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072「斜め上の発想」

「イザってときに使えないなんて、あんまりだよ。なんのためのヨウゴ教員なんだ!」

「その擁護とあの養護とは、ぜんぜん意味が違うよ、ドミニク」

「ワーン。みんな、他人事だと思って真剣に取り合ってくれないんだー。僕は本気で困ってるんだぞ!」


 尻尾をフリフリ、脚をパタパタさせながら、ドミニクは枕に顔を半分うずめて、泣きたいのか怒りたいのかわからない調子で不平を叫んでいる。テオは、そのどっちつかずな様子に、どう声を掛けたものかと戸惑いつつも、ひとつの提案をする。


「あのさ、ドミニク」

「なんだよ、テオ。なぐさめなら、いらないぞ?」

「そうじゃない。諦めるのは、まだ早いんじゃないかと思ってさ。交渉の切り(カード)は、まだ一枚残ってるだろう?」

 

 テオが回りくどい言いかたをしてヒントを出すと、ドミニクは、何かを思い出そうと呻吟しながらベッドの上をゴロゴロと転がり、ゴトンッと鈍い音を立てて床に落ちる。

 

「おいおい、ドミニク。大丈夫か?」


 テオがベッドを越えて覗き込むと、ドミニクは頭上に星と小鳥を回転させながらフラフラと立ち上がり、ふと窓のほうへと視線を移したあと、だしぬけにひらめく。


「平気、平気。これでも、骨は丈夫に出来てるから。――あっ! そうか。エマちゃんに力を貸してもらえばいいんだよ、テオ!」

「えっ? なんで、そうなるんだ? 僕は、体育教官に直談判するという手を」

「持つべきものは、テオだよ。一時的にでも、僕が男に変身できないか相談すれば良いんだね。いやぁ、僕としたことが、こんな簡単なことに気付かないなんて、動転しすぎだな。ハッハッハ。さぁ、出発だ。善は急げ!」

「ちょっと待てよ、ドミニク」


 いま泣いたカラスが、もう笑う。ドミニクは急いで窓辺に向かうと、窓枠に足を掛けて桟にしゃがみ込み、テオの制止もきかないまま、目の前の大樹へと飛び移り、そのまま器用にスルスルと庭へと降りて行く。

 テオは半身を乗り出して窓の下へと視線を走らせ、ドミニクが学生通用口へと駆けて向かうのを確認すると、部屋に戻ってハーッと大きなため息をひとつこぼす。


「急がば回れということわざを知らないのか、まったく。頼むから、僕をトラブルに巻き込まないでくれよ。君のせいで、学校生活がメチャクチャだ」

 

 虚空に向かって誰にともなく呟くと、テオは急いで廊下へと向かった。 

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