婚約破棄の後で
前話は紛らわしかったかもしれませんが、こっちが本編です。
パーティーの様なドレスを身にまとった私に、紳士服に身を包んだ男が指を指さしてくる。
この場は、彼との婚約の祝いのはずだけど、何故指を指されないといけないのかしら……。
「ネリア・フォン・カーネラル、君との婚約を破棄させてもらう!」
「分かりましたわ……」
目の前にいて叫んでくるのは、第一王子のネメリオ・デラ・ウォード様……実は、酷く頭が残念な人で家事も出来なければ人をまとめる才能も無い人。
だけど私はそんなネメリオ様の事が好きだった……世話のかかる所や、ちょっとお馬鹿の所が私を惹かれさせていた。
ネメリオ様は恋愛感情も無かったのか、嫌いと同意味の婚約破棄を言われてしまっては、私ではどうしようもなかった。
「「ネメリオ様! 何故ですか、ネリア様が何をしたというのですか!」」
「なら、バーラルを階段から突き落としたり、物を隠したという事実はどう説明する!」
「ご存知ありませんが」
講義するように取り巻きの中の2人が私の隣まで来て叫ぶが、ネメリオ様が追求するように言い放つと、それを聞いて押し黙ってしまった。
実際にそう言った事はやったことがない、そういえば……この子達が他の取り巻きから、何かやらかしそうな雰囲気があると言っていた。
何故バーラルの名前が出たのかしら、最近ネメリオ様に近づいて話をしているのを見るけど……あまりネメリオ様と接点を作らなかった私と違って、惹かれてしまったのかもしれないわ。
「とぼけるな! この2人に命令して、バーラルをけしかけたんだろう!」
「「……! そ、それは!」」
なるほどね、この2人を取り巻きにしている私が命令をして襲わせたと思っているのね……相変わらず、残念な頭で好きなのだけど。
だけどこのまま私が否定すれば、2人が危ないわ……取り巻きで慕ってくれたし、純粋に私を助けようとした結果なのだから。
ならすることは1つね……。
「……私がやりましたわ」
「「ネリア様!?」」
「ならこの場から出て行け! 私はこれから、バーラルとの婚約をする!」
そうネメリオ様に言われ、この明るい気持ちで祝われる場で、何も答えられず歩いて出口の方に行く。
取り巻きの人達は、私の後を追うように小走りに歩いてくる……振られちゃったわね。
この泣けそうで、泣けない気持ちはどうすればいいのかしら、でも何処か清々しいわね。
「「何故、私達の事を庇ったんですか!」」
「それじゃ、貴女達が危ないじゃない……良いのよこれで」
「「ですが!」」
2人は自分が名乗り出て、私の誤解を解こうとした様だけれど……イジメをしたこの2人が、不幸になってしまうじゃない。
私みたいに権力もなく、平民もいる取り巻き達が被害を被れば……この先何が起こるか、簡単に想像が付くわ。
まずイジメ自体が、学園では禁止されていて、卒業した後まで泊が付いてしまう……それも第一王子の婚約者になる人だったらなおさら。
「「ネリア様は何もしていないのに……」」
「いいのよ、彼にとって私より彼女の方が、魅力的だったという事なんだから」
失恋した気持ちを抑えつつも、私に非が無いと呟く2人に言う。
これじゃ、お母様にもお父様にも怒られそうだわ……下手すれば、何処かに飛ばされるなんてありえるんじゃないかしら。
でも、そうなったとしても……後悔は無いわ、だって2人の将来を守れるんだから。
「「……あの女がいなければ」」
あの2人の声は良く聞き取れなかった……けど、恨まないで欲しいわ、だって……。
2人を覗く他の周りの取り巻き達は「ネリア様が良いなら構いませんわ」という風に言っていた。
取り巻きの人達と別れ、屋敷に帰った後……お母様とお父様に呼ばれた為、そのまま2人が待つ業務室に直行することになった。
扉の前でノックをすると「入れ」と言われたので「失礼します」と言って入っていく。
何時もいる、2人で座っている机には怒りや悲しみがまとっている様な雰囲気が漂っていた。
「ネリア、お前を呼んだ理由は分かっているな?」
「はい……」
「イジメなんて、なんでしたの? それが及ぼす事も理解出来た筈ですわよね?」
厳しい喋り方のお父様の言葉に頷くと、お母様が質問をしてくる……分かっているから、庇ったのですわ……彼女達を。
お父様は溜息を付いて「お前が、そんなことをするやつでは無いことは知っている、真実を話せ」と言ってくる。
お母様も同意見なのか頷いて「理由を聞かせてくれるかしら?」と聞いてくる。
「……私がやりましたのよ」
「本当の事を言えと言っているだろう!」
バンッという音と共に、お父様は座っていた椅子から立ち上がって、叫んでくる。
もし、言ってしまえば……お父様の事だから、全責任を取り巻きの人達に押し付け、自分の地位や権力を保とうとするのを分かっているから。
お母様は黙って私とお父様の様子を見守っている。
「もういい! 戻れ、お前は明後日に別な国へ行ってもらう!」
「はい……」
そう答えて、扉まで歩いていきお父様とお母様の方に向けて一礼して、出て行く。
扉を閉めた後、1人寂しく廊下を歩いていく……私には失恋の悲しみに浸る時間は無いのですわね。
部屋に着いて、扉を開けた後ベットの布団の上に倒れ込んだ……もう、ドレスにシワが出来るとか関係ありませんわ。
コンコン
「空いてますわ」
「ネリア、今いいかしら?」
ベットに倒れ込んだまま返事をすると、お母様だった……はしたない格好だと分かっていても、今は直す気にもなれなかった。
お母様はベットの近くにある椅子に腰をかけて「私にだけ教えて欲しいの、本当は何があったの?」私に言いながら、真剣な表情で見てくる。
流石に失礼なので、仰向けの状態から起き上がってお母様と向き合うように座り直す。
「私は……」
「誰にも言わないわ、昔から見ているのだもの、嘘くらい分かるわよ」
「私は、本当はしてませんわ……何時も慕ってくれる内の2人ですわ」
最初同じ言葉を言おうとしたけれど……やっぱりお母様には敵わないわね。
ぽつりぽつりと呟く私に、お母様は頷いてから。
追求するような物じゃない、優しい雰囲気で「気づかなかったのは問題ですわね……ですけど」と言って、一息置くと。
「私は嬉しいわ……だって、ネリアが立派に育って人の事を好きになって、人の事を助けたんですもの」
「お母様……」
「上に立つものは、人と人で助け合って……相談や失敗を繰り返して生きているんですもの」
そう言ったお母様に、私は……泣いてしまった、これじゃダメだと思っているのに。
初めて人に恋して、初めて振られる痛みは大きかった、ライバルといえる子に持って行かれた事だけが救いだった。