね、こりゃ大変だ」
そう言うと、庭師の老人は慌てて館の玄関の方へ向かってそそくさと歩き出した。
「タント様〜! タント様〜!」
庭師に続いて一行が玄関のエントランスに入ると、そこへまた一人の小柄な老人が現れた。
だがその老人は庭師とは違い、礼服を着た、身なりの整った小綺麗な姿をしていた。
「フーデル! なんじゃ騒々しい」
「タント様、来なすっただ、山賊退治の軍隊だべ」
小綺麗な老紳士は、軍隊と聞いて驚きと喜びの表情を浮かべた。
「おお! ではお主達が国王陛下の・・・、の・・・、の・・・、何じゃったかの?」
「護衛連隊です」 タウが穏やかな口調で言うと、
「ドラゴンフォースだ!」 ヴィリーが大声で言い、
「ちがう!」 ニートが即座に否定する。
「ドラ?・・・・」
「いや、護衛連隊です」
「おお!そうじゃったそうじゃった、これはこれは長旅ご苦労様でしたな。
わしは、男爵様の元で執事をやっておりますオル・タントと申しますじゃ。
さ、さ、みなさん中へ入って、こちらで寛いで下され。
フーデル、お前は馬を厩へ連れてって、クラトラーを呼んでまいれ」
「かしこまりましたべ」
一行は応接間へ通された。
さすがに貴族の邸宅だけあって、応接間は目を見張るほどの豪華さだった。
壁には肖像画、窓にはレースのカーテン、床には幾何学模様が織り込まれた絨毯が敷き詰められ、細かい彫刻や装飾が
施された家具や調度品が並び、手を触れるのも憚られるような高価そうな壺などの陶磁器が飾られている。
そこは正に、一般人にはおよそ縁のない雰囲気と気品を持った世界が広がっていた。
ソファはゆったりしていてフカフカ。
ヴィリーがさっそく、勧められてもいないのにドッカリとそのソファにふんぞり返る。
「ふ〜、こりゃいいや」
「やめなさいヴィリー、失礼でしょ」
ニートが叱責するが、ヴィリーは聞く耳を持たない。
「かまうこたねーよ、オレ達は客人だぜ。 お茶はまだかな?」
そこへ、先程の執事オル・タントが新たに2人の男を連れて入ってきた。
1人はスーツ姿で丸メガネをかけた、インテリ風のすらりとした細身の青年で、もう1人は、胸元にフリルの付いた
白いブラウスを着た坊ちゃん刈りの、いかにも金持ちそうな少年だった。
入ってさっそく、丸メガネの青年が言葉を発する。
「はじめまして、私はバナール・ズースペクトと申します。
こちらの、ブレートマン男爵家次期当主、ナウケ坊ちゃんの家庭教師を務めさせて頂いております」
そう紹介しながら、青年バナールは隣りにいるナウケ・フォン・ブレートマンの方へ手を向けた。
「ボクがナウケだ」
と一言で挨拶を済ませたナウケは、華奢でなよなよした、蒼白い顔をした頼りなさ気な少年で、年齢は15、6歳位
だろうか。
いくらか幼く見えるのは、その坊ちゃん刈りのせいもあるのだろう。
いかにも世間知らずでわがままそうな、横柄な態度をしている。
「男爵閣下はどちらに?」
タウが質問すると、バナールが答えた。
「残念ながら、旦那様はこちらにはおられません」
「いない?」
今度は執事のタントが前に出て説明する。
「実は、旦那様は持病のリューマチが悪化致しまして、現在は湯治のため・・・、ため・・・、ため・・・、
なんじゃったかの?」
バナールが助け船を出す。
「ヴェップーです」
「そうそう、そのヴェップーで逗留中でございまして・・(汗)」
領主が病気療養中とは想定外だった。
ヴェップーとは、ゾルクロース王国南東部にある有名な温泉保養地の事で、ブレートマン男爵領とは随分離れている。
「では山賊退治は中止ですか?」
「あ、いえいえ、それにはご心配及びません。 皆さんが到着し次第、行動に移るよう仰せ付かっております。
で、後続の部隊は何時ご到着で?」
「後続?」
バナールの言葉に一行は首をかしげた。 ヴィリーがソファにふんぞり返ったまま素っ気なく言う。
「後続って何だよ、来たのはオレ達だけだぜ」
「な、何ですと(汗)!!」
バナールは驚きの声を上げた。
続いてナウケが、そのカン高い声で感情を露わにする。
「お主達4人だけで参ったと言うのか!?」
「そうですが・・・」
「ああ、な、なんと言うことだ・・・。
我々は父上から山賊退治のエキスパート、最精鋭部隊が大量に送り込まれると聞いて、期待に胸を踊らせて待ち
焦がれていたというのに・・・。
それが・・・、たったの4人とは・・・(汗)。
一体何が・・・、何があったと言うのだ!。
これはなにかの間違いか! 何故たったの4人しか来ないのだぁぁ!」
ナウケはギュッと拳を握り締めたまま、俯いて悔しがった。 なんだか役者じみている。
「おい、ちょっと待て、たった4人とは聞き捨てならんな!」
ヴィリーが目つきを鋭くして、貴族の若を睨みつけた。
「オレ達を誰だと思ってやがる!ドラゴンフォースだぜっ!」
「ドラゴンフォース? ほほう、ブラストビートで突っ走れっ、とか言うやつだな」
「おうよ! 猪突迷信ってヤツよ!」 <ブラストビートって何だっけ?>
「やめなさいヴィリー、迷信じゃなくて猛進でしょ。
だいたい山賊退治の専門部隊ってなによ、そんなもの何処にも無いわよ」
ニートはヴィリーを止めながら、一番話の解り易いバナールの方を向いて言った。
「そ、そうなのですか?」
「そうよ、そんな有りもしないものに期待してるなんて、どうかしてるわ。
きっと男爵は、なにか誤解したか、ウソを言ったのね」
「なんだと! お前は父上を愚弄する・・・気か・・・・・」 ポ・・・(赤)
と、一度は激昂しかけたナウケだったが、ニートの顔を見て急速にその勢いを落とした。
どうやらニートに対して何か思うところがあるらしい。
「だ・・、誰だ君は・・・(汗)」
タウが慌てて謝罪する。
「これは失礼しました、坊ちゃん。
紹介がまだでした、これは私の部下のニート・エマンツェです。
そしてこっちがヴィリー・アイゲンとアイヒ・ヘルンヒェン、私が護衛連隊第7小隊長タウゲニヒツ・ラングヴァイ
ラー軍曹です」
だがナウケの耳には一言しか届いていなかったようだ。
「そ、そうか・・・ニート・・・(赤)」
バナールは、手で顎を摩りながら考え込んだ。
「しかし困りましたね・・・、4人だけとは、想像もしてませんでした・・・。
まあ、何百人も来られてもそれはそれで困りものですげどね」
タウの方にも聞きたいことはあった。
「しかし、我々はそちらの方でも騎士団のご用意があると伺っていたのですが」
「騎士団ですか・・・、それは我々のことです」
「我々?」
その時、最初に出会った庭師と、馬丁のクラトラーの2人が、けったいな格好をして部屋に入ってきた。
2人は、ブリキのバケツを潰したような、ベコベコに波打っている金属板を胴に巻き、頭に鉄鍋を被って、庭師は
大型の剪定鋏を、馬丁はピッチフォークをそれぞれ手に持っている。
バナールが言う。
「ここにおられるナウケ坊ちゃんを団長とし、執事のタント、庭師フーデル、馬丁クラトラーとこの私が、騎士団の
全員です」
「なにぃ!?」
ヴィリーが驚きの余り、ひっくり返ったような変な声を上げて立ち上がった。
「これが騎士団だとぉ?」
ヴィリーの目にはこう映っていた。
ヘナヘナでナヨナヨのガキ、じじいが2人、どこにでもいる田舎の農夫、インテリでヒョロヒョロの若造。
「こいつらのどこが騎士団だってんだよ! こんなのなんの役にも立たねーぞ!」
対して執事のタントが怒鳴る。
「この無礼者! 坊ちゃまになんということを!」
「そうじゃねーかよ! てめーなんかタダのジジイだろー!」
「やかましいわ! わしとて今少し若ければお主なんぞに負けはせんわい!」
「なんだとこの老いぼれ! 試してみるか!」
タウが止める。
「もうよせヴィリー! これから一緒に山賊退治をやろうというのに、今からそんなのでどうする」
「一緒だぁ? 冗談じゃねーぜ、こんなヤツらと一緒に戦えるかっ!
もういい!オレらだけでやる。 巻き添えはごめんだぜ」
「くっ・・・、何という屈辱・・・(汗)」
タントは拳を握り締めて口惜しがったが、それ以上のことは何も出来なかった。
ヴィリーは紛いなりにも王室直属の護衛連隊員、並の軍人ですら敵わない相手である。
タントのような、なんの兵役の経験もない老人が、刃向かったところで歯が立たないのは目に見えている。
「ヴィリー、一緒に戦うとは、なにも共に最前線で剣を振るう事だけを意味するものではない。
剣を持たなくても一緒に戦える方法はいくらでもある、それを忘れるな」
そう言ってヴィリーを窘めるタウの発言は、タントをはじめとして戦闘経験の無い名ばかりのブレートマン騎士団の
メンバーにも力を与える、いかにも国防軍の補給部隊の出身者らしい説得力を持っていた。
バナールが話を進める。
「しかし困りましたねぇ。 これだけの人数で山賊退治となると、かなり困難ですね」
双方は、互いに相手の陣容がもっと充実したものだと思い込んでいた。
両陣営合わせて僅か9人、しかも男爵側が戦闘未経験者とは、全くもって予想だにしていなかった。
「もっと人を集められないのですか?」
「それは恐らく無理でしょう。
元々旦那様は私兵をお持ちではありませんし、既に3回勇士を募ったのですが集まりませんでした。
領民を強制的に参加させる事は出来るかも知れませんが、旦那様はそれをお望みではありません」
「う〜む・・・」
「どーすんだよタウ、この人数じゃ山狩りなんか出来っこねーぞ」
「そうね、山賊退治って言ったら普通は山狩りだけど、山狩りは百人単位で一斉にやらないと効果がないわ」
さすがに山賊退治の経験者であるヴィリーとニートはよく分かっている。
山に籠もる山賊を退治するには、百人から数百人が等間隔に広がって、山の麓から頂上に向かって登り、隠れ処を
見つけるか、或いはそこから追い出して、徐々に包囲網を狭めて一網打尽にするのが最も簡単な方法である。
ヴィリーの場合もニートの場合も、以前に参加した山賊退治は、共に山狩りによるものだった。
つまり、9人で山狩りを行うのは到底不可能、というより全く成果が望めないのである。
「ホファート子爵側に応援を頼むことが出来ればいいんだが・・・」
タウの独り言のような呟きに、即座にバナールが反応した。
「それは難しいですね。
確かにホファート子爵は経済的にも豊かで、領内には港湾施設が幾つもありますので、警備の人材や、税関にも政府
の役人が沢山常駐しています。
しかし、国王陛下がドロッセル峠はブレートマン男爵領とする、とお決めになられましたからね・・・。
これは、経済的に困窮している我が男爵家を慮ってのことだと、旦那様はおっしゃっておられました。
峠に関所を設けて通行税が徴収出来るようになれば、それは願ってもない事なのですが、そのためにホファート子爵
が手を貸して下さるとは思えません。
ホファート子爵とはそういう方です。
他人を利するために己が部下を遣わすなど有り得ないでしょう」
「お詳しいんですね」
「私は、こちらでお世話になる前は、ホファート子爵の元で会計の仕事をしていましたから、ほんの1,2年ですが。
ですので、あの方の性格は理解しているつもりです」
そう言ったバナールが、その眼鏡の奥で幾らか険しい表情を見せたのを、タウは見逃さなかった。
見たところ、バナールは物腰も穏やかで、話し方も丁寧で礼節を弁えている。
だが彼はその名前から貴族ではない。
恐らくは商人か学者の息子、何れにしろ平民の出であろう。
典型的な貴族であろうと思われるホファート子爵とは、思想が合わないとしても無理はない。
タウは暫し考えた後、バナールに質問した。
「敵の・・、山賊の人数は分かりますか?」
「詳しい数までは分かりません。
ドロッセル峠に一番近いギムペル村の村長に、情報を集めるよう要請しておきましたが、今分かっているのは、
賊は一つではないということだけです。
少なくとも2つの集団があるらしいのですが、或いはもっと多いのかも知れません」
「情報が少な過ぎるな・・・」
「残念ですが、私が知っているのはそれだけです。
村へ行けばもっと色々と分かる事もあるとは思うのですが、皆さんお疲れでしょうから、とりあえず今日はこちらで
お休みいただいて、明日現地へ向かうことにしましょう。
さっそく食事と部屋の用意をさせますので、暫くお待ち下さい」
バナールら騎士団の一同が部屋を後にしようとすると、ヴィリーがそれを呼び止めた。
「おいちょっと待て」
最後尾にいたバナールが立ち止まって振り返った。
「何でしょう?」
「この屋敷にいるのは、お前等だけで全員か?」
「今は、他にメイドが9人いる以外は皆旦那様に同行していますが、それがどうかしましたか?」
「あのガキに姉ーちゃんとかいねーのか?(ニタニタ)」
「ねーちゃん?」
バナールは、何故ヴィリーがそんな質問をするのか不審に思ったが、礼節をもって丁寧に答えた。
「坊ちゃんにご兄弟はおられません、旦那様のご子息は坊ちゃんお一人だけです」
それを聞いたヴィリーは、途端に落胆した表情を見せてソファに体を埋めながらため息をついた。
「はあー、なんだつまんねー・・・」
そしてタウを横目で睨む。
「おいタウ! てめーウソついたな!(怒)」
「嘘はついとらん、あくまで仮定の話だと言ったはずだぞ。 まさかお前、ここまで来てやめるとは言わんだろうな」
「さあねー、もうどーでも良くなっちまったしなー」
ヴィリーは完全にひねくれてしまった。
「まあ、そう言うな。 ここで活躍すればそのうち道も開けるというものだ」
「さあー、どーだかねー・・・。
こんなちんけな田舎で1つ2つ手柄を上げたところで、何がどーなるってもんでもなさそーだけどなー」
「それはどうかな。 どんな壮大な計画も、最初は小さな成果を得るところから始まるんだぞ。
お前のハーレム計画も例外ではあるまい」
それを聞いたバナールが驚いた顔で聞き返す。
「ハーレム計画?」
「ああ、もういいよ、てめーに用はねー」
ヴィリーは目を閉じたまま、右手の手首だけを左右に振り素っ気ない返事をした。
とっとと出て行けと言わんばかりに。
ヴィリーの不躾な態度をフォローするように、タウがバナールに近寄って耳打ちをする。
「こいつは単に目立ちたいだけなのです、特に外部の女性に。 それ以外の動機はないのです。
しかも底知れぬ体力と強靱な体を持っています。
ですから、うまく煽てて使ってやれば以外と人畜無害なんですよ」
「そ、そうなんですか?」
バナールはヴィリーの単純な性格を知って、少々いたずら心が芽生えてきた。
そして、ヴィリーに向かってニコニコ微笑みながら言ってみた。
「ではヴィリーさん、こうしましょう。
山賊退治が成功した暁には、皆さんの活躍を本にして出版するというのはいかがですか。
きっと大評判になりますよ」
「本?」
「そうです、もちろん全国の貴婦人やご令嬢方にも読まれますよ。 私もお力になりましょう」
「なんか、いけ好かねーけど、まあいいか・・・」
そう言って、どことなく無関心を装うヴィリー、しかしその顔はしっかりニヤけていた。
タウは護衛連隊の活動が明文化され、しかも一般に向けて出版されるなど現実には有り得ない事だと承知していたし、
バナールの発言がヴィリーをその気にさせるための虚言であることも理解していたが、この場は何も言わずに流して
おこうと考えた。
今はそれがベストだと。
ギムペル村、
そこは何の変哲もない、山間の寒村だった。
村の人口は百人足らず、その多くが林業か木材加工業に従事しているという。
しかし、村の一番の働き手である若い男達は山賊の出没に伴って山での仕事を追われ、その殆どが領外の別の山地へ
出稼ぎに出ている、と現状を説明してくれたのは村の村長。
であるからして、山賊退治は悲願ではあるけれど、そのために出せる人材はいないのだと嘆く。
一行は、街道沿いにある2軒の旅籠に分散して宿泊することにした。
村にある宿泊施設はこの2軒だけで、街道を挟むように向かい合って建っている。
以前はその周囲の食堂等と並んで、それなりに繁盛していたそうだが、ドロッセル峠を迂回せざるを得なくなって
以来、商人や旅人がここを宿泊地とすることが殆どなくなってしまった。
迂回に必要な時間と行程を考慮した場合、隣り町に宿を取った方が都合がいいからである。
今はせいぜい休憩のために立ち寄る程度なのだと宿屋の主人は言う。
宿屋の隣りにある食堂に集まった一行9人と、村長、宿屋の主人。
その時間、食堂に客はおらず、6つほどある4人掛けテーブルの3つに各々腰を掛けた。
村長と宿屋の主人は、それぞれ地元の村人や、宿屋に立ち寄る商人等から山賊に関する情報を集めていた。
その内容の多くは重複する部分があり、それをバナールが整理するのに多少時間を要したが、やはり少なくとも2つの
グループがあるらしい事がはっきりしてきた。
その1つが、ダウスという名の男を首領とする十数人程度の集団で、数年前から時々出没していたらしい。
このグループの特徴は、殆どの場合商人の荷馬車だけを襲い、人は殺さず、積み荷も全て奪わず、自分達に必要と
思われる物を必要な分だけ持ち去るという、山賊にしては珍しい良心的(?)な行動を取っている。
もう1つは文字通り凶悪で、基本的には商人の荷馬車を襲うが、何故かホファート子爵領側から峠に入るものしか狙わ
ない。
しかも、商人や御者等その場にいた者は馬に至るまで全て殺し、積み荷は根刮ぎ持ち去り、時には旅人をも襲っては
金品を奪い取り殺害するという傍若無人ぶり。
この集団の人数は不明だが、どうやら1年位前から出没し始め、次第に過激になって行ったようである。
つまり、この集団の存在が、今回の任務の直接の引き金となったのは明らかで、峠を通行する商人達はこの集団を
ことさら恐れている。
「なるほど・・・」
村長や宿屋の主人の話を聞いたタウが徐に口を開く。
「前からいた、そのダウスとかいう男のグループは、良くも悪くも程度を弁えていたということか・・・」
「なに言ってんだ、山賊に程度もへったくれもあるか」
食堂の木製椅子をギイギイ軋ませて背にもたれるヴィリーがいつも通りの口調で、しかも真っ当な意見を言うと、
ナウケが同調した。
「いかにも!
山賊とはすなわち悪しき存在であり、どんなに体裁を繕おうとも、決して正義の味方たり得るはずがない」
「ご明察! いやあ坊ちゃん、実にすばらしい」
すかさずタントが褒める。
「バカかてめーは、正義の味方はこのオレ達、ドラゴンフォースに決まってんだろ!」
「このたわけ者! 坊ちゃまに何ということを!」
「いいよ、爺、こやつは、バカという発言をする者の方がバカなのだ、と言う常識を知らんのだ」
「ガキかてめーは・・・」
「ガキとはなんだ無礼者! こう見えてもボクは20歳だぞ!」
「な、なにい!?」
15,6歳にしか見えなかったナウケが20歳とは意外だった。
年の割に幼く見えるというのには恐らく、見た目よりもむしろ、ナヨナヨしているくせに言う事だけは一丁前、つまり
言動不一致なのが大きく関係していると思われる。
しかも本人は全くそれを自覚していない。
「てめーがオレより年上だあ?」
「ふふん、どうだすごいだろう」
「そんなことで自慢すんな! 本気でバカだな、てめぇ・・・」
さすがのヴィリーも呆れ果てて、もうそれ以上言い合いをする気力も失せた。
ナウケは偉そうにふんぞり返って、隣りのテーブルにいるニートの方をチラッと見た。
ニートはテーブルに肘をついて手に顎を乗せ、所在なさげに窓の外をぼんやり眺めている。
彼女はこのギムペル村に来てから一度も口をきいていない。
ヴィリーとナウケのやり取りも全く聞いておらず、それどころか村長やタウの言うことすら耳に入っていないようだ。
まるで存在感、というより生命感さえ感じられない、ほとんど腑抜け状態で、その横で美味しそうにプリンを頬ばる
アイヒの方がよっぽど頼り甲斐があるように見えるというのは明らかに異常事態だ。
だがバナールにそんなことが分かろうはずもなく、彼は一刻も早く作戦を立案し、それに基づく行動の段取りの支度を
急ぐべく考えていた。
「で、軍曹さん、作戦はどうします?」
「そうですね・・・、山狩りが不可能となれば、敵を誘き出す以外に方法は無いでしょう」
「おびきだす?」
「幸い、敵の人数はそれほど多くはない。
2つの集団を一度に叩くのは無理としても、1つずつなら勝ち目はあると思うのですが」
それを聞いたナウケが、調子に乗ってテーブルをドンと叩いた。
「何を言う! こちらから正々堂々打って出るのが道理であろう。
大義は我々にこそあるのだぞ。 今さら何を恐れることがある!」
そう勇ましく威勢を張ってみせ、正々堂々とか大義名分とか、現実を見据えずプライドだけで生きている貴族がよく
口にする決まり文句を並べ立てた。
タウは冷静に反論する。
「大義はどうあれ、これだけの人数では選択出来る作戦は限られてしまいます。
それに、敵は山の特徴を知り尽くしているはず、むやみに攻め入るのはそれこそ自殺行為というものです」
「なるほど・・・、山では敵に地の利がある、ということですね。
ではどうやって誘き出しますか?」
バナールはナウケの事を意識しつつも、やはりタウの意見を尊重した。
自分の発言をあっさり切り捨てられたナウケは、多少イジけてしまった。
半分ふてくされたような顔をしながらぶっきらぼうに言う。
「ならば山に火を放てば良かろう。
さすれば、いかに卑劣なやつらとてコソコソ隠れ回っている訳にも行くまい」
「そ、それは出来ませんよ、坊ちゃん(汗)」
「何故だ、バナール」
「この地方の民衆は、林業を生活の糧にしています。
火を放って山を丸裸にしてしまっては、例え山賊が退治出来たとしても、民衆も生活出来なくなってしまいます。
それでは意味がありません」
「そ、そんなことは分かっている! 言ってみただけだ・・・(汗)」
些か赤面しながら慌てて取り繕うナウケ。 これで少しは自分の視野の狭さが理解出来ただろうか。
タウが具体的な話を始めた。
「敵を誘き出す方法は1つ、エサを撒く以外にない。
そこで、馬車を、我々が乗ってきた馬車を隊商が使うような荷馬車に改造したいのですが」
「改造、ですか?」
「そうです、あの馬車には幌がない。
積み荷が外からまる見えになってしまうと都合が悪いんです。
だから幌を付けて、積み荷が何だか分からなくしなければなりません」
「積み荷ってなんだよ、何を運ぼうってんだ?」
「積み荷はお前だ、ヴィリー」
「オ、オレ?」
「そうだ、我々が積み荷となって馬車に乗り、峠へ入る。 そして現れた山賊を退治する、という寸法だ」
「なんかすっげー単純」
「単純なればこそ引っ掛かる。 余計な策を労したところで相手に警戒されるだけだ」
バナールが不安を口にする。
「しかし、必ず襲ってくるという保証はあるのですか?
今は殆ど利用しなくなった峠を、しかも護衛の兵士も付けずに通ったら、それこそ敵に怪しまれはしませんか」
「そうですね、確かにその保証はない・・・。
現れるまで何度も行ったり来たりするのも、逆に罠だと教えているようなものだし。
そこで、ある物を用意していただきたい。 それを使えば必ず敵は現れる」
「分かりました。
ところで、皆さんが積み荷に隠れるとすれば、御者は誰か他の者がつかねばなりませんね」
「それはクラトラーさんにお願いしたい」
「クラトラー!?」
唐突に出たその名前に驚いた一同は、一斉にクラトラーに注目した。
「え?わ・・・わスだスか?(汗)」
もちろん一番驚いたのは名前を出されたクラトラー本人。
彼は目を丸くしておどおどした。
クラトラーはどこにでもいそうな平凡な40歳代の男で、日焼けしたその顔は短い頭髪と無精ひげ、太い眉と、
いかにも体毛が濃そうな、それでいて純朴そうな目をしている。
そして見るからに農作業が板に付いた、小柄ではあるがガッチリとした筋肉質の体型の持ち主である。
タウが彼を選んだ、その理由を話す。
「クラトラーさんは、見ての通り足腰もしっかりしているし、なにしろ馬丁ですから馬の扱いには慣れている。
作戦の同伴者としては最適でしょう。
もちろん戦闘に参加していただく必要はありませんし、山賊が出たらすぐ逃げてもらわねばなりません。
そのために一番足の速そうなクラトラーさんにお願いするんです」
「なるほど、どうです?クラトラーさん」
「は、はあ・・・、わスでよければ・・・(汗)」
「よろしい、ではさっそく準備にとりかかりましょう」
バナールがクラトラーに意向を聞くと、クラトラーは些か躊躇しながらも承諾し、作戦が実行される運びとなった。
準備は全てバナールの指示で行われ、彼はすぐに馬車の改造に取り掛かった。
彼は馬車を採寸すると紙に簡単な図面を書き、村長によって集められた数人の大工に材木加工の指示を出す。
幸い、この村は古くから林業と木材加工に携わる人が多いため、若い人材がいなくても一線を退いた老職人達が
喜んで手を貸し、材木のストックにも困らない。
2日を待たずして荷馬車は完成する見込みとなった。
だが、タウがリクエストした、山賊を確実に誘き出すための“ある物”は、調達に今少し時間を要することが判明した
ため、それまで作戦の開始は先延ばしになった。
つづく・・・だってよ。