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王朝物語  作者: L'Excuse(愚者)
第一章 サウロン王朝物語
3/9

第三話 探さないでください・・・ダメですか、そうですか、せめてそっとしておいてはもらえませんか・・・

第三話「探さないでください・・・ダメですか、そうですか、せめてそっとしておいてはもらえませんか・・・」


「さて、これから大事な儀式を行うぞよ。

 覚悟は良いな?」


 従者を見送ったサムは、徐にそう宣言した。


(ちょっ おまっ 心の準備とか、初めてだから、怖くしないでね?

 とか、色々色々言いたいことは山積みなんですけどーーーーーーっ!!)


 当然ながら、サウロンの心の叫びは、華麗にスルーされた。

 闘神の民において、ご神託は絶対であり、覆されることはまず在り得ない。

 特に、このような重大な場面においては、一個人の事情や考えは、重要では無いらしい。

 決定事項として、粛々と大きな時代のうねりと共に、闘神の民にとっての重大事項が進められる。



◇◆◇



 それから、時を置かずに儀式は速やかに行われた。

 神殿の庭には、既に祭司見習いや奴隷たちが用意したのか、儀式に必要な物が全て整えられていた。


 それまでの、リラックスした雰囲気と違い、厳かな気配を身に纏った先見者サムが、祭司としての正装であるエポデと呼ばれる服を纏い、油壷を手にしてサウロンと向かい合う。


 徐に、サムはサウロンの頭へと油壷に満たされていた油を注ぎだした。



―――ちなみに、『頭に油を注ぐ行為』は、特別な行為となり、王や祭司、救世主メシヤなどの選ばれた者にのみ注ぐかのような印象を与えたが、一般的にも広く行なわれていたという。客人を持て成す行為として、宗教、医療、衛生上の用途のためにも『油注ぎ』は全時代に渡って行われていたという。そして、今回のサウロンの油注ぎは、特別な意味を持つ。―――



「偉大なる主神様が、ご自身の所有しておられる闘神の民の支配者として、サウロンよ。おぬしに油をそそがれるのではないか。


 おぬしは、これより儂のもとを去り行くならば、ベン・ヤミム族の所領内に在るツェルツァフにあるラーケルの墓所の近くで、二人の人物に出会うであろう。

 二人の人物は、おぬしに『貴方が探している雌驢馬なら、もう見つかりましたよ。ところで、貴方の父上が、雌驢馬のことなどさておき、息子である貴方のことをとても心配しておられましたよ。』と告げるであろう。


 おぬしがそこから尚進み行き、タボルの樫の木の所まで進むと、そこでベテルの神のもとへと上り行く三名に出会うであろう。

 一人は、仔山羊三頭を所有し、一人は、丸型のパンを三つ所有し、一人は、葡萄酒の袋を一つ所有しておる。

 彼らは、あぬしに安否を尋ね、おぬしにパン二つを渡すであろう。

 おぬしは、それを受け取るが良い。


 その後、フィリスティア人の守備隊が常駐しておる主神様のギブアに着くであろう。

 おぬしは、その町へ入る時に、琴、タンバリン、笛、立琴たてごとを鳴らす者を先頭とした、高き所から降りて来る預言者よげんしゃの一団に出会うであろう。

 彼らは、預言をしておるが、主神様の偉大なる霊が、おぬしの上に激しく下る時、おぬしもまた彼らと共に預言をするであろう。

 その時おぬしは、今までとは異なる新しいおぬしと出会うであろう。


 これは、主神様からおぬしへのしるしじゃ。

 手当たり次第に、何でも好きなことをしてみるが良い。

 主神様がおぬしと共におられるからじゃ。


 おぬしは、儂よりも先にギルガルへ下るが良い。

 儂も主神様へ捧げる全焼と和解の供犠を持って、おぬしと合流するために下るのじゃ。

 おぬしは、儂が到着するまでの七日間をそこで過ごさなければならぬ。

 必ず、そこで待たなければならんのじゃ。


 儂が、お主の道を教えてしんぜよう。」


 サムは、油を注ぎながらこれらの台詞をスラスラと告げた。


 あまりにもスラスラと澱み無く告げられたので、告げられたサウロンの方が戸惑ったくらいなのだが、ご神託は長い時もあれば、短い時もある。今回は長く告げられたのだろうと受け止めた。しかし、覚えきれるかは・・・ 正直に告白すれば不安もある。


 きっと、主神様のご加護によって、今告げられたご神託は、生涯忘れることも無いであろうと、その時のサウロンは少し戸惑いながらも、常よりは信心深くしてみようと思った。



◇◆◇



 サウロンがサムの元から去って行った時、ご神託にあったように、主神はサウロンの心を全て変えて、全く新しく生まれたかのような状態にされた。サムが告げたご神託の通りに、しるしが全て同じ日に起こったのだった。


 サウロンが目的地であるグブアという地に到着すると、先に家に戻った従者が再び彼と合流した。実は、家が近かったのである。


 そして、神託の通りに預言者の一団が彼と出会った。すると、主神の霊が激しく彼の上に下り、サウロンが預言を語り出したので、周囲に居た彼を知って居た者たちが戸惑いながらこう言った。


「キシュの息子は、一体全体どうしてしまったというのだろうか!?

 サウロンもまた、預言者の一人にでもなってしまったというのか!?」


 その場に居た、もう一人の者もこの言葉に応じて「若旦那の父上は、キシュ様ッス。」と意外と冷静に答えたという。


 この出来事が起源となり、闘神の民の間に新しいことわざが生まれた。


「サウロンもまた、預言者の一人なのか。」


―――このことわざは、『従来の職業や習慣からは予想もつかない、別の性格や言動を取る人に対する驚きや戸惑いを表す』言葉として、用いらるようになったという―――


 

 一方、当のサウロンはといえば・・・

(なんのだっ!? コレは・・・?

 俺の身体が・・・ 唇が・・・ 声が・・・・


 あ―――――――――――――――――――――――――――――――っ!!


 もう、周囲のことなんてあまり気にしてられないな。

 迸る熱いパトスのように、溢れ出るように、次から次へと、預言が・・・・・

 止まらないじゃないかっ!!


 こんなことは生まれて初めての経験だな・・・・・

 コレが、サムの告げていたご神託の実現ってヤツなのか・・・・・

 コレならば、本当に・・・ 俺は・・・・ 闘神の民の・・・・ 王・・・)


 一頻り迸り出ては止まらぬ預言ではあったが、終にサウロンから預言の言葉が出なくなった時、彼は高き所と呼ばれる場所へ移動した。



◇◆◇



「若旦那・・・ さっきのアレ・・・ どうしたんスか?

 超驚いたッスよ?」


「あ、ああ。

 あ…ありのまま

今起こった事を話すぜ!


『おれは預言者の一団の前を歩いていた

と思ったらいつのまにか預言をしていた』


な…何を言っているのかわからねーと思うが

おれも何をどうされてそうなったのか分からなかった…


頭と心がどうにかなりそうだった…

催眠術だとか超スピードだとか、ましてや心霊現象だなんて

そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ


もっと恐ろしい神聖なものの片鱗を味わった気がしたぜっ・・・・。」


「若旦那・・・・ ヤッパ、イイッスわ。」


「えっ!?」


 『そのネタ使いたかっただけなんでしょ?』とでも言いたげな目でこちらを見つめる従者から、冷静に答えられるとやはり、先程までの預言は何だったのだろうかと、不安もある。


 だが、事実だったし、サムから告げられたご神託が実現したのがアレだ。


 ここはやはり、超常現象のようなものが起こって、自分の上に普段は感じることすら無かった主神様の霊が降りて来た結果として、預言という現象が起こったのであろうとしか思えなかった。理解は出来ないが、信じるしか無いということを初めて身をもって体験した。



◇◆◇



 サウロンたちが、高き所と呼ばれる場所へ移動すると、サウロンの叔父の一人がやって来て、彼と従者に尋ねた。


「お前たち、一体どこへ行っていたんだね?」


「叔父さん。親父の飼っている雌驢馬を探しに行っていたんですよ。

 どこを探しても、ちっとも見つからなくって・・・

 それで、先見者サムの所へ相談に行ったんですよ。」


「ほう、そうかね。

 先見者サムは、お前にどんなことを告げてくれたんだい?」


「雌驢馬なら無事に見つかった。って、明瞭に私たちに告げてくれましたよ。」


 未だに心に戸惑いがあるサウロンは、叔父とはいえ、王位のことについては、話すつもりにはなれなかったのだ。

 それから、少しの間叔父と会話を交わしてから、二人はミツパの地に移動した。

 


◇◆◇



―――ミツパとは『見張る場所』『物見櫓』という意味であり、BC1100年からBC400年頃まで栄えた町で、闘神の民の間では重要な拠点の一つであった。サウロンより500年ほど後の時代には、要塞化された。―――


 この町に、サムは居た。

 そして、闘神の民を主神の名のもとに集めていたのだ。


 サムは、闘神の民に向かって告げた。


「闘神の民の神である主神様は、こうご神託を降された。


 『わたしは、お前たちをファラオの治める地より導き出し、ファラオの魔手と圧制から

  救い出したのだ。』

 

 ところが、おぬしたちは全ての災いも苦難も圧制からも救い出した主神を退け、

 『我々の上に、王を戴かせてください。』

 と懇願した。


 今、おぬしたちは、各部族ごと、分団ごとに、主神であるわたしの前に進み出るのじゃ!」


 サムに命じられた闘神の民は、12ある全部族をサムに近付けた。そして、祭司見習いが持参して来た神事を伺うためのクジを部族ごとに引いた。


 すると、籤はベン・ヤミム族に当たり、他の11部族は退いた。


 今度は、ベン・ヤミム族の中から、その氏族ごとに近付いて、マテリの氏族が取り分けられた。


 そして、ついにキシュの息子であるサウロンの分の籤が取り分けられたのだった。


 ところが、肝心のサウロン自身の姿が見えないので、人々は彼の姿を一斉に探したが、何処へ雲隠れしたのか、探せど探せどサウロンの姿を見つけることが出来なかった。

 それで、人々の中から幾人かの者たちがサムに向かって質問して来た。


「我々の王様となるべきサウロンは、この場所に来ているのでしょうか?」


「主神様は、こうお応えじゃ。

 『見るがよい。彼は荷物の間に隠れている。』

 と仰せじゃよ。」



◇◆◇



(えー サウロンです。

 えー 隠れてますとも。


 絶対にイ・ヤ・ダ!!

 だが断るっ!!


 ってドヤ顔で言ってやりたいです。

 だって・・・ ねぇ?

 

 この国ってば、これまで一度も「王様」なんていただいたことが無いんですよ?

 なぜ、俺なのかと。

 どうしてこうなったのか? と。

 

 小一時間ほど問いただしたいですわー

 ムリムリムリ 無・理!)


 そんなサウロンの気持ちを知ってか知らずか、サムから神託を受けた者たちは、嬉しそうにサウロンの居る、「荷物の間」へと走って近づいて来た。そして、非情にも彼を見つけ出して、サムの居る場所へと連れて来てしまった。


(なにも、こんな時に張り切って走って来なくても・・・・涙)


 全部族の集まった場所に連れて来られたサウロンは、先程までの隠れていた姿を直接見られさえしなければ、イケメンであった。


 背は誰よりも高く、民の誰よりも肩から上の分だけ高かった。整った端正な顔立ちと、口元から零れる白い歯と微笑み。その姿を見た者たちは、サウロンの内心を知らない。


 サムは、厳かに、そして高らかに闘神の民へ宣言した。


「見るが良い。この者こそが、主神様がお選びになられた者じゃ!!

 闘神の民の中では、誰一人として、この者に並び立つべき者は居ない!!」


 サムの宣言が闘神の民から集まった者たち全員の耳朶に響いた。

 そして、次の瞬間、闘神の民の心は爆ぜた。


「「「「王様! 万歳っ!!」」」」


 割れんばかりの歓声が熱狂的なまでに繰り返されたのだ。



◇◆◇



 サムは改めて、闘神の民の居る前で、サウロンに向けて「王の責任」を告げ、告げた内容を文章化して神殿に納めた。それから宣言のための集会を解散し、闘神の民をそれぞれの家へ帰らせた。


 サウロンもまた、ギブアにある自分の両親の待つ家へと帰ったが、その帰路には随伴者たちが表れた。


「ウッス! 自分! 感動したッス!!」

「オッス! 自分、マジパネエッス!!」

「オイッス!自分、一生兄貴に着いて行くッス!!」

「ウッス! 自分、以下略ッス!!」


 どうやら、屈強な身体の持ち主で脳筋な連中が『勇者』としてサウロンの身辺警護も兼ねて、お供をしたいと申し出て来たのだ。


(参ったなぁ・・・ コイツら、全員頭オカシイんじゃなかろうか・・・?

 全員が、『主神様からのご命令ッス! ウッス!』って・・・ ヤベェ

 親父とお袋に何て説明すりゃいいんだろうか・・・)


「「「「ウッス!! 宜しくお願いしますッス!!」」」」


「ハァ。」


 サウロンにとっての憂鬱は、まだ始まったばかりだ。

 しかし、その前途は未だに見えず、先行きが希望に満ちたものなのか、将又はたまた暗闇が視界を閉ざす未来が待ち受けているのか・・・ 神のみぞ知るとは、正にこのことであろう。



◇◆◇



 サウロンが神託によって主神様によって選ばれた王であるという事実が告げられた日のある場所にて。


「あんなフヌケた面構えの若造が、どうやって我々の窮乏を救えるとでも言うのかっ!?」


「まったくだ。あの若造に媚びを売ったり、贈り物を届けたマヌケが早くも居るようだな。」


「少なくとも、我々は冷静でいようじゃないか・・・ 他の熱病に浮かされた哀れな子羊共とは違うところを主神様にお見せせねばなるまいて。」


 サウロンが王としての宣言を受けたので、彼の元に贈り物やお祝いを届ける者たちも多かったが、邪な者たちの存在も無視できない勢力として現存していたのだ。

 しかし、サウロンは自分を蔑ろにする者たちの存在は認識してはいたが、あえて波風を起こす必要も無いと、黙っていた。



第四話は、6月24日(土)午前10時予定です。

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