058「正体見たり枯れ尾花」
「こいつは、家が隣合わせで歳が近いというだけの他人だ」
「こいつ呼ばわりしないでよ、ドミニク。私には、ヴェロニクって名前があるんだからね」
ベッドサイドに腰かけ、ドミニクと、ヴェロニクと名乗る少女が言い争っていると、その向かいのベッドに腰かけているテオが口を挟み、仲裁する。
「えーっと。とりあえず、幼馴染ってことで話を進めるね」
三人の周囲には、包帯やリネン類が種類ごとに几帳面に積まれた棚や、消毒液などのガラス瓶が並んだ扉付きの棚などがある。数分前、茂みでリーフグリーンの髪と小麦色のキツネ耳をした少女を見つけた二人は、こっそり医務室に連行し、当直中の保健医に状況を説明した上で、事情聴取しているのである。
「ヴェロニクさん。君は、ここが女性の立ち入りを禁止されている場所であることは、知っているのかな?」
「あら、そうなの? でも、ここにいるじゃない」
「へっ?」
ヴェロニクがドミニクを指差しながら言い、その思いもよらない回答にテオが呆気に取られていると、ドミニクは、素早くヴェロニクの口を手で塞ぎながらキツネ耳に囁き、次いでテオに向かってなんでもない風を装う。
「余計なことを言うな、ヴェロニク。――気にしないで、続けて」
「あぁ、うん。それじゃあ、質問を続けるよ。いつ、どうやって、ここに」
侵入したんだ、と言いかけたとき、ヴェロニクは白い煙とともにキツネのような尻尾を出し、ドミニクが煙を手で払っている隙に懐に手を入れ、一葉の写真をテオの手に持たせつつ、暴露する。そのスナップには、リス耳で顔や背格好のよく似た男女の幼子と、キツネ耳の幼女が写っている。
「この長い髪の女の子が、ドミニクなの!」
「なんだって」
「あっ、コラ! 勝手な真似をするな」
ドミニクがテオの手から写真を奪い取ったタイミングで、シャーッと間仕切りのカーテンが開き、白衣を着た保健医が姿を現す。
「もう、隠さなくても大丈夫なんじゃないかな、ドミニク」
「あっ、先生。でも……」
「心配いらないよ。テオなら、きっと理解してくれるさ」
保健医が、どこか寝不足による疲れを滲ませながらも、ニッコリと優しく微笑むと、ドミニクは意を決した様子で口を一文字に引き結んだあと、とつとつと語りはじめた。