057「レンブラントの名画もどき」
「注文するなら、食べきれる量にしてくれ。なんだって、大盛りを注文するんだよ。あー、胃が痛い」
「悪い悪い。つい、いつもの癖で。残したら怒られるのを、すっかり忘れてた」
脇腹を押さえながら文句を言うテオと、眉をハの字に下げて許しを請うドミニクが、すっかり日が暮れた中庭を歩いている。その手には中にロウソクを灯したランタンを持ち、詰襟で腰に白木の警棒を提げた姿の二人は、学内を見回りしているのである。というのも、始業式を無断欠席した罰として、上級生から夜警当番を言い渡されたからだ。
「その前に、カフェで食べすぎたせいもあるだろうけどね。結局、二階で何をしてたんだ?」
「ヘヘン。それは、教えられないよ。これは、アランさんとの秘密だから」
セリフの後ろにハートマークでも付きそうな調子でドミニクが言うと、テオはハイハイと軽く受け流して言う。
「あっ、そう。それって、前に言ってた弟くんとも、関係するのか?」
何気なくテオが疑問を口にすると、ドミニクは口を噤んで俯く。すると、テオは早口にフォローする。
「言いたくなければ、言わなくていいよ、ドミニク。でも、話したくなったら、すぐに教えてくれ」
「ゴメンな、テオ。――それにしても、夜の学校ってワクワクするよな」
「どこがだよ。薄気味悪いだけじゃないか」
急に元気を取り戻したドミニクに対し、テオはウンザリしながら言う。すると、ドミニクは、ランタンをテオの顔に近付けつつ、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら問い詰める。
「そんなことを言って強がってるけど、ホントは暗がりが怖いだけじゃないのか? ヘイヘイ、ボーイ。正直に吐いて、楽になっちまえよ~」
「眩しっ! そういうんじゃないから」
テオがドミニクのランタンを手で払いのけたタイミングで、前方の茂みがガサガサッと音を立てる。
「風かな? それとも、お化けが寄って来たのかも。た、た、り、じゃー!」
「シッ! 静かにしろよ、ドミニク」
テオが悪ふざけをするドミニクの口を片手で押さえると、二人は無言のまま、ゆっくりと足音を忍ばせて茂みに近付いていった。