053「行きがけの駄賃」
「そろそろ戻らないとマズイって」
「大丈夫だって。水気が多くて、なかなか燃え切らなかったって言えば良いさ。――ヤマモモ、ゲット!」
手際よく分担して部屋の掃除を終え、監督生の許可を得てゴミを捨てに来たテオとドミニクだったが、寮に戻る際、中庭を突っ切ったことが誤算であった。
特に手入れもされないまま、自然に生えるに任せられている草木の中に、一本のヤマモモの樹が生えているのを、ドミニクが目ざとく見つけてしまったからである。
「大漁、大量! はい、テオの分」
「いらないよ。また、そうやって勝手なことをするんだから」
テオが、樹の上からスルスルと降りて来ては、豆絞りの手拭いに包んだヤマモモの実を渡してくるドミニクを、近寄るなとばかりに左手で突っぱねると、ドミニクは不満そうな顔をしつつ、スラックスのポケットに入れている分を手拭いの中に移していく。
「ヤマモモは嫌いなのか、テオ? 他に、キイチゴかクワの実でもあれば良いんだけど」
「キョロキョロするな。そういう問題じゃない。採って良いか訊きもしないうちに、収穫するなと言いたいんだ」
「誰かが育ててるようには見えないけどな。それに、根こそぎ採ってきたわけでもないんだぜ? ――ほら、来た!」
ドミニクが上空を指差すと、テオも同じ方向に注目する。視線の先では、スズメに似た小鳥が三羽ほど飛んできては、めいめいに紅い果実を啄んでいる。
「ちゃんと、あいつらの分を残してあるんだ」
「なるほど。小鳥には忖度するんだな」
「どこか、トゲのある言いかただな。――あれ? あそこに、誰か居ないか」
二人が視線も地上に戻すと、ドミニクは怪訝そうな顔をしつつ、草むらの向こうを指差す。それを受けて、テオも眉間にシワを寄せて目を凝らしつつ、陰に隠れている物体エックスを見極めようとする。
「たしかに、何かがコチラの様子をうかがってるようだな」
「仲間になりたいのかな?」
「なんのだよ?」
「決まってるじゃないか。コメディアンのだよ」
「待てよ、ドミニク。僕は、君とお笑いコンビを組んだ覚えは無い」
ドミニクのボケにテオがツッコんでいると、草むらがガサッと音を立てて小さく揺れる。
「そうだっけ? 僕としては、出会った瞬間から運命共同体だと思ってたのに。――気配が消えたね。どこへ行ったんだろう?」
「ちょっと、追いかけるなって」
ドミニクが草むらに向かって小走りすると、テオも渋い顔をしながら、あとを追いかけて行く。