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2、空腹と悲鳴

 迷った。


 それはそうだろう。

 同じ景色ばかりが続く迷路のような道で、地図も何もなく、目印になるものすら無いのだから当然の結果だと思う。

 おまけに風も吹かないのだ。

 気を抜くと自分が来た方向すら分からなくなりそうだった。


 この『ダンジョン』とやらは分かれ道が多い上に、大理石的な何かで作られている壁や通路は硬く、【木の棒】では傷一つ付けられない。


 仕方がないのでとにかく進んでみた結果、やはり迷ったのだ。


 しかし迷ったなりに得られた情報も0ではない。

 俺は周囲にモンスターの影が見当たらないことを確認して、休憩がてら冷たい床に腰を下ろす。


「ふぅ……」


 体を休めながら手に入れた情報を少し整理してみよう。


 まず一つ、パンツにお金を入れると消える。


 うん。

 意味不明だからもう少し細かく整理しよう。


 迷っている間に道中でゴブリン数匹と遭遇した。

 どれも単独行動をしていたため、戦闘は難しくなかった。

 バカの一つ覚えみたいに突っ込んでくるので、【木の棒】で頭を殴れば一撃だ。


 その結果、ドロップアイテムというものは珍しい部類なのだと分かった。

 大抵は数枚のコインが落ちるのみのようだ。


 わざわざダンジョンでドロップするのだから、恐らくはこれがこの世界の通貨なのだろう。

 ならば集めておくに越したことはないと判断したのだが、なにせ俺はパンイチだ。


 カバンもなければポケットもない。

 しかしゴブリンよりも強いモンスターと戦闘しなければいけない場面などを想定するなら、片手をコインで埋めるのは賢くない判断に思えた。

 ゴブリン一体が落とすコインは2、3枚程度だが、塵も積もればなんとやら、戦闘を重ねるとさすがに邪魔な枚数になってくる。


 悩んだ結果、唯一コインを入れられそうなパンツの中に隠すことを思いついたわけだが、なんとパンツにコインを入れるとコインが消えたのだ。


 そして同時に、例の紙テープがどこからともなく落ちてきた。


『装備にはあります収納機能』


 つまり、俺の装備している【純白のブリーフ】にはコインを収納してくれる機能があったらしい。

 なくなったコインは、パンツに手を突っ込んで探すといつの間にか手に握られている。

 どこに収納しているのかは知らないが、ヴィジュアル的な事を無視すれば、正直いってかなり便利だ。

 

 試しに【木の棒】をパンツに突っ込んでみたが、入りきらなかった。

 おそらく、コインのみを収納する機能なのだろう。

 チュートリアルで手に入る装備だけに、必須の機能を付けてくれていたと考えるのが自然か。


 そしてもう一つ、ゴブリン達と戦闘を重ねてきて分かった事がある。


 それは攻撃のダメージにはちゃんと部位による判定があるという事だ。

 ゴブリンが弱すぎて精神的にも余裕が出てきた俺は、実験的にゴブリンの頭以外を叩いてみた。

 すると同じ【木の棒】による攻撃でも一撃では倒せなかった。

 ゴブリンの頭が弱点と設定されているのか、それとも何らかの補正がかかっているのかは分からないが、これは地味に有益な情報だと思う。


 今はゴブリン相手に気にする必要もないが、もしも強敵が現れた時、そいつを倒すにはまずは弱点を見極める事が重要になりそうだ。


 最後に一つ、この世界でも人間は動けば腹が減る。


「うぅ……腹へった……」


 時間の移ろいを示すものが存在しないせいで時間感覚がハッキリとしないが、結構な距離を歩いた気がする。

 とにかく腹が減っている。

 歩き続けた疲労感もあるのだろうが、なにより空腹感が強い。

 俺は全裸でこの世界に放り込まれたようだが、その時に胃の中身まで空っぽにされたのではないかと疑いたくなるほどだ。

 真偽のほどはさて置き、それくらいに腹が減っている。


 こんな石で出来た通路には植物の一つも生えていないし、そもそもゴブリン以外の生き物をネズミ一匹見かけていない。


(まぁ、ネズミを見かけても食べれるのかって話だけど……)


 この食糧問題は最優先課題だ。

 このままで歩くことすらままならなくなってしまう。


 通貨が存在するという事は、ショップの類も存在すると考えて良いだろう。

 ダンジョンの外には町や村の一つでもあるのかも知れない。

 ならば、ダンジョンクリアよりも先に、とにかく一度はこのダンジョンから出たほうが良い。


「なんにせよ、とにかく歩くしかないか……」


 進むにせよ戻るにせよ、どちらに進むべきかも分からないのだから、今はとにかく前へ、しかない。


 ジッとしていても腹は減るばかりだと、重たくなってきた腰を上げようとした時、俺はこの世界に来て初めて自分以外の人間の声を聞いた。


「きゃああああああああああああああ!!」


 それは悲鳴。

 甲高い、女の声。


 そう認識した時には、俺は悲鳴の聞こえた方向へと走り出していた。


 悲鳴は入り組んだ通路に反響し、俺を混乱させる。


「頼む、間に合ってくれよ……!」


 口から零れた願いは、けれど叶わなかったらしい。

 走り回って何とかそこ(・・)に辿り着いた俺が見たのは、冷たい床に横たわる一人の少女と、それを見下ろす巨大な豚のバケモノの姿だった。

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