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王朝物語  作者: L'Excuse(愚者)
第一章 サウロン王朝物語
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第五話 戦闘中は血の雨と突然の攻撃に気をつけましょう!

第五話 戦闘中は血の雨と突然の攻撃に気をつけましょう!


 サウロンのもとには三十三万人の軍勢が集まっていた。

 既にこれだけで充分勝利条件は整っているように見える。

 が、実際のところでは、足りない部分が多い。


 先ず、軍勢が軍勢として機能するために必要な条件。

 1.装備

 2.練度

 3.経験


 闘神の民は、これまで遊牧民を中心として“国家”ではなく“民族”としてしか活動して来なかった。これでは、ナハシュ王のように“王”を中心とした国家と敵対するにはリスクが大きかった。


 闘神の民の装備だが、“軍隊”としての装備は絶対的に足りていない。不十分だ。

 古代の戦闘が再現された場面では、羊飼いが重装備部隊の最前線に配置されており、投石や投げ縄などによって前哨戦を繰り広げる姿が再現されることもある。

 つまり、戦闘の重要な場面で投入されるような部隊ではなく、本番前の前座扱い“前哨戦”で活躍する部隊が主戦力なのだ。


 練度についても、難がある。“軍隊”とは、“指揮官”の命令のもとで“団結”したり“命令に合わせて動く”ことが求められる。

 顧みて、闘神の民は“遊牧民”だ。家族単位で放浪して移住する民なので、特定の指揮官のもとで一致団結して闘うには、連携を取るための訓練がこの時点では足りない。


 経験。そもそもからして、遊牧民が王の指導のもとで闘う経験が無いのだから。これもまた論外であった。


 一級の指揮官、将軍や軍団長など、せめて有能な戦略家でも居れば違ったのであろうか。

 よく、「一頭の羊に率いられた百頭のライオンよりも、一頭のライオンに率いられた百頭の羊の方が強い。」などと言う者たちもいるが、羊は羊であり、百頭ものライオンを相手にして敵うはずが無い。


 つまり、戦闘を開始する以前から、サウロンが率いる闘神の民の軍勢は三十三万集まろうとも不利な条件を覆すことが難しかったのだ。


 ならば、黙ってこのままベン・アミ族の王ナハシュに服従して、ラモテの町の住民を犠牲にするというのか。


 この問いに対するサウロンの答えは「No!」だ。

 彼は闘志を燃やしていた。


「それでは、皆さん、良いですね? ここからは絶対に私の指示に従ってくださいね?

 そうすれば、勝てます。逆に従わなかったら、負けます。その時は、惨敗ですからね?

 ラモテの町一つの犠牲なんかじゃあ、決して済みませんよ。

 その時は、あなたたちの愛する家族や恋人、友人たちが敵の剣の前に晒されるでしょう。」


 サウロンは冷静に集めた部隊長たちを前に告げた。

 自分の指示に従いさえすれば「勝てる」と。

 指示に背けば「負ける」と。

 そして敗北は愛する者たちの死に直結してるのだと。


 部隊長に選ばれた者たちは皆、一様に緊張と高揚感に包まれていたが、一言もサウロンの下知を聞き逃さないように真剣な面持ちで聞いていた。


「今、我々はベゼクと呼ばれるあたりに布陣しています。これを三つに分けます。

 目的地は唯一つ、ラモテです。第一隊は、進行方向右方面から。第二隊は敵陣営後背面から。第三隊は私が率いて進行方向左方面から、それぞれ三方向から同時に仕掛けます。」


 サウロンは、砂の上に棒切れで地形を俯瞰して再現したものを書くと、隊長たちに軍勢の動き方を伝えた。


「では、作戦決行です。」


 どこから見ても、遊牧民が大勢寄せ集まって、集団移動している以上には見えないのだが、皆緊張し、強張った表情と鋭い眼光で走り出した。



◇◆◇



 ナハシュ王は久しぶりで上機嫌だった。

 闘神の民との交渉が、こうも上手く行くとは予想だにしていなかったからだ。

 もっと粘ったり、下手に交渉を長引かせようと阿ってくるのではないかと予想していた。

 もしくは、無駄な考えではあったが、近ごろ王とやらに選ばれたサウロンとかいう若造が、戦闘経験も無いくせに、無謀にも挑んで来るならば、一刀の下に返り討ちにしてやろうと手薬煉引いて待っても見たが、どうやら見込み違いだったようだ。


 これからは、もっと楽に闘神の民から奪えるだろう。彼らを救う存在など、この地上のどこを探しても見つからなかったのだから。


「おい! 飲んでるか? しっかり飲めよっ! 楽しめよっ!!

 折角、ラモテの住人たちが俺達に貢物の前納め分だって差し入れて来た上等な酒だ!!

 しっかりと飲んで、飲み切ってしまえよっ!! 

 無くなりゃ、明日また搾り取ればいいんだからなっ!!」


 近くに居た将軍の一人の首に腕を回しながら、ナハシュは酒臭い息を吐いた。


「飲んでますよ! 偉大なる王よ! これからもガンガン攻めまくりましょうぜっ!

 闘神の民の神とやらは、お留守のようですしねっ!!

 一人しか居ねー主神とやらでは、不在の時にゃー 不便で仕方なかろうて。

 俺達みたいに複数の神々を祀ってりゃ、目的も選べて便利なのによ!!」


「「「あっはっはっはっはっ」」」

「そりゃーお気の毒様ってヤツですな。」


 将軍のおどけた口調に傍に居た部下たちも大口を開けて笑い転げた。

 宵闇の中で、微かな物音が聞こえた気がするが、狐や岩狸のたぐいが腹を空かせて彷徨っているのだろうとナハシュは気にも止めず、部下たちに就寝を告げた。


「俺はもう寝るぞ。お前たちもほどほどにしとけよ。明日は朝からお楽しみが待ってるんだ。見張りだけ残したら、さっさと寝ろよっ!」


 どう告げると、ナハシュは王専用の幕屋へと踵を返し、心地よい微睡の中で明日の戦果の中からどんなものを妃と王子への土産にしようか寝ながら考えようと意識を向けた。


「「「へーい!」」」


 ナハシュの命令に一礼をもって応じた後も、部下たちの宴はしばらく続いた。

 近年稀に見る大戦果が、明日は自分からその身を差し出すと告げられたのだ。

 これが祝わずにおられようか。


 明日になったら、ラモテの町へ入るのだ。

 好きなだけ、略奪ができる。

 好きなだけ、女たちを抱ける。

 好きなだけ、子どもや老人を嬲り者にできる。

 侵略するとはそういうことだ。

 男は殺すか、奴隷として売り払う。

 女は犯してから、奴隷として売り払う。

 手間がかかるだけ赤子や老人は殺す。

 あとは支配下に置き、必要なだけ貢を納めさせれば良い。

 侵略を受け入れるとは、古来よりそういう意味だ。

 


 兵士たちは下卑た笑いと血と柔肌に飢えた欲望を鎮めようともせずに、蹂躙への思いが開放されるのをむしろ待ち望んでいた。




◇◆◇




 サウロンは、小高い丘の上に居た。ちょうど三十三万の軍勢を見下ろせるようにして、両側には、今回のために編成された幕僚たちが控えている。三十三万の軍勢は、装備も衣服も練度も全てに於いてバラバラだった。


 正規の軍隊と正面から闘って勝てるはずは無い。であれば、正攻法では無く奇策を用いる必要がある。


「第一隊はアブネール、お前に頼む。第二隊の隊長は、部族長連合の中から最年長者を選び、補佐に戦上手な者を連れて行くように。第三隊は私に続けっ! あとは予てから打ち合わせた通りに行動するんだぞっ! そうすれば、必ず勝てる!! 我らには主神様が共におられるのだ、民よ、今こそ揮い立てっ!!」


「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」


 サウロンの激に民は全身全霊で答えた。集まった丘の大地が歓声に震え、足を打ち鳴らす軍勢で地響きが起きた。


「それでは、者ども! 進めっ!! 勝利は我らのものだっ!! 侵略者どもを討ち滅ぼせっ!!」


「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーっ!!!!!」」」」


 第一隊は、サウロンの従兄弟であるアブネールが率いる。彼はベン・アミ軍の宿営右側面から最初の一撃を加える先鋒となる。時を措かずに第二隊を率いるサウロンが左側面から攻撃し、第三隊はサウロンと呼応して後背から攻撃を仕掛ける。


 進軍に先立って送っていた斥候が戻って来た。


「申し上げます。ナハシュ王を始め、ベン・アミ軍の者たちは皆、酒に酔い潰れておる様子でした。見張り以外にはほとんど動く人影はありません。」


「よし、第一段階は上手く行ったようだ。これより第二段階に移る。アブネールに伝令を送れ! 続いて族長連合にも伝令を! すぐさま移動だっ!!」


「「「「ハッ!」」」」


 第一、第二隊に伝令を送ると、サウロンの率いる第三隊三万人は移動を始めた。サウロンが率いているのは、ベン・ヤミム族を中心に編成された軽装騎馬と徒歩で移動する羊飼い集団だった。機動力と攻撃力はそれなりに高いものの、防御においては難あった。装備が軽装過ぎて、矢玉や剣戟への対応に弱いのだ。


 サウロンがベン・ヤミム族中心で編成された軍勢を率いているのにも、実は理由があり、王に選ばれたとはいえ、初心者であり何の功績も無く、突然「主神に選ばれたから」という理由だけで擁立されたのだ。民の忠誠心も未だに未知数であり、反抗する者たちも多数存在していた。そんな事情で、信頼できる少数の者たちで護衛を兼ねていた。




「王は、突撃命令を出された! 第二隊っ! 私に続けっ!!」


 第二隊を率いるのは、サウロンからの信頼も厚いアブネールであった。第二隊は、十万人近い軍勢で、ジュダ族が中心だった。ジュダ族は、ベン・ヤミム族とも居住地域が近いためか良好な関係を築いており、今回の出兵にもいち早く参加を表明してくれた。


 彼ら第二隊が、夜も明けきらぬ内に今回の戦闘での第一撃を敵に加えるのだ。


「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーっ!!!!!」」」」


 大地を揺す振らんばかりの大音響と共に、遊牧民族による奇襲作戦は始まった。




◇◆◇




 夜明けの見回り、現代時間に直すと午前3時から6時までの間に、ベン・アミ軍の宿営を見張りが回る頃、突然、大地が揺れた。


「何事だっ!? 地震かっ?」

「何だっ!! あの叫び声はっ!!」

「・・・大地が震えているではないかっ!?」

「あんなに大勢がこちらへ向かって来るだとっ・・・」

「援軍なんて来る予定があったか?」

「よく見ろっ! ヤツらは旗も立てていないではないかっ!」

「すると・・・ あれは?」

「夜襲だっ!!」

「王に報せろっ!!」

「誰かっ! 全軍を起こせっ!!」


 夜も明けぬうちに、足音を消し、声もひそめて宿営の間近に迫ったサウロンの軍勢は、こうして奇襲に成功した。


「おい! 逃げるなっ!! 戦えっ!!」

「将軍っ! 貴方も早くお逃げくださいっ!! 敵は数百万の軍勢ですっ!! もはや勝ち目はありませんっ!!」

「数百万だとっ!? そんな馬鹿な話しがあるかっ!! 精々数万の間違いではないのか!! 情報はもっと正確に伝えろっ!!」


 将軍の一人が檄を飛ばすが、眠り込んでいたところに急襲で、兵たちは混乱するばかりで陣形さえ組めずにいた。


 それでも、なんとか立て直し、反撃を試みる強者たちも居た。


「こっちだっ! 命が惜しい奴はここへ並べっ!! 日頃の訓練を忘れたのかっ!? 根性を見せるなら今だぞっ!! 幸い敵は我が陣の右方向からのみ攻撃して来ているのだ! 右翼のみ守りを固めれば、後は押し返すだけだぞっ!!」

「「「「オウッ!!!!」」」


 真横一列に表面に青銅が張ってあり、厚く木の板を重ねた盾を並べ、槍を構えた精兵たちが、アブネール率いる第一隊の強襲を凌ぎ始めた頃、反対側の宿営左方向からときの声が挙がった。


「なんだとっ!? 後ろからも軍勢が攻めて来てるだとっ!!」


 サウロンに率いられた軽装騎馬隊が、サウロンを先頭に陣営目掛けて切り込んで来たから混乱に更なる拍車が掛かった。


「突撃だっーーーーーーーーーーっ!! 全軍、俺に続けぇぇぇぇぇぇぇーーーっ!!」


 闘神の民に騎馬隊は少ない。わずか四百ばかりの、しかも軽装騎馬であり、その攻撃力はあまり高くは無い。だが、軽装騎馬の利点はその“身軽さ”であり、そこから生まれる“速さ”だ。


 サウロンは勇猛果敢に、ナハシュ王の陣営の中央目掛けて疾風の如くに攻め込み、その後方からは羊飼い部隊が気配を消して近寄り、携帯型の投石機や先端に石を結んだ投げ縄で兵士たちを殺しながら進んでくるので、左側ばかりに気を取られていた防御陣地は、浮足立ってしまった。


「我々は前方にも後方にも敵が攻めて来ている状況だと言うのか!?」

「楽な戦闘のはずじゃなかったのかっ!?」


 ナハシュ王の陣営は更なる混乱に陥っていたというのに、そこへ今度は陣営の後方からときの声が挙がったではないか。


「「「「侵略者どもを一人残らず討ち頃せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

   うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーっ!!!!!」」」」


 十二部族連合のうち、ベン・ヤミム族とジュダ族からの軍勢で十三万。そこへ、残りの銃部族連合が加わって二十万の軍勢が背後から襲って来たのだった。


 戦闘は泥沼状態となってしまい、ナハシュ王が統率された指揮を取れる戦場は極僅かで、残りは将軍や部隊長たちが、連絡を寸断され、各個撃破される状態に陥ってしまった。



次週も土曜午前の予定です。



書いている本人が一番混乱してしまったようですいません。

右左中央と方角だけで書くのって難しいですね。

修正してみました。


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