5話―③―大胆
ガチャ。
それはこの世界に来てから俺の毎日の楽しみとなっている。
ただし今回はすこし色が違い、フォースというカードを引くことが最優先だ。そしてこのカードがユニットカードなのかスペルカードなのかわからないため、両方やることになる。
「よし、リリーシャ。カードを引くぞ。フォースというカードが出るかもしれん。引けたら明日からそれの検証だ」
俺がいつにもなく真剣にそういうと彼女もコクリと頷いた。
バーチャルモニターのポイント使用をタップして順番に引いていった。
だが相変わらずユニットカードパックははずればかりだった。リーダーは今日ある程度採れたし他もみんな持っているカードだとこう新しさがない。格差があるのは前にも知ってたけどやっぱりガッガリするな。
切り上げてスペルカードガチャに切り替える。
こちらも似たようなものだ。お? なんだこれ。フォースではないものの、今までに見たことのないような新しいタイプのスペルカードである。
[スペルカード]
名 前:ゴブリンの武器屋
コスト:2
【環境効果】場に存在するゴブリンと名のつくユニットは攻撃力が300アップする。
ゴブリンソードを装備しているユニットがいる場合、この効果は受けない。
20秒に1度場か手札に存在するゴブリンを墓地エリアへと送ることでゴブリンソルジャーをデッキから1体召喚する。この効果は重複しない。
絵には1体のゴブリンが武器屋らしく他のゴブリンに武器を売りつけているところだ。だがゴブリンはここまで人間のように知性が高かっただろうか? 謎は深まるばかり。
効果だけ見れば思わず叫びたくなるほどの効果だ。ゴブリンソードほどの期待値はないものの対象指定形ではない固定値の攻撃力上昇カード。
後半の効果もすごいぞ! 手札にゴブリンがあれば制限はあるがコストなしで召喚可能だ。そしてリーダーの効果ともすこぶる相性が良い。最高じゃないか!
しかしこの環境効果ってのは?
スペルカードの効果にはたくさんの種類があるは既に知っている。通常効果、受動効果、永続効果。だがこれは全く新しい環境効果。効果だけ見ると他と何が違うんだ?
だけどなんだろうとこのカードが強いってことだけはたしかだ。
なんだが嬉しくなってSPがなくなるまでやりまくった。600あったのがすっからかんだ。
だけど……。また出たぞ!!
[スペルカード]
名 前:ディフェンスタワー
コスト:3
【環境効果】このカードの近くに存在する味方ユニットは防御力が300アップする。サマナーがこの塔にいる時、効果は2倍になる。塔の上で味方ユニットが遠距離攻撃をする時、攻撃力は600アップする。
うっほい!!! やっぱりスペルカードガチャは最高だぜ!!
防御と攻撃力が一度に上がるなんて、なんてすばらしいカードなんだ!!
しかしこれも環境効果なんだな。
文面を見ると謎がすこし解ける。サマナーが塔にいる時、と書いてある。つまりこれは効果だけ発動するのではなく実際に塔が湧いて出てくるってことか?
なら永続効果と似た感じになるのか。しかし断然楽しみになってきた。明日是非、これらを試さなくてはならないな!
しかし、フォースのカードは出なかった。だがまだまだガチャは引ける。すこしずつやろう。明日ぴょんと出てくるかもしれん。
リリーシャに話してみるとそれほど残念な感じでもなく、むしろ明日試すカードが楽しみのようではしゃいでいた。
「さて、そろそろ今日は寝るか。リリーシャはカードに戻るか?」
「あの、マスター……。その……一緒に寝てもいいですか?」
「え、えぇ!? 一緒に寝るってまずいよそんなの!」
主に俺が!
「やっぱダメですよね……。でも今まで1人だったので夜一人なのは寂しいんです……」
そういって目をうるうるしてきた。ぐっ。なんだこの破壊力は……。
「うっ。別に一緒でもいいけど……」
99999のダメージを食らって目の前が暗くなった(光を消してもらった)俺は横になった(寝るため)。リリーシャと一緒に。ぐて。
彼女はずっと俺の右腕を掴んでいる。
やめろ! 俺の右腕で何をするんだ! 遊ぶな! どうやら彼女は俺の右腕を目指しているらしく。その研究のためには俺の右腕が必要なのだそうだ。いや、意味がわからないけど??
とにかく、今は寝ろ! 俺! 惑わされるな! 目を閉じ! 心も閉じ! 明日のことを思い浮かべて睡魔に身を預けるんだ!
……。
おおい。
睡魔くーん。どこー? 俺、ここにいるんだけど。もしかして迷子??
眠れない。原因の10割は俺の右腕で遊ぶ某人なのだが、いや、そろそろやめろよ。
だがしばらくすればすこしずつとそれはやってきて。うつらうつらとしてきた。そう、俺はこの時、油断していた。彼女はすぐにも飽きるだろうと踏んでいた。
耳元で声が俺の脳を刺激する!
「わたし今日2回も助けてもらって……その度にキュン、と胸が締め付けるんです。だからその責任、とってくださいね?」
変な声を上げて俺は一瞬で縦になった! あまりに驚いて、震え上がった。いったいなにが起きたというのだろうか。
「その、まさか……リリーシャなのか? 今の」
「マスター。わたしのことはお嫌いですか?」
明かりがなく彼女の表情を伺うことはできないが、それでも今がどんな状況なのか俺にもなんとなく想像できた。
「ぜんっぜん嫌いじゃないけどさ……まだあったばかりだし、そのもっと自分を大事にしたほうがいいっていうか……ちょっと離れて考え直そ? ね?」
そういって俺は無理にでも彼女を引き離し、深呼吸させた。
するとどうだろうか。
彼女はどんどんと狼狽していってやがては地面にへたりこんでしまった。
よくは見えないが、どうやら自分のしたことが信じられないらしい。
「もうわたし、この先生きていけません……」
なんていいだす始末だ。
慎重に話を聞いてみると俺とずっと触れ合ったままでいると何故か段々と大胆になってしまうらしかった。
大胆て。
「マスターはご迷惑でしたよね……おやすみのところをわたしなんかが――」
「全くそんなことないよ! むしろ嬉しかったっていうか。むしろ俺なんかがいいのかななんて……ただ急すぎて驚いちゃったんだ」
「ほ、ほんとうですか!? これからもマスターのお側に置いてくれますか!?」
「あ、当たり前だよ! むしろ俺がお願いしたいくらいだ。リリーシャ、ずっと俺の側に居てくれるか?」
そういうと彼女は泣きながらも飛びついてきて。
「いつまでもお側に居てください。マスター!」
といった。
「と、とりあえずねよっか。明日のこともあるし……」
リリーシャは「はい」と答えながらもやはり右腕を要求してきた。
「え、でもそれってまずいんじゃ……」
「わたしもう同じ過ちは犯しませんよ! それにもうひと押しすればいけそうな気もするんですよねー」
「え? えぇぇ!??」
「冗談ですよ。冗談!!」
心臓に悪い。俺はこの夜本当に安全に寝て過ごせるのだろうか?
だけど夜は着実にふけ、不安をよそに俺はだんだんと微睡みの中に落ちていった。




