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061「拡散と伝染と変異」

「それじゃあ、僕たちは、このへんで失礼するよ。東埠頭は、このパサージュを真っ直ぐ道なりに行った先だから。分からなかったら、途中でパン屋の人に訊いてみると良いよ。親切で世話好きだから」

「はい、テオさん。ありがとうございます」


 訓練学校の裏手に当たる場所にある学生通用口で、テオとヴェロニクが、別れの挨拶をしている。その横で、ドミニクは視線を合わせずに佇んでいたが、テオがドミニクの後ろに回って顔と身体をヴェロニクに向けると、ヴェロニクは愉快そうにハハハと笑ってから、ドミニクにも挨拶する。

  

「それじゃあ、ドミニク。また夏休みにね」

「あぁ。どれだけ僕が嫌がったって、親同士で仲が良いんじゃ、ヴェロニクの家か僕の家かで顔を合わせるハメになるだろうからね」


 不承不承といった体で、不愉快極まりなさを前面にあらわにしながら応えると、ドミニクは続けて、昨日のことを注意して釘を刺す。


「いいか、ヴェロニク。昼であろうと夜であろうと、ここには二度と忍び込むなよ。昼間は始業式で全校生が講堂に集合していて、庭には人気が無かったことや、夜警当番が僕たちで、しかも第一発見者が僕だったから、何事もなく済んだんだぞ。わかったか?」

「はーい。クノイチの真似事は、今回だけにしておくわ。ママには、ドミニクのルームメイトさんが、とってもイケメンだったって伝えておくから!」


 去り際に爆弾発言を残して駆け去っていくヴェロニクの背に向け、ドミニクは、口の横に手を当てて大声を出す。


「待て待て待て! あの小母さんに、そんなことを言ってみろよ。あらぬ尾鰭が付くんだぞ! ――アーア、行っちゃったよ」

「ドンマイ、ドミニク。人の口には戸が立てられないから、諦めろ」


 テオが励ますようにドミニクの肩を軽く叩くと、ドミニクは落胆気味にガックリと肩を落とし、捨て鉢になる。


「ハァ、しかたない。今度、船で帰ったら、テオには僕とは別に意中の人がいるから、そういうことにはならないって言って回らなきゃな」

「……伝言ゲームって、おそろしいな」


 二人は、頭上に鳩のフンが乗っかっている創設者のブロンズ像の横を通り過ぎ、講義に遅れまいとして早足で寮へと戻った。 

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