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王朝物語  作者: L'Excuse(愚者)
第一章 サウロン王朝物語
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第四話「涙、時々、怒り、後…歓喜?」

第四話「涙、時々、怒り、後…歓喜?」


。サウロンがサムの手から油を注がれた後、闘神の民の隣国である、ベン・アミ族が住む国の王、ナハシュが攻撃を仕掛けて来た。ラモテ・ギルアデの町は、ナハシュ王が率いて来た軍勢に対抗すべく、急ぎ召集を掛けたが一国の軍隊と一部族の、しかも町に住む者たちと周辺の勇士を召集しても、劣勢は補えなかった。


――― ベン・アミ族は、元々は闘神の民と同じ先祖を持ち、云わば遠い親戚や兄弟のような存在だった。ところが、先祖は同じでも生活様式や崇拝する神が異なったのが原因か、いつの頃からか度々戦を交えるようになってしまっていた。サウロンが王として即位することになったのも、実はこの民が戦を仕掛けて来る事が原因であった。―――


 そこで、ラモテ町に住む者たちから、使者を送り、ナハシュ王に対して交渉を仕掛けた。


 交渉に当たっては、弁論術、交渉術に優れたと評判の者たちに幾ばくかの財宝を持たせ、低姿勢で交渉にあたるように重々言い含めて送り出したので、人々は期待を込めて、交渉の成功と、ハナシュ王が軍勢を引き上げてくれることを願った。


 軍勢の中心にあるナハシュ王が設置した宿営は、当時の人々が移住する時に用いた、解体、設置がしやすい作りの幕屋だった。交渉はこの幕屋内で行われることとなった。幕僚たちと文官を伴い、ラモテ町から派遣された使者たちに対して、ナハシュ王は横柄に用件を尋ねた。


「貴様ら。この私に一体どんな用事で出向いて来たのか?

 くだらぬ戯言であれば、一太刀のもとに町ごと滅ぼしてくれよう。」


「偉大なるナハシュ王よ。どうか私たちと平和と繁栄のための契約を結んでください。

 そうすれば、私たちラモテの住人は一人残らず、貴方様のしもべとして末永く仕えましょう。」


 使者たちは、ナハシュ王の威光に恐れをなしたように頭を垂れながら恭しく申し出た。

 ところが、ナハシュ王は、苛立った気持ちを隠そうともせずにぬめり付けるような鋭い眼光と共に次の言葉を叩きつけた。


「貴様らは、度々裏切りを繰り返している嘘吐き共だ!!

 我が民が、何度貴様らに煮え湯を飲まされてきたことか!!

 聞くところによると、貴様らには新たな王とやらが選ばれたらしいではないか。

 その王とやらに縋ってみてはどうか。彼の者が貴様らを救ってくれるのではないか?」


 ナハシュ王が放った密偵が、彼にサウロン王即位の情報を伝えていたらしい。

 

「貴様らがこの私に服従するというのならば、次の条件を飲め。

 そうすれば、契約を結んでやろう。なーに、難しい条件では無い。

 この私は優しいからな。小さな子どもにだって出来ることさ。」


 先程までの苛立った口調とは打って変わって、猫なで声でナハシュ王は、使者たちの中でも一番年長者で、今回の代表となった人物の顔の真ん前に立った。そして、次の瞬間、口調はまた詰問するものへと一変した。


「貴様ら全員の右目を抉り抜いて、この私の前に差し出すことだっ!!

 例外は認めない。一人残らずだっ!! 女、子ども、年寄りに至るまで、全員分だっ!!

 そして、町の住人全員であることを確認する意味でも、町の入口から端に至るまでの道という道に全員が跪いて我が軍勢を迎え入れてみせよ!

 そうやって、貴様ら闘神の民全体が、笑いものになるがいい。

 そうすれば、貴様らと契約を結んでやるっ!!」


――― 「右目を抉り抜いて取る」という行為は、野蛮に思えるかもしれない。だが、後の時代の侵略者たちも同様のことを行っている。戦闘時、戦士たちは左手で大盾を構え、自分の身を守った。ところが右目が抉り取られた状態では、盾で左目が覆われてしまい、視界が利かなくなるのだ。ここから推測されるのは、ナハシュ王がラモテ住人への要求は、反撃を許さない「絶対服従」を求めてであろう。―――


 この言葉を聞いた使者たちは、みるみる顔が紅蓮のように怒り心頭で顔を真っ赤にさせたかと思うと、今度は青褪めて腰からカクンと崩れてしまった。


 ラモテの町の使者たちは、全住人の期待を背負ってこの場に居た。しかし、肝心の交渉相手は、到底承服不可能な条件を叩きつけて来た。ようするに、最初から相手にされてなど無かったのだ。無理難題を吹っかけて、相手が歯軋りして悔しがる様を嘲笑うのがナハシュ王の目的だったとしか思えない。

 仮に、要求を受け入れて服従を示したとしても、反撃の力が奪われてしまう。さりとて、徹底抗戦すれば、町の住民は皆殺しにされても不思議では無い。武力を背景とした外交など、交戦する力の無い者をまともに相手をする価値すら無いのだから。


「おい! この汚物どもをさっさと追い出せっ! 失禁でもされては敵わんからなっ!!」


「「「はっ!」」」


 ナハシュ王の命令に屈強な兵士たちが使者たちの両脇を固めて、幕屋の外へと追いやろうとしたその時だった。


「・・・お待ちください!!」


 使者たちの代表を務める最年長の男が絞り出すように懇願した。


「せめて、せめて7日間の猶予を! 猶予をください!!

 ナハシュ王の仰せの通り、事は闘神の民全体の名誉に関わる事なのですから。

 我らが国中に使者を送り出しましょう。それでも、尚、我らの町を救うことができる者が表れなければ、その時は、この首ごと貴方様に差し出しましょう!!」


 最年長者の意地か、単なる時間稼ぎや虚勢か?

 ナハシュ王には真偽は測りかねたが、7日間だけ待てば、戦闘行為すら無しでラモテの町一つが戦功となるのだ。単純兵力では圧倒してはいるが、戦闘をすれば、死傷者は避けられない。闘わずして勝てるのならば、その方が効率がはるかに良い。


「フン。これ以上は下手な時間稼ぎはするなよ。行って貴様らの言う通りにしてみるがいい。

 誰も貴様らを助ける者が表れなければ、お前たちの町は今後永久に我らの下僕となるがよいだろう。」


 この言葉を最後に、交渉は終わった。



◇◆◇



 ラモテの町の使者として派遣された者たちは、ギブアへとその足で移動した。

 そして、ギブアの町の者たちの耳にベン・アミ族のナハシュ王から告げられた暴言の数々を悔しさのあまり涙ながらにぶちまけた。ギブアの町に居た者たちも、使者たちが悔し涙の留まらない姿に、もらい泣きをしてしまい、その泣き声は町の外まで響いたという。


 そこへ、町の外に放牧していた牛たちを連れて、サウロンが戻って来た。


「おいおい、町の皆が泣き喚いているようだけど、一体全体どうしたっていうのだい?

 誰かの葬式でもあったのかい?」


「馬鹿旦那・・・・ 聞いてやってくださいッスよ~っ!!

 カクカク然々で、聞くも涙、語るも涙ッスよぉ~っ!!」


 従者の一人が、先に住人から事情を聞いてラモテの使者の告げたナハシュ王の暴言を説明してくれた。使者たちもそれぞれが悔し涙を目に浮かべて歯軋りしながらサウロンに向かって取り縋った。


「女、子ども、老人に至るまで、町の住人全員の右目を差し出せと・・・

 儂らに死ねと言っているのと同じじゃありませんか!!」


 最年長の使者が、胸を叩き、着物を引き裂きながらそう叫んだ。

――― 胸を打つ、着物を引き裂くという行為は、闘神の民にとって、最上級の嘆きや悲しみを表現する動作だった。 ―――


「なん・・・ だと・・・ !?」


 従者とラモテ町の使者たちの言葉を聞いたサウロンの心にかつて感じた事の無いレベルでの激しい怒りが渦巻いた。

 後に冷静さを取り戻したサウロンが語ったところによると「主神の霊が俺の魂を激怒レベルまでゆすぶった!!」と少し照れながら周囲に告げたという。


「この牛を切り分けろっ!! 一くびき分だっ!!」


「切り分ける? そんな、牛なんて切り分けて一体どうするッスか・・・?」


 従者には、サウロンが牛を切り分けてどうするつもりなのか思いつかなかった。

 が、主人の命令である。一くびきとは、一対になった牛を指しており、二匹分を意味した。従者はサウロンから牛二頭を受け取った。


 その二頭の牛をサウロンは、12切れになる様に切り裂けと指示を出した。 


――― 切り裂き方は、神殿で生贄として捧げる物と同じ様に血抜き処理をして、牛の体内の水分を全て外へ出してしまい、各部位ごとに、身体も含めて12切れの肉片となるように切り分けた。不思議な行為に映るかもしれないが、当時の闘神の民が民族の一致を求めるときにはこのように行っていたという。 ―――


 作業が終わり、12切れの肉片が並べられると、サウロンは闘神の民の全部族、12部族に向けて肉片を一つづつ持たせた使者を送った。

 使者たちは、サウロンの命令通りのメッセージを各族長や代表者へ告げた。


「サウロンとサムに従って、挙兵しない者たちの牛は、全てこのようになる!!」


 それは、サウロンが初めて王として下した命令だった。

 サウロンが12の肉片に切り分けた牛を送ったのには、やはりメッセージが込められていた。

一つ目は「不服従の者は敵対行為と見做すから覚悟しとけよ!」という威圧の徴。

二つ目は「切り分けられた牛のように、我らは一つの身体の民族である!」という友愛の徴。


 他国の密偵に見つかっても、隠されたメッセージは解読できない。しかし、闘神の民であれば、12切れに切り分けられた肉片そのものが隠されたメッセージとして理解されるのだ。



◇◆◇



 サウロンからの使者たちが、各部族長や代表の者たちの前に立ち、命令を実行に移したとき、反応はそれぞれであった。

 ある者たちは、恭順の態度を示し、ある者たちは、不承不承ではあるが承知した。ある者たちは、様子見を決め込みたかったようだが、12切れに切り分けられた肉片の一つを受け取ると、承服すると告げた。そんな中でも、やはりサウロンを王として認めたくない勢力も確かに存在はしていたが、緊急時でもあるので派兵には応じた。


 実は、闘神の民が部族として歴史上初めて“王”という存在を自分達の支配者として立てて、どのように影響するのか。更に、最近は勢力も衰えが見えるとはいえ、大賢者と呼ばれ、今尚隠然たる勢力と影響力を誇るサムの存在は、無視できなかった。


 挙兵に応じない結果として、主神様から天罰でも降ったらと想像するだに恐ろしい。

 このように、恐れの対象は思うところはあるかしれないが、誰かや何かを恐れた結果としてでも、12部族は全てサウロンが王として発した挙兵に応じた。


 その数、およそ三十三万人の軍勢が、サウロンの召集に応じて集められた。

 内訳としては、北方10部族連合より三十万人。南方2部族連合より三万人。

 現時点で集め得るだけの兵力をすべてこの一戦に掛けて戦おうというのだ。

 

 兵力を掌握したサウロンは、先に会見したラモテの使者たちを呼び集め、ナハシュ王への返答を伝えた。

 

「良いですか、ラモテの町の住民には、このように伝えてください。『明日の真昼頃、あなたがたには救いがある!』と。

そして、ナハシュ王には、このように答えてください。『明日…。』と。

いいですね?」


 この言葉を聞いたラモテの町の使者たちは、目に嬉し涙を浮かべた。絶望が希望に変わった瞬間だった。やはり、サウロンこそが油注がれた王なのだと心が震えた瞬間だった。


 使者たちは時をおかず、出来る限り急ぎ、自分達の帰りを待ち侘びているラモテへと帰って行った。そして、サウロン王から告げられた通りに町の者たちへ告げると、大きな喝采と歓声が挙がった。



◇◆◇



 ラモテの町から、再びベン・アミ族の王ナハシュのところへ使者たちが遣わされた。

 使者たちは、俯き加減で表情を隠しながら、恭しく礼をして見せたかと思うと、一斉に恭順の態度を示したので、ナハシュ王を始め周囲に居た者たちは驚いた。


「どうしたと言うのだ。今度はやけに従順じゃーないか? 一体何を企んでいるんだ?

尤も、私と私の軍勢の前では、小細工など児戯に等しいのだがな。それで、返事を聞こうか?」


 不審がりながらも、横柄な態度と乱暴な言葉遣いは改めもせずに、使者たちへ王は問うた。問われた最年長者である使者が平伏したままで答えた。


「偉大なるベン・アミ族の王の王であるナハシュ王様。明日、我々ラモテの町の住人は、貴方様が仰せられた通りに、大人から女、子ども、老人に至るまで、全て貴方様に服従致します。どうぞ、貴方様の良いと思われるように、私どもになさってください。我ら一同、徹頭徹尾貴方様に服従致す所存でございます。」


 使者たちは平伏したまま微動だにせず、ナハシュ王への服従を誓った。

 即ち、降伏勧告を受け入れたのだ。


 兵たちの中には「わっ!!」と歓声を挙げたり、これで無用な怪我や死者が出ずに済むと胸を撫で下ろす者たちも居た。幕僚たちでさえ、明日には行われるであろう論功行賞の式典でどれだけの褒美が下賜されるのかと、浮足立つ者もいた。


「うむ。良い心がけである。ようやっと、我々に逆らうことの無益さを、貴様らの楽手能力の低いオツムに叩きこむことが出来たようだな! よろしい、明日には貴様ら町へ我が手勢を率いて行ってやる。せいぜい歓待しろよ?」


 最年長者である使者の頭にサンダルを乗せてグリグリしながら、ナハシュ王は侮蔑した声と表情のまま、冷たく命じた。


「「「ハッ! 我ら一同、心より我が新しき主のご到着をお待ち申し上げますっ!!」」」


 使者たちは地面に顔を埋める様に這いつくばったまま答えた。


「フン。惨めなものだな。これがあの闘神の民の末路か。」


 幕僚の中の一人がそう呟いたが、ナハシュ王や幕屋に居合わせた全ての者たちが同感であった。


 ラモテの町からの使者たちは、尚、俯き加減で表情を見せぬまま、ひそりと帰って行った。そして、事件はその翌日に起こった。


次週も土曜日で投稿予定ですが・・・

(※遅くなってしまったときはすいません)

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