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059「とりかえばや」

「そういわれてみれば、シャワールームやトイレで見かけたことがなかったなぁと思ったくらいさ。あまりにも違和感が無いから、先生や彼女が証言しなければ、冗談だと思っただろうね」

「な~んだ。僕の取り越し苦労だったのか」


 ヴェロニクのことを保健医に任せたあと、寮の自室に戻ったテオとドミニクは、そうそうに就寝支度を整えてベッドに入ったが、どちらもなかなか眠れなかったので、雑談を交わしている。テオのベッドの横には丸イスがあり、座面の上には、ロウソクを灯した燭台(しょくだい)が置かれている。


「双子の弟がいたっていうのも、男だと誤解する元だよ。男女の双子だって断らなければ、普通は同性だと思うから」

「勘違いするだろうと踏んで、あえて伝えておくんだけどね」

「確信犯だったのか。――それで、どんな弟だったんだい?」

「そうだなぁ。店舗を兼ねた母屋とは別に、池がある庭を挟んで渡り廊下を奥に進んだところに、こじんまりした離れがあるんだけどさ。それを中心に、板塀を境界線として囲まれた領域が、僕と弟の世界のすべてだったんだ。まぁ、外に出られない代わりに、充分過ぎる衣食住を保障されてるという寸法だね」

「へぇ。案外、箱入り娘だったんだな」

「案外は余計だよ。僕には、その小さな世界に閉じ込められてるのが、とても耐えられなくてね。いつも、どうやって塀を乗り越えて外に出てやろうかと思ってたんだ。木登りを覚えたのも、その頃だよ」

「箱入りじゃなくて、おてんばだったか」

「訂正しなくて良いのに。――だけど、弟は平気で、むしろ知らない誰かに自分の内面世界に踏み込まれる心配がなくて安堵してる節もあったくらいだったんだ。そんな僕たち姉弟を見て、祖父や父は、身体と心を交換したいと思ってただろうね」

「なるほど。なんの因果か、ドミニクは弟になりすますことになったわけだけどな。どうだい、塀の外へ出た感想は?」

「面倒なことも多いけど、愉しいよ。刺激があって、毎日がバラ色さ」

「それは結構。――明かりを消すぞ」

「どうぞ」 


 テオは、ドミニクの返事を聞いてから、静かにロウソクの炎を吹き消す。すると、ドミニクがためらいがちに言う。


「やっぱり、ベッドを移動させたほうが良いかな?」

「その必要は無いだろう。この半年余りで、癖の悪い尻尾のあしらいかたにも慣れてきたことだ」

「でも、僕は女の子なんだよ? 健全な男の子として、異性を意識しないのか?」

「あいにく、僕はエマさん一筋なんでね。何があろうと、君に色香を感じて惑うことは無い」

「そう言いきられると、僕に性的な魅力が無いみたいな気がするんだけど?」

「ノーコメント。明日も早いから、そろそろ寝ないと」

「は~い。おやすみ、テオ」

「おやすみ、ドミニク」

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