A Queen of the Night
―A Queen of the Night―
すっ、と空を仰ぐ。
空と地上の境界線は混じり合い、滲んだ絵の具のようにはっきりとしない。
おもむろに少年は黒髪を風になびかせながらバイオリンをゆっくり、ゆっくりと構える。
繊細な指が弦を押さえ、まだ幼さの残る腕が弓をそっと持ち上げた。
弦の上を滑らせるように弓を走らせるとともに、美しい音色が夜空に響き渡る。
今夜の観客は、たったひとり―――――。
空に輝く、フルムーン。
目を伏せ、僅かに口角を上げて気持ちよさそうに奏でる少年のバイオリンの音に、ピアニッシモからのクレッシェンドでピアノの旋律が重なる。
コンダクターなしで、綺麗に揃ったハーモニー。
バイオリンの少年を見つめながら子供のような笑顔で楽しそうにピアノの鍵盤をはじく少年も、やがて目を伏せピアノの音に集中する。
研ぎ澄まされたお互いの感覚が、洗練された音と音を創り上げ、そのハーモニーは空へと吸い込まれていく。
弓をおろした少年は、すぅっと深呼吸すると穏やかな笑顔で声で音を紡ぎ出す。
ピアノに乗せたその声は遙か遠くまでのびるような美しく透明感のある音となって夜空を昇る。
バイオリンを傍の木に立てかけると、少年は胸に手をあてて伸びやかな声を更に高めていった。
強く伸びやかに、しかし儚く散るような、切なくなるような―――――心に響く音楽。
儚いからこそ美しい。
切ないからこそ心を強く打つ。
空から彼らを見守るフルムーンは、雲の影を吹き飛ばすように明るさを増し、彼らを照らし出した。
柔らかな月光が2人を包み込んで優しく音楽に合わせて踊り始める。
光と影と、声と音とのささやかな演奏会。
足元にひろがる草花が風を受けて揺れる。
たなびく雲は大きなフルムーンに影を落とすことなく空に散っていく。
天の下。
夜空の元で、儚い夢が強い意思を持って音楽を響き渡らせた。
境界線なき境界線に、音が消えていく。
ゆったりとなだらかに旋律が小さくなっていく。
優しく、優しく雲がたゆたう。
心が棘のないまるい感情を生み出して、すべてを包み込んだ。
キミと仰いだその空は―――――。
いつでも鮮やかに思い出せるような美しき景色。
大切な、たとえ儚くとも忘れることのできない優しき光。
いつか。
またいつの日か。
ただ一度だけ、もう一度だけ―――――キミに会いたくて。
小さな演奏会を終えた2人は、手を重ねて滲んだ絵の具の向こうへと消えていった―――――。
END 20160605
はい、またも自信なさげにさくらちゃんに送ったら、今回は『キラキラしてた』と言われてほっとしたのが正直な感想ですwww
自分の文章を見失っていてどうにもスランプ気味。
今回は初めて、さくらちゃんが…というかWINGSが先に作った曲に合わせたPV風にしてあります。
勝手に創作してる方がラクでしたwww
でもご本人さまに納得いただけたので嬉しかったです。
有難うございました~!