第二話 上座・・・だと・・・聞いて無いよー
第二話「上座・・・だと・・・聞いて無いよー」
サムが神殿でご神託を受けている時だった。
「おお。わが主様、至高にして唯一なる主神様。ついに来るのですね。あなた様が油注がれた若者が、この地を訪ねて来ると仰るのですね。フィリスティア人共の暴虐から我らが民を開放し、あなた様のみ救いを齎す器が、現れるのですね。」
ご神託を受けるべく、祈りの姿勢をとっていたサムの唇から次々と言葉が迸り出していた。厳かな仕草と口調は、祭司見習いの少年と会話してた時とは別人のようですらあったが、祭司見習いはこの時は傍らに控えることを許されていない。神殿でのご神託の時には、サム一人のみが主神の前に立つ事を許されていたからだ。
その翌日、サムは高い所に居て、町の出入り口を見下ろしていた。すると、一人の若者が従者を伴って町の方へ向かって来るのを見た。
「主神様よ。この者が闘神の民を支配するものなのでございますね。」
◇◆◇
サウロンが町へ入ろうとすると、前から老齢の男性が近づいて来るのを見た。
「お爺さん、お爺さん、偉大と評判の先見者様はどこに居られるんですか?
良かったら教えてはもらえませんか?」
「儂がその『偉大な』先見者様じゃ!
お前さん、晩飯はまだじゃろ?
儂と一緒に高台へ行こう。
お前さんたちの分も用意しておいたから一緒に食べようじゃないか。」
「え!? 俺、あ、私たちが来るのが分かってたんですか?
食事って・・・。 いや、一食助からラッキーなんですけど。
勿論。喜んで頂きます!」
サウロンは一瞬耳を疑った。なにせ、自分たちが来ることを前もって伝えておいた訳でも無いし、ここへ来ることを決めたのは、来る少し前なのだ。
どうしてこの老人、いや、先見者はそのことを前もって知っていたというのか。
やはり、評判通りの『偉大な』人物なのだろうか、先程の自己紹介の時もわざわざ強調してたくらいだし・・・。驚きと戸惑いが表情に出てしまったのだろうか。サムはさもありなんとしたり顔で続けた。
「明朝は儂がお前さんたちを送り出そう。
お前さんの心の中にある悩み事についても、今ここで答えを与えて進ぜよう。」
「「え!?」」
この答えには、サウロンどころか従者の若者も共に驚いてしまった。
「お前さんの家から三日ほど前に姿を消した雌驢馬についてじゃが、もう気にせんで良い。
あれは既に見つかっておるわい。」
「「ホワッ!?」」
驚きを通り過ぎると人は、咄嗟に言葉にならない言葉を発してしまうものだと、サウロンと従者は顔を見合わせながら、尚、混乱していた。
「それよりもな、儂らにとって、否、儂ら闘神の民全体にとっての悩みがあるじゃろ?
それは民全体の共通の大きな大きな悩みじゃよ。」
サムが神妙な顔つきでサウロンを真っすぐな視線で見つめてきた。
(ちょ、爺さんに見つめられても嬉しく・・・ じゃなくて! なに言ってんだこの爺さん。闘神の民全体の胸中の悩みっつったら、アレじゃね? いや、アッチかな・・・
うーん。できれば俺の予想がハズレて欲しい場面ってこんな事だったのかー。
いやー人間生きてれば不思議な事に出会うね! 正にミラクルー!!
って言ってる場合じゃねー!!)
サウロンが一人心の中でノリ突っ込みを繰り返しながら、目を白黒させて内心シドロモドロになっているのを気にした風も無く、サムは宣告した。
「お前さん。選ばれたんじゃよ。
これから先、闘神の民全体は、お前さんのものじゃ。
お前さんの父親の所有物では無く、お前さんのものになるのじゃ。」
突然の宣告に、サウロンは言葉に詰まった。だが、ようやく、頭が言われたことを理解し、何か答えなければと焦る気持ちから発する事が出来たのは
「何を仰るのですか! 俺は闘神の民で一番民の数が少ないベン・ヤミムの部族ですよ!!
しかも、うちだってベン・ヤミム族の中でそんなに強い家族なんかじゃない!!
なんだって、俺がそんなことを言われなきゃなんないんだ!?」
感情の爆発だった。闘神の民が長年に渡って王を求めて来た事は、サウロンにだって理解できる。サウロン自身だって王が居ればと何度呟き、主神に向かって求める祈りを捧げたことか。
サウロンの周囲に居る人々だって皆、王を切望している姿を見続けて来たのだから。だが、それは、サウロン自身では無い。絶対に在り得ない事だとサウロンは頭から否定した。
――――ベン・ヤミム族。闘神の民12部族中、現時点では最小数部族だった。というのも、士師と呼ばれる者たちが単発的に裁き司 (民の指導者的な存在)をしていた頃に、やらかしてしまったのが原因で、11部族を相手に内紛を演じてしまい、フルボッコにされてしまったのだ。結果、女子供が激減し、人口が増えるのに時間が掛かってしまった。そんな最小数部族から王だと!? もっと有力な部族から選べよとサウロンでなくとも思う者は多かったかもしれない。―――
これが、サウロン以外の誰かだったら、心から大歓迎しただろうし、自分も及ばずながら王の為に力になろうと思ってさえいたのだから。
神託は予想だにしていないものだった。サウロンは動揺した。逃げ出せるものならば、今すぐにでもこの場から姿を消してしまいたかった。だが、身体が思うようには動けなかった。思いとは裏腹にその場から去ろうとはしない。
それどころか、サムはサウロンの手を取り、サウロンの従者を伴って神殿の広間へと連れて来られてしまった。広間には既に30名程の招待客が座っており、サムが入ってくると挨拶を交わし出した。
(これでは、益々逃げられなくなるじゃないか・・・。)
内心悲鳴を挙げるサウロンだったが、この先に待ち受ける出来事がどんなものなのか、見定めてからでも遅くは無いかなと腹を据えた。
「ささ、こちらがお前様とお供の席になりますじゃ。」
「「え・・・ 上座・・・だとっ!?」」
驚き続きのサウロンだったが、サムは気にした様子も無い。
それどころか、スタスタと奥へ向かって歩きながら、料理人に向かって一言告げた。
「取っておくようにと言って渡しておいた分を出してもらおうかの。」
申しつけられた料理人は、恭しく一番上等な部位を選んで調理した一皿を取り出し、その極上の一品をサウロンの席に置いて見せた。一連の動作が終わるのを見届けると、サムは宣言した。
「お前様の前に置かれたこの皿は、儂が取り寄せて置くようにと命令しといたものじゃ。
お食べなされ。儂が客人を招いたと闘神の民に宣言し、今、この時のためだけに、
お前様のためだけに取り分けて置いた皿じゃ。」
逃げ場の無くなってしまったサウロンは、サムと一緒に食事を済ませた。
内心では、『こんのオトボケ爺じぃめぇ!! 俺をハメやがったなぁーっ!!』
などと考えたとしても、後の祭りである。
◇◆◇
それから、サムとサウロン、従者らは、神殿のある高き所から町へ下って行った。
そして、サウロンとサムの二人だけで見渡しの良い屋上がある家へと入り、王になることについて、主神様からのご神託についてなどを夜遅くまで話しをした。
翌朝早く、夜が明ける近くに、サムは屋上に設けられた客間で眠っていたサウロンを叩き起こした。
「起きなされ! 朝じゃぞっ!!
儂が見送るんじゃ、早うしなされっ!!」
(クッソー コレが究極の美少女だったら・・・ ハァ。
この俺が、まさかの王様かぁ・・・
夕べも遅くまで長々と聞かされちまったが、どうすりゃいいんだ・・・)
サウロンは、いつもより余計に重く感じる身体を、寝台の上から起こし、サムと共に屋上のある家から外へと出た。
◇◆◇
サウロン、従者、そして、サムが町外れまで見送りの者達と共に来ていた。
「サウロン殿。従者の若者に、儂らよりも先に行くように命じてくだされ。
従者殿が先に行ったら、サウロン殿だけ、この町にしばらく留まりなされ。
主神様からのご神託をお前様に告げることになったのじゃ。」
(げ。 ここに来て、「俺のことはいいから、お前だけ先に行けー」フラグかよ!
とゆーか、そういう大事なフラグって、この場合は、従者が主人である俺に向かって
言うべき言葉じゃねーのかよっ!!
とはいえ、逆らうことも出来ないんだよなー
先見者サムのご神託は、闘神の民全体に絶大な影響力があるからな・・・
逃げ場のない俺って・・・・ ハァ。
でも、ここで王様の心得とやらでも聞かせてもらえれば・・・
少しは先行きが明るくなると良いのだが・・・)
誰が何と言おうと、この町ではサムこそが偉大なる主神様の先見者であり、地域によっては、信心の薄い者達から蔑まれようと、今尚その影響力は計り知れないのだ。
「それじゃー馬鹿旦那、あ、違ぇーや!
若旦那っ! 一足先に戻るッス!!
旦那様と奥様には、若様は、先見者様から超絶ありがたーいご神託を受けたって伝えて
おくッスから、安心してイイッスよ!!」
「おま・・・ フッ。
俺がこんな大事で悩んでいる時にも、変わらぬ態度。
むしろ、今なら有難く感じてしまうのは、俺の心が折れてるからだろうな・・・
とりあえず、親父とお袋に後から帰るって伝えておいてくれればそれで良いよ。
頼んだぞっ!!」
「超巨大な船に乗ったつもりで任せておくッスよ!!
それじゃー お先ッス!!
先見者様も、綺麗なお姉さん達も食事と一泊させてもらってあざーッス!!」
「うむ。おぬしにも主神様のご加護と平安のあらんことを!」
「またいらしてねぇ~」
先見者サムはともかく、神殿に仕える巫女をお姉さん達と呼んでみたりするあたりが従者らしいといえば彼らしいのだろう。こうして、従者の若者は、主人であるサウロンを置いて、一足先に帰路に着いた。
「さて、これから大事な儀式を行うぞよ。
覚悟は良いな?」
従者を見送ったサムは、徐にそう宣言した。
第三話は、6月17日(土)午前10時予定です。
第三話 「探さないでください・・・ダメですか、そうですか、せめてそっとしておいてはもらえませんか・・・」




