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王朝物語  作者: L'Excuse(愚者)
第一章 サウロン王朝物語
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第六話 戦いの後に待つもの

第六話 戦いの後に待つもの




 ナハシュ王にとっての不幸は、闘神の民が思いがけない反撃をしてきたことだろう。


「おいっ!! どういうことだっ!! 状況だっ! 状況を誰か説明しろっ!!」

「ハッ! おそれながら、闘神の民めが夜襲を仕掛けて来た模様ですっ!!」

「夜襲だとっ!?」


 王の誰何に、狼狽えながら答えた兵士は、そう告げると足早にどこかへ移動して行こうとしていた。


「待てっ! 将軍たちはどうしたっ!? 各部隊の隊長たちはっ! 落ち着いて対処すれば、この程度の夜襲など恐れるに足らんはずだっ!!」

「ハッ! それが・・・ 敵の夜襲は三方向からほぼ同時に行われました。これに各部隊で指揮を取るはずの将軍たちが分断され、連絡が取れない状態に陥っております。各部隊長も同様でありまして、指揮を取るために前線へ向かおうとすると、敵の暗殺者部隊に阻まれているようです!!」

「暗殺者部隊だと・・・!?」


 なにも特別な暗殺部隊がサウロンの軍勢に潜んでいた訳ではないのだが、隠密行動に長けている羊飼い部隊が、襲撃という混乱の中で“暗殺者部隊が潜んでいるらしい”という恐怖を生み出してしまったらしい。


「誰でもいいから、手近に居る兵たちを集めろっ!! 俺が直接指揮を執る!!」

「ハッ!!」


 状況を知らせに来た兵士が足早に宿営の中央にある幕屋から飛び出ると、手近に居た兵たちが替わりに入って来た。


「王よ。我々だけでこの襲撃に立ち向かうのですか!?」

「案ずるな。策はある。このような状況でも、挽回して見せるわ!! 俺に従えっ!!」

「「「「ハッ!!」」」」


 ナハシュは、自分の周囲に集まった数百の軍勢に下知した。


「お前たちは敵の様子を知らせろ。誰が先頭に立って居るのか、軍勢の正確な規模はどのくらいなのか、三方向に居る羊飼い共の首領が誰なのか、それを調べて即座に報せろ!! 情報だっ!! 戦場に於いて重要なのは情報なのだっ!! 残りの者は、逃げ出そうとする兵たちを一か所に集めろっ!! そして、二人一組で隊伍を組ませるのだ! 相棒に自分の背中を脇を守らせろ! 互いにフォローし合って戦うんだっ!! 集まれば兵たちだって力を発揮するであろう! 日頃の訓練を思い出せと発破をかけるだけでも良いっ! 急げっ!!」

「「「「ハハッ!!」」」」


 ナハシュ王の幕屋から各所に散って行った者たちから、王の下へ素早く伝令たちが集まって来た。状況は悪い。先の知らせ通り将軍たちや各部隊長たちは各処で分断され、特に司令官を狙って暗殺者が暗躍している。それでも、「集まれ」と号令を発する者が居れば、それだけでも状況は好転した。


 また、敵の規模も把握出来た。その数約三十三万。だが、そのほとんどは羊飼いや農夫などの非戦闘員らしい。三方向から攻めて来た指揮官も判明した。サウロンという羊飼いの若造が今回の戦闘を引き起こした調本人だ。残りの二方向もアブネールという羊飼いに十部族連合の長老たちの中で最長老と呼ばれる者だ。どいつもこいつも戦闘には不向きなド素人ではないか。


 そんな戦闘に不向きなド素人共にいいように攻められて我が軍が混乱させられているのだから、ナハシュ王の腸は煮えくり返った。


「たかが羊飼いと農夫どもの寄せ集めではないかっ!! お前たち、これ以上の混乱は許さんぞっ!!」


 とはいえ、一度混乱に陥ってしまった軍勢を立て直すのは困難を極めるものだ。ナハシュは、なんとか寸断されがちな連絡網を最優先に立て直そうと試み、一部では成功した。


 まず最初に行ったことは、太鼓と笛による“音”による伝達の回復であった。この当時は、各部隊への命令を伝える手段として、太鼓や笛を使って号令を下すことが多かった。

 号令が聞こえる範囲に居た兵士たちは、号令を頼りに一か所に集まり出した。個別に戦う兵士は弱いが、集団となれば本来持つ力を発揮できるのだ。


「ナハシュ王からの伝令だとっ!」

「そうですっ! 先ずは何をおいても構わないから一か所に集まれとの下知でございます。」

「あい分かった! 王には護衛が付いているのであろうな?」

「数百名の精兵が傍に控えてございます!」

「うむ。であれば一先ず安心だな。王にはくれぐれも御身の安全を第一にと伝えてくれ!」

「畏まりました!」


 百人隊長から千人隊長や将軍と途中で確認できた者たちに王の命令を伝令たちは伝えた。その甲斐あってか徐々にナハシュ王の軍勢は奇襲の衝撃から持ち直してきていた。




◇◆◇




 サウロンは戦場の空気が変わったのを肌で感じていた。先程までは奇襲が成功して、野営地全体がパニック状態になっていた。羊飼い部隊のステルス攻撃も成功して、指揮官たちを暗殺し、部隊の連携を妨げる効果も挙がっていた。


 ところが、野営地の中央から徐々にだが闘神の民の軍勢を押し戻す動きが表れ出したのだ。三方向から次々と奇襲を掛けて成功したかと思った矢先に、ナハシュ王その人に挫かれたのだ。


「サウロン王様。如何いたしましょうか。周辺はこちらが有利に進んでおりますが、中央のナハシュ王の本陣と思われる処から反撃が強まっております。」

「ああ。そうだな。俺にも見えているよ。本当、どうしようねぇ」

「どうしようねぇって・・・。」


 サウロンの周囲に居た若者の一人に受け答えしていたが、正直サウロンにもこの後の戦いは泥沼のような状況になりそうだなと分かってしまっていた。


 奇襲は夜だからこそ大成功を収めたであろうが、これから明るい時間を迎えてしまっては、こちらが軽装備の羊飼いや農民の連合であることが白日のもとに晒されてしまうのだ。

 一方敵対しているナハシュ王の軍勢はといえば、正規の軍隊とはいえ、その本質はどちらかといえば“盗賊”や“強盗”の群れのような装備が中心だった。とはいえ、軽装で碌に防具も無い羊飼いと軽武具・防具を持った農民連合に対して、金にモノを言わせて鍛えた刀や防具を装備した盗賊や強盗では、後者の方が有利だろう。


 あとは、奇襲の混乱が収まりきる前に、出来るだけ人数を討ち減らして行くしか無いだろう。覚悟を決めるとサウロンは一番混乱している部隊に狙いを定めて再度の突撃を始めた。


「いいか! 中央は後回しでいいから、混乱している奴らを狙えっ! それと出来るだけ敵の指揮官を真先に狙うんだ!! 次は旗を持った兵を狙え! 奴らは旗の数が減れば、その分自分達が追い詰められたと感じるからなっ!!」

「「「「うおおぉっ!!」」」」


 サウロンからの指示を全軍に伝令たちが伝えた。隠密行動が得意な羊飼い部隊は、指示通り指揮官を狙った。戦いに夢中になっている背後から、正面を向いている者の真横から、思いもかけない方向から飛んでくる投げ縄や投石に、多くの指揮官たちが訳も分からずに黄泉へと旅立って逝った。


 指揮官が不在となった部隊は更に混乱を極め、その影響は嫌がおうにも中央に布陣するナハシュ王の指揮する部隊にも深刻な影響を与え始めていた。




◇◆◇




 野営地の中央にあるナハシュ王の幕屋に、一人の負傷した百人隊長が入って来た。彼は右目付近から血を流しており、背中や腕にも矢が刺さっていたが、王の姿を認めると片膝を着いて告げた。


「王よ。ご無事でなによりです。早く逃げましょうっ!!」

「ならんっ! このまま状況を立て直して、奴らに反撃するのだっ!! マルコシアスっ! マルコシアスを探し出して連れて来いっ!!」


 ナハシュ王は、最も信頼する最強の兵であり軍団長である男の名を告げた。


「王よ。マルコシアス様は先程の後方より突撃して来た軍勢に一人で突撃して・・・ 卑怯にも敵が横から放った投石を避けることができずに・・・ 討たれました。」

「なん・・・だと・・・!?」

「恐れながら、他の将軍たちや各部隊長たちも討ち死に、もはやこの陣営を守る守備隊も残り僅かでございます。」

「馬鹿な・・・ あのマルコシアスでさえも討たれるとは・・・」


 沈痛な表情で語る百人隊長は、ショックで倒れそうになるナハシュ王に向かい、絞り出すように声を挙げた。


「王よ。今一度申します。早くお逃げください! もはやこの戦争は我が軍の負けです!!」


 歴戦の勇者であればこそ、百人隊長にまでなれたであろう男が、今目の前で決して口にしてはならない「敗北」を口にした。その一言が持つ意味は巨大であった。


「何故だっ!? そうしてこうなった!! ・・・馬鹿な、我々は圧倒的に有利なはずだったではないか・・・ なにかの間違いだ! こんな事が許されるはずが無いっ!!」


 既に失われた命は数知れず、ナハシュ王に従う僅かな手勢からも零れ落ちようとする者たちが増えていた。砂時計ならば、また逆さにすれば良い。だが、零れ落ちた命は取り戻す事などできはしなかった。




◇◆◇




「おいっ! 待てっ!! 持ち場を勝手に離れるなっ!! 逃亡する者は処刑するぞっ!!」

「そんなに戦いたきゃぁアンタだけで勝手に戦うがいいさ! 俺たちはこれ以上付き合いきれねぇ!!」


 陣営の各所で同様の光景が繰り広げられた。なんとか踏み止まろうとする千人隊長や百人隊長たちと脱走しようとする兵士たちとで同士討ちさえ始まっていた。


 ナハシュには状況が理解できなかった。精兵であり、圧倒的な強者であったはずの自分たちの軍勢が瓦解してしまったという現実を受け止めきれなかったのだ。そして、ナハシュ王自身の背後にも、既に暗殺者の影が近付いていたことを最後まで気が付かずに逝けたのはせめてもの慰めであったのであろうか。


 夜明け前に開始された戦闘は、ナハシュ王の応戦や兵士たちの抵抗もあり、昼過ぎまで続いたが、結果はナハシュ王率いるベン・アミ族軍の惨敗であった。生き残りも僅かには残っていたが、二人一組で戦っていた者たちで相棒が残っている者は皆無であった。


 こうして、サウロン王の初めての戦争は三方向からの奇襲作戦と粘り強い戦闘により、大勝利を収める事ができた。


 その時、闘神の民の中からこのような声が起こった。


「サウロンが王に相応しく無いなどと言った者どもに正義の鉄槌を!」

「邪心を抱く者どもをここへ引き摺り出してきましょうっ!!」

「若旦那っ! 今こそソイツらに目にモノ見せてやるチャンスっす!」

「邪な者どもに死をっ!!」


 人々は一種異様な雰囲気を醸し出していた。カルト的な状況とはこのようなものを言うのだろうか。サウロンは内心不安を感じたが、表情には出さずにこう告げた。


「今日は我々が初めての勝利を収めた祝いの日ではないか! 主神様が我らに勝利をお授けになられた日に、兄弟の血を流してはいけないっ! そうでなくとも、血ならもう十分に流れたではないか。これ以上の流血は無用であるっ! 兄弟たちよ。今日はそれぞれの部族で失われた兄弟たちの命を偲ぼう。そして主神様が授けて下さった勝利を祝おうではないかっ!!」


 群衆は「ワァーッ!!」と歓声を挙げると、サウロンがまことに王に相応しい器であると認識した。


 そこへ、ツロの町から戦争の勝利を祈るために同行していたサムが進み出て来た。


「さあ! 我々はギルガルへ行って、そこで王権を創設する宣言をしようではないかっ!!」


 この宣言にその場に居た者たちはだれもが顔を見合わせ、頷き合った。サウロン王朝が始まるのだ。今、この場に居る全員が新たな歴史の証人となったのだ。


 軍勢は一人残らずギルガルへと移動した。負傷した者たちも木を伐り布を張った担架で移送した。ギルガルで主神様の前で、サウロンが王となる“油注ぎの儀式”を行った。闘神の民全体のための和解の生贄を捧げて、サウロンと闘神の民全体が大いに喜びあい、祝いあった。


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