一番最初の僕等のはなし
僕の名前は朽木忌。
この名前でわかる通り家族から疎まれながら生まれてきた当主の妾腹である。
僕の所属している分家の元の本家である朽木家は、霊従派という流派専門の名家で、不本意ながらも分家の末端までその辺の陰陽師より対霊への戦闘能力が満遍なく高い。
……あぁ突然なにを話しているのかだって?
いや、まぁあれだ。やることが無さすぎてはなしたくなっただけの事だ。
別に深い意味はない。
さて、僕は今、何時もいっている公立の平均より少し頭のいい学校でも、僕の部屋である明らかにぼろっぼろの押入れでもない、第三の場所にたっている。
「……と言うことだ。精々努力することだな、出来損ない」
「はっ。慎んでお受けいたします」
御当主サマ……
そう息を漏らすように呟くと、実の父であり、そして元朽木家当主である朽木 棟鷹を見据えた。
冷利な瞳は、底冷えするような冷たさを含み、目を細める。
間に流れる空気は、親子というにはあまりにも殺発としていた。
「御子息、木虎殿の霊力の発現、または三春殿の霊力の抑制まで、当主としてこの家をお守り申し上げます」
肌寒くなってきた九月の事。
歓喜に顔を輝かせた母に、僕は売られた。
……いや、この言い方じゃあ語弊があるか。
正確には、朽木家に生まれた本家の二人が、片や霊力を持てず、片や霊力の強すぎる出来損ないであったため、ある程度の力を持っている妾腹で一応当主の血を継いでいる僕が、本家の二人の力が安定するまで当主として家を護るよう申し付けられたのだ。
勿論血の繋がった当主の奴隷である僕に拒否権は無く、至極あっさりと家を維持する人柱となったのである。
当主の息子であるのが、家を収める絶対の条件であるため、忌み子の僕に貧乏クジが回ってきた訳。
それが、僕が今、当主しか入れない執務室に置き去りにされている理由。
「んー、これもしかして、挨拶とかしなきゃいけない系?」
重苦しいため息をついて、面倒だと呟く。
いつもは平々凡々な容姿のお陰で空気扱いでなんとかやり過ごしているのに。
変に目立ったらやらかしちゃうじゃんもー。
やれやれと首を振ってみるが、やはりヘタレはヘタレ。
挨拶とかしなくてどんな目に遭うか考えただけでも空恐ろしい。
よいしょっと腰をあげて、襖を開ける。
思っていたよりも立て付けのいい襖だった。
「きゃっ」
「うわっ」
とん、と軽い音がして、誰か小柄な少女とぶつかってしまった。
尻餅をついたその子に手をさしのべる。
「大丈夫?……ごめん、ここは今日から僕の執務室なんだ。あまり近づかない方がいいよ」
「あなた……まさか」
澄んだ鈴のような声が響いた。
艶のある黒い髪、作務衣の袖口から見えるほっそりとした白い腕。
溢れる輝かしい美少女オーラに、頭を抱えたくなった。
「私の、おにいさま……?」
「み、三春様……!?」
濡れた黒い瞳は、ぱっちりとしていて、僕は確信した。
ふえぇ三春様じゃないですかやだー!