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069「ラプラスの悪魔のように」

「クマじゃなくて良かった。そうだろう、ドミニク?」

「あぁ。あやうく、辞世の句を詠むところだった」

「悪かったわ。声のひとつでも掛ければよかったんだけど、なかなか味のある演奏だったものだから、邪魔するといけないと思って」


 パッチワークのクロスがかかったテーブルを囲み、テオ、ドミニク、マリーの三人が和やかに喋っている。テーブルの上には、ショコラショーが入ったマグカップが並んでいる。カップの外側には、三者三様の彩色が施されている。


「ということは、ドミニクが勝手に笛を持ってきたから、こういうことになったと」

「僕のせいにするなよ。どっちにしたって、僕たちはあの場所で出合ってたに違いないって」

「まぁまぁ、因果関係について議論するのは、やめにしなさい。せっかく美味しく出来たのに、ショコラショーがまずくなるわ」


 そう言って、マリーはマグカップに口を付ける。それを見たテオとドミニクが、おのおのの前に置いてあるマグカップを手に取って飲み始めると、マリーはマグカップをテーブルに置き、半ば強引に議論に終止符を打ってから話題を変える。 


「野の草花は、自分の行動が社会や家庭にどんな影響を与えるかなんて、ちっとも考えてないのと同じよ。所詮、スミレはスミレってこと。ただただ、暖かくなったからバイオレットの花を咲かせるだけで、そこに意味なんて無いの。――そうそう。何週間か前の話だけど、二人して、一区のほうへパトロールに行かなかった?」


 マリーの質問を受けて、テオが無言でドミニクのほうを見ると、ドミニクはマグカップを口元から離して話し出す。


「行ったよ。誰かさんがイケメンなせいで、あっちこっちで足止めを食らったなぁ」

「君に言われたくないな。それに、あれは不可抗力だったんだから。――でも、どうして、そのことを?」


 テオが質問すると、マリーは納得した様子で愉快そうに説明する。


「やっぱり、あなたたちだったのね。最近、クロエがコーラス教室に通うようになったんだけど、そこに一区から来てる令嬢がいてね。クロエと同い年なものだから、子供同士の仲が良くて。それで、たまに私が兄さんの代わりで迎えに行ってるんだけど、そのうち、その子の母親に話しかけられるようになってね。それで」

「緑髪で小柄なリス獣人と、青髪でオモテ面は完璧な若者を見たという話になった、と?」

「ドミニク。僕に関する説明に、悪意を感じるのは、気のせいか?」


 口を挟んだドミニクが結論を先取りすると、それに疑問を挟むテオを受け流し、マリーはコメカミに指を添えながら話を続ける。


「ウーン、いい線いってるけど、惜しいわね。ただ目撃したころが印象に残ってるから話のタネにしたというだけじゃなくて、二人のことを詳しく知りたいという様子だったの。目的が分からないから、私もよく知らないというフリをして、適当にはぐらかして教えなかったんだけどね」

「へぇ。モテモテだな、テオ。ついに既婚者まで、よろめきだしたぜ?」

「面白がるな、ドミニク。僕は、本命以外の誘惑に負けるような軽い人間じゃない」


 ヒューヒューとはやしたてるドミニクに対し、テオが眉間に縦筋を刻みながら嫌がると、マリーはショコラショーを飲み干してから立ち上がり、空になったマグカップをキッチンへと持って行きつつ、二人に疑問を投げかける。


「ところで、ここへ来る前は、どうして二人だけで行動してたの? 遠足なら、ぞろぞろと集団で行動しそうなものなのに」

「あっ、それだけどね。聞いてよ。テオってば、探し物が下手なんだ」

「僕のせいにするなって。先に探すのをやめたのは、ドミニクのほうじゃないか」

「あら。何か落とし物でもしたの?」

「いいや、そうじゃないんだ。くじを引いて、そこに書いてあるものを探してこいって言われたんだけどさ」


 そう言いながら、ドミニクはテオのほうを向く。テオは、詰襟のポケットから一枚の紙を出し、それを広げてマリーに見せる。すると、マリーは目を細めて書かれた文字を読み取ると、足早にキッチンの奥にある棚へ向かい、一つの小さな丸缶を手に取ってテーブルに戻る。


「見つからなかったのは、私のせいかもしれないわ」


 そう言いながら、マリーは丸缶を開け、二人に中身を見せる。そこには、スミレの砂糖漬けがギッシリと詰まっていた。

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