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「冬利にそっくりとは言え、あなたはまだ7歳児にも満たない子供。話のそらし方はまだまだと見ました。ですが、月穂様……1つだけ約束してくださいませ。あなたは、冬利のようにはならないであなたは、あなたらしく生きてくださるとそう約束してくれませんか?

あなたらしく生きた結果、あなたが冬利のようになっても、私は文句は言いません。

ただ、あなたらしく生きてくれればよいのです。あなたは、冬利のようにはなってはなりません。あの方を目指してはいけないと言っているのです」


その言葉を聞いてふと思った。

前世、私は従者としてたった1人のお嬢様に仕えていた。そのお嬢様の婚約者は言わば、国のトップに立つ人だったのである。

その人は自分の父親のようになりたいと望んでいた……いや、そうならなければならないと自らにそう負荷をかけていたと言った方が正しいか。

そして、甘い言葉を……いや、自分が欲していた言葉を囁いてくれる人に陥落した。

そう考えれば、彼にも、自分の父親のようにはなるんじゃないと警告してくれる人がいたのなら、彼はああ愚かな男にはならなかったんではないか。

お嬢様は死ななくて済んだのではないかとそう思う。まあ、希望的観測でしかないが。


「私は、どちらかと言えば、あなたとの方が考えが合いそうです。私は、正直自分の幸せなんてどうでも良いんです。今度こそ、私の大切な人が幸せになってくれればそれで構わないんです」


私は、素直にそう言った。

そうすると、彼は……。


「それはどう言う意味ですか!」


剣幕を変えてそう言ってきたのだ。

何故に、この世界の人間は容姿が良い人が多いのだろうか? 凄い剣幕でも、男前だなんて。


「そのまんまの意味ですよ」


私は従者。考え方は変えられない。

例え、生まれ変わったとしても、私はどうしても主人を探してしまうのだから。


「どうして、ですか?」


悲しそうな顔を彼はした。

だが、同じ立場にいる彼を、自分と同じようにはしたくはない思いはある。

だから、素直に話そうじゃないか。

私の前世の話を。


「満さん、私には前世の記憶があるんです」


そう言って、私はこれは随分と昔の話ですと彼の反応を気にもせず、話出す。


「信じるか信じないかは満さん、あなた次第です。ですが、他の人には他言しないで欲しいのです。そうでなければ、私には拷問にかけられても引き出したがるくらいの、喉から手が出るくらいの貴重な記憶が……いえ、歴史があります。

父上は、私を大切にしてくださっています。だからこそ、あなたに話します。それが父上を、家族を守るための唯一の手段なのです」


本題を話す前に、釘を刺す。

満さんを信じてない訳じゃない。

が、目の前の名誉に目がくらまないかもわからない。人間とはそう言うものなのだ。


「私は、あなたを信じます。

あなたは、私の主人の、愛娘だから。

あなたを信じない訳にいきません。

主人の愛しい者は、私も愛しい。

だから、私はあなたの身を危険な目に合わせる訳にはいきません。私にとって、名誉よりも金よりも主人の守りたいもの全てを私は守ると誓いました、初めて涙を流したあの日に! 私はあの人の唯一の砦です、舐めないでください」


ああ、狂ってる! 自分の身より、たった1人の他人のために、自分の名誉を捨てるとは!

ああ、狂ってる!依存してる!

だが、そうでなければ話にならない!


私は思わず口元を手で隠す。

だって、きっと歪んだように笑ってると自分の顔を見なくともわかるから。


……ふふふ。私にそっくり、この人は。


必死に笑いを堪えていると言うのに、笑うことを我慢している自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる。

こんな話で笑いが込み上げてくる自分は病んでしまっているのかもしれない。

だが、それでも構わない。

私には、彼さえ味方で居てくれるなら、悪役にだって、悪魔に魂を売ることも躊躇わない。


「いいでしょう。

あなたは、前世の私とそっくりです。

あなたが私のようにならないために、お教え致しましょう。私も身内が破滅の道を歩むのは心が痛みますからね。正直、従者として試したのですが、私は従者としての心構えを聞き、さらにあなたのことを気に入りました」


忠誠心は時に毒となる。

だから、それを知っていて欲しい。


「私の名前は山城唯。

主人の復讐のため、2世紀前のこの世界を引っ掻き回し、通り魔に刺された従者でした」


ご存知、でしょう? 私は唇の動きを意識しながら、声に出さずにそう唇を動かした。

すると、彼は口をパクパクと動かした。

恐らく、驚きからだろうな。

従者である立場にあれば、私の存在はとても有名らしい。……従者の鏡としてな。


「前世の私を男性だと思っていたんだろう? 前世の私が、男性の振りしていたと見抜けていたのは極一部だからな、気にする必要はない。私の変装は、今で言う整形レベルだからな」


正体を言った今、敬語は使う必要はないだろう。満さんを困らせるだけだと思うからな。


「私は性別を変えてまでも、お嬢様の側にいたかったのだ。主人として尊敬してるから」


そう語る私を呆然と彼は眺める。

そんなのお構い無しに私は話し続ける。


「そんなお嬢様を、あいつらは!

ただ婚約者だと言うだけで、あいつらは悪役に仕立て上げた。だから、お嬢様の名誉を守るため、犯してない罪で殺したあいつらに復讐したんだ。

私を尊敬してはいけないよ」


私は、私情を挟んだ。

お嬢様の名誉を守るためではなく、私は彼女をこの世界から奪ったことに対する復讐をしたのだ。

私は、聡明な人間ではない。

私は誰よりも自分本意な人間だ。

尊敬されるべきではない。

だって、私はまた繰り返す。敬愛した人物を奪われた時、私はまた徹底的に復讐をするだろう。


「そもそも、私は従者として失格なんだ。私は、自分の主人の兄のことを愛してしまったのだから。だから、私は躊躇わず男となった。

けして叶わぬ恋だとわかっていたから。

私も、家系的に釣り合ってはいない訳ではなかったが、私は代々お嬢様の家系を護ると誓った者の血縁者だ。私は彼を、愛してはいけない。それなのに私は、彼を一人の男性として愛してしまった。私が主人として1番敬愛していたのは確かにお嬢様だったが、私が見惚れてしまったのはあの方だった。

だから、私は諦めるために、男として生きることとした。まあ、お嬢様の従者となるためなら、例えあの方を愛していなかった自分だったとしても、私は男としていきることを選んでいたことだろう。だから、私は従者の鏡として尊われるような人間ではないのだよ」


……私のようにはなってはならない。

私はそう考えながら、空を仰ぎ見る。

すると、それからしばらくして、呆然としていた満さんは冷静さを取り戻したのか、真剣な表情をして、淡々とした口調でこう言った。


「例え、そうだったとしても私はあなたと同じ選択をすると思います。どんな話を聞こうと、主人が犯してもない罪を着せられて、裁かれたのなら私は躊躇なく自らの手で、復讐だと周りから言われようとも、真実を見つけ出します。例え、国を敵に回そうとも、私が忠誠を誓ったのは、主人と認めたのはあの方お一人ですから」


主人優先なそんな彼を、私は呆れながらも、微笑ましく思った。

そして、ふと私は思い出した。


「私に用があったのではないんですか?」


山城唯として話す訳ではないから、話す口調を敬語へと戻せば、彼に苦笑いされた。

山城唯と、水月月穂としての人格をはっきりさせるためだ、口調は戻す必要がある。

彼はそれを言わなくても、きっと理解してくれることだろう。


「ああ、驚きの事実を知ったため、放心して本来の目的を見失っていました。

確かに、私はあなたに用があって、あなたに姿を見せることにしました。お話、聞いて頂けますか?」


最初からそのつもりだったから、私は躊躇うことなく、その申し出を了承したのだった。











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