052「なんということでしょう」
「もー、いー、かい?」
「まっ、まーだ、だよー」
リスのような尻尾をはみ出させたまま、ベッドの下に潜り込んでいるドミニクに対し、テオは、まるでかくれんぼの鬼のように問いかける。すると、ドミニクは一瞬、総毛立ったあと、さらに奥へと身を隠しながら答えたので、テオはすかさず尻尾を掴み、カブかニンジンでも引っこ抜くような要領でベッドの下から引きずり出す。
「逃がすか、ドミニク。部屋の惨状を説明しろ!」
「ひっ! 僕じゃないって」
話は、数分前にさかのぼる。
テオが冬休みを終え、これから始まる春学期に頭を悩ませつつ、ボストンバッグを抱え、訓練学校にある寮へと戻ってきた。
「訓練も本格化してくることだろうし、先が思いやられるな」
『ハハハ。こいつは傑作だな』
「おや? ドミニクが先に帰って来てるのか」
独り言を吐き出しつつ廊下を歩いていたテオは、自室のドアの向こうから聞き慣れた声が聞こえるのに気付く。そして、テオがドアを開けると、どうすればこうなるのかと首を傾げたくなる散らかりようを目の当たりにし、ドアを閉めるのも忘れ、しばしその場に佇む。
すると、それからワンテンポ遅れて、ゴミが散乱したベッドの上で本を読みながら寛いていたドミニクがテオの存在に気付き、視線が合った直後に目をそらすやいなや、あわててベッドの下に姿を隠し、冒頭の現状に至るのである。
「君じゃなかったら、誰が散らかしたっていうんだ」
「イタズラ好きの妖精さんだよ。あいにく、お菓子をあげなかったから」
「カボチャ祭りは秋だ。まったく。頼むから、到着初日から事案を発生させないでくれ」
あきれた様子でため息をつきつつ、テオは入口に放置していたボストンバッグを部屋に入れてドアを閉めると、それを自分のベッドの上に置き、ぐるりと部屋を見渡す。
それからテオは、殺風景な一室を前衛アートに変えた魔術師ドミニクに小姑じみた指摘をしつつ、寮入り初日から大掃除に取りかかったのであった。