5話―①―戦闘力
「サモン! カードの精霊リリーシャLV1!」
[ユニットカード(召喚中)]
名 前:カードの精霊リリーシャ(LV1)
H P:300/300
攻撃力:300
防御力:300
俺が宣言をすると光とともにリリーシャが現れた。
姿は昨日と同じ。召喚するとすこしは戦闘スタイルの服装になると思えば昨日と同じ白いブラウスとスカートを着ていた。ひらひらしているやつだ。チョウチョ結びのリボンがついててかわいい。
「マスター! わたしやっと召喚してもらえたんですね! ありがとうございます!!」
そういって抱きついてきた!
「ちょ……ちょっと!? リリーシャなんで抱きついてるの!?」
「いいじゃないですかー。せっかく会えたんですからー」
いいけどよくないよ! だっていろいろあたってるもん!
「顔が真っ赤になってます。マスター」
「うるせー! そ、そうだ! リリーシャの攻撃方法を教えてよ! カードなら戦えるんだよね!」
今のリリーシャ姿格好を見ている分にはまったく戦闘が出来るようには見えないのだ。どういう攻撃をするのか想像もつかないのだ。
「モチロンですマスター。わたしだってちゃんと戦えるんですからね!」
そういって彼女は俺から離れていった。助かった……。
「こうして……」
手に力を込めると突然光り出し、カードが手に現れる。
そうか。カードの精霊だから俺と同じようにカードで戦うのか。
だがこのカード、俺の使うものと違いカード名も絵もなく、真っ白のものとなっている。
「これを投げつけて戦うんですよ! 結構威力あるんですからね!」
直球だな!
それに威力あるっていっても攻撃力300だけどね。
「よし、そんなに言うならあそこの大岩に攻撃してみてくれ」
俺がそう指示すると彼女は危なっかしい動作でカードを投げる!
そんな動きで当たるのか? と思ったがそのカードはすごい速さで大岩に当たり……突き刺さった。
え、えぇ……。
まじかよ。カード、侮るべからず。
たかが300、されど300。一般人の3倍あるということなのだからあくまでも女の子の彼女から考えるととんでもないことなのだろう。
「すごいよリリーシャ! これならゴブリン相手でも戦えるぞ!」
「えへへもっとほめてくださいマスター。その、頭をなでてくれるとくれしいかなって……」
どこかもじもじしながらいうリリーシャ。
「頭をなでればいいんだな」
そういってリリーシャの頭をなでながらほめてみる。すると彼女の顔はまるでリンゴのように赤くなっていくのだ。
面白くて、かわいくてついやりすぎてしまう。
なんだこの生き物。
リリーシャは顔立ちでいうならかわいさと美しさを兼ね備えているものだが、この時においてはまるで小動物のようになっている。純白の兎が今や真っ赤に茹で上がりそうだ。
俺の頭もおかしくなりそうなのでそろそろ切り上げることにしよう。
「よし、次はゴブリン相手に実践だ!」
――
「サモン! カードの精霊リリーシャLV1! よし、リリーシャ、あれを攻撃してみてくれ」
「はいマスター、まかせてください!」
「ニンゲン! コウゲキ!」
リリーシャはゴブリンに向けてカードを投げた!
攻撃は命中しゴブリンは苦悶の悲鳴をあげた。
カードは当たる。だが、動きがなんともあぶなっかしい。何もないとこで転びそうなほどだ。
リリーシャの攻撃力は300。一撃で100のダメージ。3発で沈む。
今2発めが当たり、ゴブリンは危機を察したのか。反撃をしようと木々を大きく迂回して彼女に迫る。
リリーシャも最後の一発を当てようとするが、遮蔽物とゴブリンの動きでなかなか当たらない。
するとすぐに彼女の側まで来てしまった。やばい、攻撃されるぞ! 遠距離だからと油断していた。
「サマナースペル発動、バリア!」
「バリア発動しました」
無意識のうちにゴブリンの前まで走りその攻撃をガードした。
バリアに棍棒は弾かれる。今のうちに攻撃させる。
「リリーシャ! 今だ!」
「はい!」
あっけなくカードがあたってゴブリンはカードとなった。
回収してリリーシャを見るとなんともしょんぼり顔だ。
「うぅ……。また失敗してマスターに迷惑をかけてしまいました……」
「そんなことないよ。今のは俺が勝手にやったことだ。リリーシャも戦闘は慣れてないから仕方ないさ」
「本当ですか? ありがとうございます、マスター!」
そういってまた抱きついてきた。
「おいおい、いちいち抱きつくなって」
「マスターが優しいのがいけないんですよー」
「えぇ!? 俺が悪いの!?」
「そうです、マスター。あまりリリーシャを甘やかさないでください」
ルカから見て俺はどうやら甘やかしてしまっているらしい。
「体が勝手に動いたんだよ。自分で戦わせといてなんだけどいざリリーシャが傷つくと思ったら居ても立ってもいられなくなって……」
俺の弁に対してルカはお気持ちはわかりますが、と前置きをして。
「リリーシャとわたしは同じマスターの力ですが担当は違います。わたしは能力の補助、リリーシャはマスターのために前線で戦う。それをリリーシャも望んでいるはずです。彼女はまだ生まれたばかりなのでまだまだ不慣れですが、今のうちに経験を積ませておくのが彼女のためにもマスターのためにもなるのです」
そうか。リリーシャはカードだから戦うためにいるのか。だがそれはあまりにも……。
「だけど俺と歳の近そうな彼女が戦うためにいるってどうもなー」
「マスター、何か勘違いをしていますね。マスターの役に立つことはわたしたちにとってなによりも嬉しい事なのです。一度、彼女にも聞いてみてはどうですか?」
本当にそうなのか? にわかには信じられない。
「リリーシャはどうなんだ。戦うのはいやじゃないのか?」
「わたしは……うれしいです。やっと、マスターと出会えて、そしてそのお役に立てるなんて……。ルカお姉ちゃんがマスターの左腕ならわたしはマスターの右腕になりたいです! もっともっと強くなってマスターの敵をばっさばっさと薙ぎ払ってマスターをお守りすることがわたしの夢なんです!」
彼女は眩しいくらいの笑顔でそういった。普通に考えるならば、こんなこと……。俺みたいな平々凡々なやつを守りたいなんていう酔狂な人なんていないだろうと思う。
だけど俺は……彼女のこの笑顔から嘘を見出すことが出来なかった。
これは彼女の本心なのだろう。
なんだか嬉しくなってしまった。彼女の思いがとても嬉しくて、彼女を抱きしめ返してしまった。
そしてその耳元で「ありがとう、リリーシャ」なんて呟いてしまった。
またまた茹で兎になってしまった彼女を見て、俺は自分のしたことを信じられなかった。
ここへ来てまだそれほど時間は経っていない。だけど厳しくも美しいこの世界で、俺も変わってきているのかもしれない、そう思った。
「ところでルカ。リリーシャが甘えん坊なのは生まれたばかりだからなのか?」
「それもありますが、彼女自身がもともとこういう性質なのもあります。それとあまりリリーシャをからかわないほうがいいです。なつかれすぎてもわたしは知りませんよ」
え! なになつかれすぎるってなに!? なんかこわいんですけど……!
ルカの言葉の意味が理解できないまま、すこしのち俺達は通常業務へと戻った。
いろいろなことがあったけど俺の今日のもともとの予定はリーダーを狩って数を増やし、そしてそのままSPを増やすことだ。スペルカードがもっともっとほしかった。
リリーシャは最初こそ危なっかしかったが、カードだからなのか、すごいスピードで戦闘方法を吸収していった。
これからが楽しみである。ルカの言うとおりだった。戦闘させることで身のこなしがよくなればダメージを食らうこともすくなくなるし、相手を倒せる機会も増えるだろう。まだまだ抵抗はあるもののこれが一番よい方法なのだろう。あとは……フォースというカードが引ければ文句はないのだが……。
気が付くと夜が近づいてきていたので新しく出来たねぐらへと俺達は戻った。




