070「退屈しのぎ」
「誰か、暇そうな少年が通りかからないかな~」
「代わりに塗らせるのか?」
「そう。うまくいけば、リンゴにありつけるかもよ?」
「歯を引っこ抜かれたくなかったら、黙って手を動かせ」
「はぁい」
ペンキ缶と刷毛を持ち、胸当てのあるエプロンを付けたドミニクとテオの二人は、背の高い板塀をブドウ色に塗っている。それぞれ、ドミニクが下半分を、テオが上半分を塗り進めている。
しばらく黙々と作業に取り組んでいたが、やがてドミニクが単調さに飽きて手を休め、幼い子が駄々をこねるような調子で文句を言う。
「見つからなかったからって、雑用を押し付けることないと思うなぁ。これでも、探せるだけ探したんだからさ。そうだろう、テオ?」
「ここでは過程より結果が、すべてなんだよ。どれだけ長時間にわたって真剣に勉強したとしても、試験で正解を解答できなければ、評価の対象にはならないのさ。――いいから、サボらず続けろ」
「なんだかな~。まぁ、帰りに砂糖漬けを分けてもらったから、よしとするか」
ドミニクは、ひとりで納得して刷毛にペンキを浸すと、まだ塗っていないところにポンチ絵のようなものを描きはじめる。
「マリーさんに塗ってもらうってのは、どうだろう?」
「木目が判別できないほどアーティスティックにされちゃ困る。却下だ。――遊ぶなよ、ドミニク」
「似てると思わないか? うすらハゲで鼻眼鏡」
「似てるかどうかの問題じゃない。落書きするな」
「ちぇ」
テオに注意され、ペンキを塗り重ねて似顔絵を消すと、ドミニクは再び塀塗り作業に取りかかる。
「じゃあさ。そのへんのベンチも塗り替えて、誰かに座らせるってのは?」
「次から次へと、しょうもないイタズラを考えつくものだな」
「えへへ。それほどでも」
「褒めてない。その頭の回転の早さを、もっと有意義に使えと言いたいんだ。第一、そんなことをしても、やったのは僕たちだってバレバレじゃないか。さらに罰を増やされたのか?」
「オッと。そいつは、いただけないな。そうなると、アリバイが必要か」
「そういう問題でもない。――これで、この面は終わったな」
テオが手を止めて缶と刷毛を足元に置くと、まだ作業途中のドミニクも手を止め、缶と刷毛を下に置いてウーンと伸びをする。
「よーし! キリが良いから、休憩しよう」
「どこがキリが良いんだ? まだ残ってるじゃないか、ドミニク」
「細かいことを気にしてたら、大物になれないぞ。手の抜きどころを心得ているのが、本当のプロフェッショナルである」
「なんだよ、それは」
ドミニクは木陰に駆け寄り、隠していた尻尾を出してそれをクッション代わりにしながら、大の字に仰向けになる。テオは、その様子を呆れ半分で見つつ、その無防備さにフッと小さく笑いをこぼすと、樹に背中を預けるようにして根方に腰を下ろした。