8話―②―目指すものは
再構築が終わるとその凛とした姿が現れる。
何度見ても美しい。
ふと上から大きな音が響いてそこに目をやる。
なんとあのドラゴン、空に滑空してブレスを吐いてくるところだった。
リリーシャの気配に危機感を覚えたのか、狙いは彼女にしぼっている。
[ユニットカード(召喚中)]
名 前:ゴブリン ソードプリンセス リリーシャ
H P:1200/1200
攻撃力:4250
防御力:2200
プリンセスの効果はゴブリン1体につき200。それが10体。キングの効果を吸収しているのでさらに500、さらにさっき場にキングを召喚したのでさらに500。1250に2000に1000でこの数値というわけだ。
攻撃力はこちらが上、だから問題ないと高をくくっていたがブレスはまずい。物理攻撃なら剣で圧倒してダメージを食らうことはないのだが相手は魔法攻撃。最低でもドラゴンの攻撃力4200の3分の1はくらってしまう。
リリーシャの1200のHPではもたないだろう。
ここはガードナーで防ぐか。そう思ったが手札がない! しまった……どうする……! そうか、ゴブリンキングの効果を使えば! そう思ってリリーシャを見ると、彼女はすでに動き出していた。
その速度は恐ろしいほどに速く、まるで当たり前だとでもいわんばかりに優雅な動きでもってせり来る炎と炎の間を潜り抜け、大地を焼くような闇の炎撃をかわしていく。
直撃ならHP1200は全部削り取られるがかすったくらいなら半端なダメージだけで済むはずだ。
しかし敵のブレスが終わってもリリーシャのHPは1も減っていなかった。
[ユニットカード(召喚中)]
名 前:ゴブリン ソードプリンセス リリーシャ
H P:1200/1200
攻撃力:4250
防御力:2200
え、何この子チートすぎ!? 昨日よりもさらに速くなってるし。相変わらず成長が速いっすリリーシャ先輩! さすがっす。
っといかんいかん。見とれているばかりではなく、俺もやることをやらなければ!!
ドラゴンは驚きで固まっているが、待ってやる道理などない。
「ゴブリンリーダー2体の効果発動! 墓地エリアよりゴブリンカードを2枚手札に加える!!」
「リリーシャ、一撃で終わらせるぞ!」
「お任せください! マスター!」
「ソードプリンセス第2の効果、ゴブリン剣奥義発動!! 手札に存在するゴブリンと名のつくユニットカードを任意枚墓地エリアに送ることで、その合計攻撃力の半分を次の攻撃時に加えることができる! 俺が送るのはソルジャー2枚! 合計500ポイントを攻撃力に加算!! いけ、リリーシャ! ゴブリンとお前の力をドラゴンに思い知らせてやれ!!」
[ユニットカード(召喚中)]
名 前:ゴブリン ソードプリンセス リリーシャ
H P:1200/1200
攻撃力:4750
防御力:2200
リリーシャの剣に緑色のきれいなオーラが纏い、攻撃力が上がる。
ドラゴンは立ち直ったのか。丁度上空から勢いよくリリーシャに向かって突っ込み、その暴力的なまでの力をぶつけてこようとしてくるが、リリーシャもそれにあわせるように地面から飛び上がった。
[モンスター(大型)]
名 前:黒炎竜
H P:400/3200
攻撃力:4200
防御力:3200
今、強大な力と力がぶつかり、勝敗が決しようとしていた。
両者の攻撃がぶつかった時、それは巨大な光とともにものすごい爆風をを呼び起こしている。
それなりに離れているはずなのに、目を開けていられないほどだ。
爆風が収まり、目を開けるとドラゴンは6つの大きな剣痕を体に残してその体と同じくらい巨大な光となって砕け散っていくところだった。
この光に紛れるようにしてリリーシャは剣を両手で持ち、空から体をゆるりと何回転もさせながら降りてくる。身につけたドレスアーマーがひらりと風に舞い踊るその様はとてつもなく美しく、まるで天使だと見紛うほどだ。
ソードプリンセスとは、ソードマスターのように剣を扱い、その様は一国の姫のように優雅である。
こういう意味だったのかと今更だが理解した。
彼女が着地すると、こちらに向かってきた。
「マスター。敵の排除が終わりました。もう安全です」
「リリーシャ、今日も助かったよ! その、ブレス吐かれたのに何も出来なくて……ごめん」
「マスターがいなければわたしはいつまでも弱いままです。だから、これはすべてマスターのおかげ、そしてこの力もすべてマスターのためのもの。わたしは嬉しいのです。マスターのお役に立てることができて。ですが……その」
きっぱりと嬉しい事をいってくれて胸がいっぱいになるが。彼女は急に言い淀んだ。そういえば昨日も……。
「その……マスター……」
リリーシャはなぜか顔を真っ赤にさせて横を向き、チラッチラッとこちらを伺っている。
普段の恥ずかしがり方もかわいいが、これもすばらしい。
だが、彼女の伝えようとしていることがわからない。
「その……頭を……」
ま、まさか。なでてほしいのか? 思えばリリーシャは戦ったとはほめて! とかなでて! とねだってきたものだ。
だけど進化した今のリリーシャもそうだとは思わなかった。だが、絶対などない。
ためしに彼女の頭を撫でてみると途端にこちらに擦り寄ってきた。その美しい顔に爛漫なる花が咲き綻ぶ。
そうか。進化しても、凛としてかっこよくても、リリーシャはリリーシャなのか。
進化して気高くなって高嶺の花のようにすこし遠く感じられたリリーシャだったけど、ほんとは全部俺が一方的に感じていたことで、リリーシャはずっとリリーシャだったのだと感じる。
そう思うとなんだか今までの自分、彼女の意図に気づけなかった自分に腹が立ってきた。
同時に、申し訳ないという気持ちも。
「ごめんな。リリーシャの気持ちに気づけなくて……」
「いえ、マスター。わたしはこうしてマスターのお側に居られるだけで十分に幸せです。マスターが心配なされることは何もありませんよ」
「リリーシャ!!」
突然の衝動でリリーシャを抱きしめてしまう。
「ま、マスター!?」
彼女は驚くが抵抗する素振りは全くない。しかし普段の凛として表情が崩れてオロオロしだしていた。それがなんだか面白くて、からかいたくなってしまう。
「今まで俺のために尽くしてくれてありがとう。リリーシャ。今はこうしていてもいいか?」
「は……はい。わたしも、このままの方がいい……です」
そういって彼女も手を回してきた。かわいい。普段ならもっととせっつくところだが、こうして遠慮がちだけどそれでも願ってしまうリリーシャもかわいい。そう感じた。
しばらくすると、手を解いて後始末をすることにした。
彼女は名残惜しそうにしていたが、ずっとこのままでいるわけにもいかない。
「カードリセット」
「状況をリセットしました」
全部を戻すと元のリリーシャが飛び込んでくる。
「マスター! うれしかったですよー!」
といってくる。俺も返事とするように彼女を撫でてみる。
「でももったいないな。ドラゴンの体が残っていれば、鍛冶屋に持って行ってドラゴンの剣とか鎧とか作ってもらうのがファンタジーゲームとかでの定番だよな」
「敵の残骸を残すように設定することも出来ます。マスター」
「そうなのか!?」
「はい。その代わり、カード化はできません。体が砕け散ることはカード化の変換過程です」
「つまり倒した敵の亡骸を変換して初めてカードになるのか。なら断然カードだな。考えてみればドラゴンの剣とかあっても俺には扱えないもの……ってそうだ!! ドラゴンのカード!!」
周りを見た。
ドラゴンがカードになっている。俺はそれを見つけた。
もう一度いうぞ。ドラゴンがカードになっている。
ウォおおお!! 拾うぞぉぉ!!!!!!
コスト8 黒炎竜
攻撃力3200
防御力3200
効果。このユニットが攻撃する時、攻撃力が1000アップする。このユニットが魔法攻撃を受けた場合、それを無効後、威力を2倍にして跳ね返すことが出来る。このユニットはデッキコストを10払うことで進化する。
あっ。鼻水でた。ズズズ。
とりあえずいいたいことは魔法で攻撃しなくてよかったああああ! ということだ。
やばすぎるだろこれ、威力無視して無効化。そして2倍で跳ね返すとかやばすぎ。ドラゴンってのはチートなのかよ!!
あとこの進化ってなんだ! こんなに強いのに、でかいのにまだ進化するのかよ!!
どんなになるのか想像もつかないわ!!
よし、さっそく召喚だ!!!
「サモン!! 黒炎竜!!!」
……。
……。
あれ?
「サモン!! 黒炎竜!!!」
……。
「エラーが発生しました。サマナーレベルが足りないため、召喚は無効となります」
一瞬で俺は横になった。
うがうっ!! こうなったらふて寝だ!!
「マスター! 新しいお花持ってきましたよ!! かわいいでしょ!」
「あっかわいい。リリーシャもかわいい。花髪に飾ってあげるねってそうじゃねー! こんな屈辱があるか! カードが目の前にあって! 召喚できないとか!! 俺はドラゴンに乗って空飛びたいんだよ!!」
俺は子供のようにだだをこねるが、リリーシャは身を捩って恥ずかしがっている。
「こうなったらサマナーレベルをいいいいいっぱいあげてやるぞ!! もう4なんだからあと4くらいすぐ上がるだろ!」
「マスター。レベル4までは初心者のようものですのでこれからは上がりにくくなります」
ぐはっ。ルカからの精神攻撃! 俺は99999のダメージを受けた。俺はまた横になった。
「でも上げなきゃ召喚出来ないなら俺は上げるだけだ! 上がりにくくなるのは仕方ないけどそのうち上がるだろう。俺は前にすすむぞおおおおおお!!!!」
「あっ待ってくださいマスター!」
そういって俺はかけ出した。どこに向かっているのかまるでわからない。とにかく、俺は走りたかった。
そして俺は初めて見た。
この世界の町を。
まだ遠目にしか見えないが、それはたしかに何故かどこか見慣れたファンタジーのような町で俺の心をくすぐった。
「ひとまず、俺はここを拠点にして、いろいろな情報を集めて、それから旅に出て世界中のカードを集めてやる。お風呂にも入ってやる。そしてサマナーレベルが上がればドラゴンも召喚するし、もっともっとすごいのも召喚してやる。待ってろよ! 俺のまだ見ぬカード達よ! カードマスターに……俺はなってやる!!」
そういって俺は町に向かって走っていく。大声で叫び、これから手にするだろう……様々なカードに思いを馳せながら。
お疲れ様でした。1章はここまでです。
次章は舞台を異世界最初の町に移して話が展開します。
お楽しみに!