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王朝物語  作者: L'Excuse(愚者)
第一章 サウロン王朝物語
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第九話 サウロン王朝

第九話 サウロン王朝




 サウロンが王として即位したのは、30歳という若さであった。その後十二年間サウロンは王として君臨した。闘神の民の聖典にはそのように刻まれている。

 家族構成としては、妻が二人おり、アヒマアツの娘アヒノアム、アヤの娘リッパ。息子たちがジョナサン、イシュビ、マルキシュア、アルモニ、メフィボシェトの四名、娘たちがミラブ、ミカルの二名の名がそれぞれ記されている。


 ローマ時代のユダヤ人歴史家であるヨセフスなどが書いた歴史書の中には、40年近く治めたという記述も見受けられる。どちらが正しいのかはともかくとしても、周囲を敵国に囲まれた状況で戦いの中で道を切り開き続けることを前提としてサウロン王朝は歴史の中に始まりを告げた。


 


◇◆◇




「この国には、これまで士師と呼ばれた民の指導者である英雄たちの呼びかけに応じて軍勢を拠出した歴史はあるが、『常備軍』を編成するのは、歴史上俺が始めてになる訳だな。」

「そうですね、お父さん。これからは僕もお父さんを補佐出来るように頑張ります。先ずは千人隊長として、国境沿いの警備からですね。」

「ああ。これからも俺を支えてくれよ。頼むぞジョナサン。」


 各地から集められる者たちを、軍隊の最小単位である十人隊長や、十人隊が十集まった百人隊長、更にその上の千人隊長の下へと振り分けながら、徴兵に応じた者たちの姿を眺めていたサウロンが息子のジョナサンに向かって話しかけていた。


 実は、サウロン自身は、ベン・アミ族の王ナハシュとの戦いが初陣では無かった。

 サウロンは、王が不在で周囲の諸外国から度々攻撃され続けていた闘神の民を叱咤激励し、何度も外敵を退けてもいたのだ。この度王として推挙された時も、若輩で未経験な自分にその務めを果たせるか、不安もあった。


 だが、サム以外にもサウロンを王として推す者たちも大勢居たので、不安はあるものの即位する思いは強められた。その上、サムからの神託、つまりは闘神の民が崇める主神からの指名でもある。これを断れば文字通り“不信仰者”の烙印を押され、サウロンの出身部族であり、最少数部族であるベン・ヤミム族は更なる不遇にさらされても不思議では無い。


 サウロンは、これまでの細やかな抵抗軍の指導者から、闘神の民全体を率いる“王”になったのだ。しかも、開闢の王として行うべきことは山積みであった。


 即位したサウロン王が行った事業の一つが、軍事面での取り組みであった。三千人の兵士たちを召集して常備軍を編成したのだ。


 その中から二千人は、サウロンの護衛を兼ねて後に軍事・政治・宗教の首都となるエルサレムから、北へ約15km程離れた村であるミクマスと、ベテルの山岳地帯で国境警備にあたらせた。残る千人を即応部隊とし、サウロンの長男であるジョナサンが指揮を執り、ベン・ヤミム族の活動拠点でもありサウロン王の生家があるギブアに常駐させた。


 他にも兵士として徴収することが可能な者たちも居たが、それぞれの天幕がある部族の地へとサウロンが命じて帰らせたのだ。


 サウロンの長男であるジョナサンは、とても性格が良く、親孝行で優秀な息子だった。

 当時、闘神の民は二大勢力からの攻撃に悩まされていた。

 一つは、先の戦いで破ったナハシュ王率いるベン・アミ民族の軍勢。

 もう一つは、『海の民』『鉄の民』とも呼ばれていたフィリスティア人の軍勢で、こちらもベン・アミ民族以上に闘神の民を苦しめていた。


――――ちなみに、フィリスティア人(ペリシテ人)と呼ばれる彼らは、厳密には「民族」や「人種」の名前では無い。優れた製鉄技術と航海術を持つ人々であり、地中海を越えて、海辺を中心にアシュドド、アシュケロン、エクロン、ガザ、ガトに定住した者たちの都市国家による五市連合を形成する民の総称なのだ。

 「海の民」とは、ヒッタイト人が国家機密として厳重に秘匿していた「製鉄技術」を広く地中海世界に伝搬させるきっかけとなる「紀元前1200年のカタストロフ」の原因の一つが「海の民」による襲撃であったと言われており、フィリスティア人は闘神の民に先んじて“鉄製”の武具を装備しており、青銅製の武具しか主装備の無い闘神の民を大いに悩ませていた。――――


 ところが、ジョナサンが警備隊長となったギブア部隊がギブアから北東5キロ程離れたゲパに駐留していたフィリスティア人の守備隊を破り、守備隊長を撃ち殺したという報告がサウロンの元にもたらされた。


 ジョナサンは弓の名手であり、父サウロンはもとより守備隊の兵士たちからの人望も厚かった。性格も良く、次期国王という身分にも関わらず誰にでも気さくに接し、一度約束した事は決して破らない誠実な人柄は闘神の民の間でも広く知られ、慕われていた。

 

 その彼がフィリスティア人との戦いに勝利した報せは、闘神の民に瞬く間に拡がった。

 フィリスティア人からの報復攻撃も予想され、戦争を有利に進めるにも、この吉報は有利だと判断したサウロン王は、角笛を鳴らして国中に召集令を発して、「闘神の民よ。我が声に従え!!」との伝令を各部族に派遣した。


 闘神の民は、サウロン王がフィリスティア人の守備隊長を殺したおかげで恨みを買ってしまったことを恐れた。自分たちの敵が復讐のために軍勢を送って来るであろうことを思い、ギルガルに居るサウロン王の下に各部族から戦士を集めて集結した。




◇◆◇




 サウロン王が闘神の民に召集令を出した頃、フィリスティア人たちも戦闘召集を五都市連合に発令していた。その数は戦車三万両、騎兵六千騎、海辺の砂程に数え切れない程の歩兵集団が召集に応じた。その軍勢に煌めくのは、当時の闘神の民が作る事の出来なかった鉄製の武具であった。


 ――――青銅製の武具と鉄製の武具がぶつかり合った場合、どちらが有利かと問われれば、当然「鉄製が有利」という答えが出て来る。理由は明白で“強度の違い”だ。青銅製の槍ややじり、剣では、鉄製の盾を貫くことは出来ないが、鉄製の槍ややじり、剣では青銅製の盾を貫くことが可能なのだ。戦闘に於いてこの差は大きかった。――――


 フィリスティア人の王、アキシュは目の前に集められた精兵たちの姿を見て満足した。そして、こう告げた。


「我が精兵諸君! 諸君も知っておるだろうが、先の国境での小競り合いで我々フィリスティア五都市連合は不名誉を被った。他でも無い、製鉄技術や航海術すら持たぬ闘神の民と名乗る蛮族どもによってだ!!

 あの蛮族どもめは、近ごろようやっと『王』を選び出したそうだぞ。我らが偉大なる主、ダガン神を奉り、蛮族どもに先んじて文明国家を築き上げ、今日こんにちに至ったというのに、あの羊飼いどもは、姿の見えない主神様とやらを奉って、一度としてご神体を作ろうともしないではないか!!

 諸君。余は問おう。文明国家の文明国家たる所以は何だ!? そうだ! ご神体だ!!

 ご神体すら作れない蛮族と、そのような惨めな蛮族が拝む神々にどんな力が見いだせると言うのか? 否である! 文明国家の基盤は“技術力”である!! “技術力”の集大成こそがご神体なのだ!! 我らに海からの恵みと大地からの豊穣の恵みを齎してくださるのは、決して過去の先祖の霊でも無ければ、目に見えないなどという世迷言や迷信の世界に住む主神とやらでは無いのだ!! そんな存在が居るなら、余の目の前に差し出せと余は問おう!! ご神体すら作れぬ蛮族どもには、答えが出せないではないか!!

 そのような輩は遅るるに足らん!! さあ! 友よ、今こそ立ち上がろう!! 闘神の民などと名乗る弱小にして矮小なる蛮族どもを蹴散らし! 踏みつぶそうではないか!!」


 アキシュ王の呼びかけに、万を超える歓声と繰り返し地面を蹴る轟きに合わせて、盾と剣の収まった鞘をぶつけ合うガン!ガン!という響きが沸き起こった。


「「「「うぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!!!」」」」


 万雷の歓声と足踏みによる応答に、アキシュ王は鷹揚に手を挙げ、満足気に頷いて応えた。そして、手を握りしめて、今一度、軍勢に向かって檄を飛ばした。


「諸君の勝利を齎す吉報のみを余は待つ! ダガン神に栄光あれ!!」

「「「「ダガン神に栄光あれっ!!」」」」


 フィリスティア人の軍勢は、規則正しく隊列を組み、闘神の民の領土へと侵攻して来た。

 そして、瞬く間にベン・アベンの東にあるミクマスの僅かな守備隊を打ち破り、その地に布陣してしまった。




◇◆◇




 一方のフィリスティア人の軍勢の侵攻を聞いた闘神の民は、やはり内部で割れていた。


「おいおいおい、サム爺の雷はどーしちまったんだ? あの爺、肝心な時に主神を使わねーつもりかよ!!」

「そんなことより、このままでは儂らまでサウロンとその倅のせいで、アキシュ王に滅ぼされてしまうぞ!! なんとか和平交渉に持ち込めないのか!!」

「そうじゃそうじゃ、儂らの命こそ第一優先じゃい。サウロンと倅の首なぞ、欲しければアキシュにくれてやれば良いんじゃろうに。」

「さしあたっては、和平に持ち込むまでは、徹底して不戦だな。下手に怒りに油を注げば、我らまでその身に災いを招いてしまう。民に不要な手出しを控える様に我らからも密使を送った方が良いのではないか?」

「大丈夫じゃよ。既に利口な者たちは我先にとあちこちに逃げ込んでおるわい。」


 フィリスティア人が侵攻して、その軍勢の数に恐れをなした闘神の民は、このままでは殺されてしまうと恐怖の末に、各地にある洞穴や崖や谷合の深いところ、目立たない様に偽装した地下室や水を溜める空間などに避難していたのだ。


 また、戦火を恐れた者たちの中には、ヨルダン川を渡って向こう岸にあるガドやギルアデの地まで逃避しようと移動していた。


 一方のサウロン王はと言えば、尚最前線になるであろうギルガルに踏み止まり、ともすれば崩れそうになる指揮系統を再構築しながら集めた者たちを率いていたのだ。


 呆れたことにこの地に集まった者たちは、自分たちは安全な後方に居ながら、最前線で彼らを守ろうと戦おうとしているサウロンとジョナサンの首を、自分たちの命を守るための交渉のカードにしようと目論んでいたのだ。


 戦争になっても尚、挙国一致と行かない脆弱さをサウロンの王朝は常に抱えているのだ。



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