初めまして、普通の世界
「…………」
──眩しい。
これは、明らかに悪魔の星の光ではない。ラルクが理解するまでに時間はかからなかった。
「……ぅ…………っ…………」
あまりにも明るすぎる。目を閉じていても明るさは伝わってくる。
「………ここ……………は…?」
ラルクは仰向けの体勢からうつ伏せの体勢になり、目を開けた。先ほどの明るさよりは平気だった。どうやら、太陽を直視していたようだ。
「……緑で溢れてる。」
悪魔の世界に緑は少ない。ラルクの視界に映るのは、辺り一面が緑で覆われた場所。
「ここが『普通の世界』……確か、『人間』という生物が住んでいるって聞いた。勇者も勇敢な人間がやってるみたいだし…」
──突然、ラルクは違和感を感じた。
「僕、死んでない?いくら魔王と言っても、空から地に……だよ?流石に死ぬはずだよね。」
空から地へと落下すれば、死ぬのが普通である。ラルクは自分が今、普通の世界のどこにいるか。何故、助かったのかを探る。
「…なるほど。死んでいないのは、この葉の集まりがクッションになってくれたからなんだね。それにしても、凄い数の葉だけど。」
悪魔の世界にも普通の世界にも葉は存在する。悪魔の世界の葉は黒いものが多い。しかし、形は似ていた為、葉だということが理解出来た。
「いや、死んでいるという可能性も…」
ラルクは空を見上げた。
「眩しっ…」
空には青い空が広がる。眩しい太陽の光でラルクは目を眩ませる。あの空の上に悪魔の世界があるとは思えないほど、青い空だった。
「考えても仕方ない。…よし!」
思う存分、独り言を呟いたラルクは行動を起こすことにした。緑が生い茂る場所で歩みを進める。
「…は……ろ…!!」
「え?」
どこからか声が聞こえてくる。
「行ってみよう。」
ラルクは声のする方へと駆け足で向かった。そこには、予想していなかった光景が広がっていた。
「きゃっ…!?」
「ハル!大丈夫か!?」
「大丈夫…膝を擦りむいただけだから。」
「くそっ!!」
「何して………ん?」
見たことの無い生物が3体いた。そのうち、2人は悪魔と同じような形であったが、もう1つの生物は見たことの無いような形をしていた。
「喰らえっ!!」
「キヒヒ…」
剣を持った生物が気持ち悪い形の生物に剣を振り下ろす。しかし、簡単に交わされてしまった。
「キヒッ!」
気持ち悪い形の生物が気持ち悪い声を発して剣を持った生物を攻撃した。
「ぐわっ!?」
「ルイ!」
「大丈夫だ。けど…」
ラルクは何も出来ずにいた。どうしていいか分からなかったのだ。そんな分からない状況の中…
「キヒヒヒヒ…」
「…え!?」
ラルクを標的とした。
「大変!貴方、逃げて!」
「危険だ!」
どうやら、この生物たちは言葉を話すことが出来るらしい。それを理解したラルクが次に行動することは1つしかなかった。
「戦える!」
──戦うしかなかった。
「ドレイン!」
……………
「……あれ?」
一体、どういうことなのだろうか。
「魔法…え?なんで?使えなく…」
以前は使えたはずの体力吸収魔法が使えなくなっていたのだ。
「キヒィィー!」
「よっと…危ない。」
だが、目の前の生物の攻撃は簡単に避けることが出来た。
「何やってるんだ!!」
「早く逃げて!」
もちろん、ラルクに逃げるという選択肢は無い。目の前の会話出来る生物に倒れられては困る。
「僕に任せて。」
──この世界について、この生物たちから何か分かれば好都合であったからだ。そして何より、この状況から救いたいと思ったから。
「我は『煌めきの魔王』なり。」
「魔王…?」
「我に刃向かいし愚かな穢れよ。その命、我が貰い受けよう。そして、朽ち果てるが良い。」
「…待って、どういうことなの?」
「俺にも分かんねぇよ…」
「まぁ、これが敵を倒すときに言うみたいなやつらしい。1回言ってみたかったんだよね〜!」
悪魔の世界では、この台詞を言うと魔王らしさが出る。などと、いい加減なことを教わる。
「…は?」
「ただのヤバイ子なの?」
悪魔の世界以外だと、こうなる。
「キヒィ…」
「魔物が困ってるわ。」
「何とも言えないな。」
「行くよ!」
「キヒッ!?」
ラルクは魔物攻撃を仕掛ける。
「祓い祓いて祓いたまえ。急急如りちゅ……噛んじゃった。あぁ、もう恥ずかしい!えいっ!」
ラルクの蹴りが魔物に直撃する。
「グギャ…ガガ…」
魔物は消滅したようだ。
「蹴りで倒した!?」
「ただのヤバイ子じゃないみたい。」
ラルクが悪魔の世界で教えられた台詞に顔を赤くしていたところ、他の生物が声をかけてきた。
「あ、えっと…助かった。」
「あの、聞きたいことが結構あるの。」
こちらにも聞きたいことは数え切れないほどある。好都合と考えたラルクは応じた。
「それじゃあ、私たちの村まで来てくれるかな?そこなら、色々と話しやすいと思うの。」
「そうだな。…どうだ?」
「その方がいいなら、それに従うよ。」
この世界のことは何も分からない。今は、この世界の住民に従うのが安全だろう。
「でも、歩きながら話せることもあるよな?どうせなら、そっちの方がいいだろ?」
「それもそうね。じゃあ、自己紹介からしましょう。お互いを知っておくべきだわ。」
自己紹介…自分について教えるということ。相手が何者なのか、知っておくべきだ。
「俺からでいいか?」
「えぇ。いいわよ。」
さっき、『魔物』というものに攻撃したが、交わされてしまった生物の方だ。
「俺は『ルイ』だ!もう少ししたら、街を出て旅に出る予定。よろしくな!」
「うん。よろしくね。」
「次、私ね。」
さっき、膝を擦りむいて何もしなかった方だ。
「私は『ハル』よ。私も彼と一緒に旅に出て、世界を救うんだから!よろしくね。」
『世界を救う。』この言葉に疑問を覚えたラルクだが、まずは自分の自己紹介をすることにした。
「初めまして。新人魔王、煌めきの魔王のラルク・アスタルだよ。よろしくね。」
ラルクは自己紹介を終えた後、2体の生物の表情が変わってしまったことに気づいた。
「お前…さ。さっきから気になってたんだ。」
「えっと、なにか変なこと言ったかな?」
「魔王って、どういうことなの?」
魔王を知らない。やはり、ここは別世界だということを再認識したラルク。
「魔王は魔王だよ。勇者を止めるのが今の目的。争いが無いことが一番だもんね。」
目の前の生物たちは「意味が分からない」というような顔でラルクの方を見た。そして、ルイという生物の方が口を開いた。
「勇者を止めるっていうことは、俺たちと敵同士なのか?」
「敵?君たち、勇者なの?」
「もうすぐ、勇者になるわ。」
『勇者になる』という言葉を聞いたラルクは、少しばかり距離を取った。
「勇者…魔王をひたすら滅ぼすの?僕らの居場所を無くすってことなの?」
「魔王なんか、放っておけるわけないだろ。魔王は討つ。それが、俺たちの使命だ。」
「だから、均衡が崩れるのか。」
ラルクは悲しくなった。この世界について教えてもらおうと思っていた生物たちが自分たちの住む世界を滅ぼそうとしていることに。
「お前、本当に魔王なのか?」
「魔王だよ。僕は争いたくない。でも、勇者は止まらない。だから、僕は勇者に魔王を滅ぼすのはやめてほしい。…それを伝えたられたら。」
ラルクは勇者を殺したい訳ではない。下の世界を滅ぼすつもりも無い。むしろ、お互いが共存し合い均衡を保つ。それが、ラルクの願いだった。
「待って。じゃあ、さっき魔物から私たちを助けてくれたのは何故なの?魔物は貴方の仲間なんでしょ?貴方は仲間を殺したの?」
「……?」
言っている意味が分からなかった。
「仲間?さっきのが?」
「魔王と魔物って、仲間なんでしょ?」
やはり、何を言っているのか分からなかった。
「違うよ?僕の仲間は悪魔。さっきの生物は悪魔じゃない。初めて見たもん。」
相手も意味が理解出来ていないらしい。
「どういうことだ?」
「もしかして…」
正直、どうしていいのか分からなかった。下の世界に住む生物の話……いや──
「勇者になるなら、人間…で良いの?」
「あぁ。俺たちは人間だ。」
人間の話と噛み合っていない。
「ここが私たちの町よ。」
「魔王を入れて大丈夫なのか?」
「彼が本当に魔王かどうかは分からない。少なくとも、攻撃してくる気はなさそうよ。」
「…そうだな。」
──変だ。勇者は魔王を滅ぼすことが目的のはず。それなのに、ラルクを攻撃しないのは何故だろうか。そう考えているうちに、ハルが言った。
「ここが町長の家。ちょっと、待ってて。」
ハルが町長の家のインターフォンで連絡を取っている。流石に悪魔の世界にも家はあるし、これが家だということをラルクは理解していた。
「町長、お客様がいるの。」
「通してくれー。」
インターフォンから陽気な声が聞こえてくる。どうやら、入れるらしい。
「入ろう。」
「うん。」
──ラルクは町長の家へ足を踏み入れた。
これから、人間と話さなければならない。
何故、魔王を滅ぼそうとするのか。魔王を滅ぼそうとするのなら、悪魔を滅ぼそうともするはず。
魔物という生物も存在する。やはり、勇者は魔王の討伐をしようとしている。下の世界は『普通の世界』って言われてきたけれど、普通じゃないような気がするよ。
普通って、なんだろうね。
魔法も使えないみたいだし…
僕、大丈夫かな?
展開がごちゃごちゃしてすみません。これから、上達出来ればいいなと思っております。