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どうして、僕を捨てたの?
どうして、僕は愛されないの?
どうして、どうして?
そんな僕なのに、あなた達は血の繋がりもないのに愛してくれるの?
僕に、才能がなくなったらあっさりと、あなた達の愛は消滅してしまうのかな?
誰か、僕を助けて……。
誰か、僕を愛して。
誰か、歪んだ僕を……、受け入れて。
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塩原希一に会うのは、しばらく経ってからにしようと私は雪くんに提案した。
何故、そんなことを言ったのか、雪くんは追求することなく受け入れてくれた。
それがさも当然だと言うかのように。
私に与えられた期間は2週間。
雪くんは十分なくらいな期間を与えてくれた、……私が塩原希一や東雲哉太の家庭内状況を調べるために。まあ、雪くんにはそのことは言ってはないけどな。
幼い私に出来ることが少ないと思ったら大間違いにもほどがある。私はこれでもこの歳には従者としてお嬢様の側にいて仕事をして尽くしていた。
私は髪を後ろで一つにくくる。
そして、男子ものの服に袖を通し、窓から飛び降りた。私はこれでもあの国をまとめる五つの家系の血が混じっている。2階くらいの高さから飛び降りるくらい受け身は取れる。
「どこへ行く」
あれま。飛び降りた場所と、タイミングが悪かったようだ。黙って屋敷から抜け出そうと試みて、この格好をして無茶をしたと言うのに、さっそく父上に見つかってしまった。
まあ、父上が止めるとは思ってない。
この行動は葉月のため……、いや雪くんのためなのだから、忠誠心の高い椿の人間だった父上が私を止めるはずがないのである。
父上は護衛をつけたがらない。
そんな父上を見てきたから、私も護衛をつけるのはあまり好きじゃない。だから余計に護身術や武術の鍛錬を欠かさず行っている。
父上は実力者である。
だから、護衛をつける必要がないのもあるんだろう。だけどそれが理由としてはあまりに拒絶が強すぎるし、とても辛そうな顔をするんだ。
だが、誰だってトラウマはあると思う。
だから私は聞かない、なんでそこまで護衛をつけないことにこだわるのかを。
父上はああするな、こうしろとか言うことはしない。何故、そうしたいのかを正当な理由や納得できるものならば何だって応援してくれる。
だから、そこへ行く理由をちゃんと話せば、条件はつくとは言え、行かせてはくれるだろう。
「情報収集です。
雪くんをサポートするために、聞いた話だけではなく、実際に見て聞きに行きたいのです。
ですが、女子の姿では危ないのは理解しています。他の令嬢と比べれば私はたくましすぎる方でしょう、ですが私が子供で女子であることは変わりません。
所詮、大人の男性には敵わないのです。だから、せめてと男装をし、情報収集しに孤児院に行って来ます。そうしなければ、私はいつか雪くんの行動に隠された何かに怯えて、雪くんのことを信じられなくなってしまいます。そう言う訳にはいかないのです、私は仮にも雪くんの婚約者ですから何があろうとも彼を信じ抜かなければならないと思っています。
そのために、私はどんなことだってします。と、言っても雪くんが悲しむようなことはしません、例えば自分の命を変えても雪くんを護るとか……?」
下手に隠すことなく、私は何をしようとしていたのか、父上にちゃんと全てを打ち明けた。
絶対に気づかれたくない嘘つきは、半分真実を言って、半分は嘘をつくと聞いたことがある。
私はそうしない、そうする必要が全くないからだ。何か、やましいことをしようとしていた訳じゃないし、ばれたところで何も支障はない。
だから、私は正直に話す。
そんな私の態度に父上はため息をついた。
きっと、呆れたのだろうな。
……隠さなすぎるその姿に。
「情報収集は明日にしなさい。
今日は、あまり日が良くない。明日までにはお前用の移動車を用意しておこう。いつかは用意しなければならないと思っていたから気にするな。
情報収集用の車何台かと、水月月穂としての移動車を1台用意しておく。これを気にお前専属の秘書を2人をつけることにした。
お前は結構な実力者だ、護られる必要はないだろう。秘書には自分自身のことをしっかり守れるように指導してある。今まで通り、鍛錬を重ねておきなさい。我々は葉月と繋がりがある家だ、自分の身くらい自分で守れなくてどうする。誰かに守られて無事に済むことなど、運が良くない限りはずっとは続かないからな。
後、お前も時期に7歳となる。今日は話したいことがあるんだ。一応は椿の血が流れている限り、この話とは切りたくても切れない縁があるんだよ」
普段は、やりたいことを好きにやりなさいと言ってくれる父上が、明日にしなさいと言うくらいだ、今日は情報収集に行くのはよしておこう。
それに父上の勘は良く当たる、今日は本当に良くないことが起きるんだろうな。
父上は瞑想系能力者ではないのに、何故だか父上の勘は良く当たる。
何だろうな、軍師としての勘かとしか言えないんだろう。ちなみに父上は、特殊強化系能力者で、元々は優秀な司令官だったらしい。
今は水月家の会社でお爺様のサポートをしている。今は、屋敷からテレビ電話を使って、仕事をしたりしているから毎日屋敷にいることが多い。
私が学園に入るまでは、屋敷から仕事をすると言うお爺様との約束らしい。
私は一応、椿の血が流れてる。
お爺様もお爺様で能力者だ。瞑想系で、予知能力者であるから、それにプラスそて人ならぬ者を見る力を授かっているとなると、私も兄上も何らかの能力者である可能性が高いのである。
能力者は、何処にでもいる訳じゃない。
誘拐されることだって多々あるのだ。
だから、屋敷には能力者としての力がある者をいさせなければならない。
そして私みたいに、人ならぬ者が見える子供はその魅力に引き込まれやすいのである。
力が安定するか、人ならぬ者から加護をもらうかしない限り、同じく力がある者が側にいなければならないとされている。
父上は力があるが、家族にその力がない家系は、学園に保護してもらうのが義務である。
その学園の名前は萌芽学園。
一般的には、13歳からの入学が基本とされている。だが、入学資格を持つのは能力者としての才能を少しでも持ち合わせていること。
きっと、その関係の話だろう。
今思えば私、誘拐されるとわかっていて良く1人で出かけようと思ったなとそう思う。
まあ、いいや。
まだ、調べるための猶予はあるからな。
「わかりました」
素直に、父上の条件を飲んでおこう。
そうでなければ、変装して出かけることすらもさせてくれなくなりそうだからな。
ここはこうするほかないだろう。
「夕食後、書斎に来なさい」
私は、はいと素直に返事した。
父上に止められては仕方がない。
さて、予定がなくなってしまった。
何をしようかと思案する。
勉強はこれ以上やりすぎると、兄上に苦笑いされてしまうし、秋羅様の目つきがとんでもないことになるのでやめておこう。
鍛錬はやりすぎると筋肉が付きすぎてしまうし、社交ダンスの練習しても良いのだが、元々の月穂が社交ダンスが好きだったのか体幹もしっかりしていて、これ以上筋肉がついてしまうと……、か弱い女性の演技で誤魔化しが効かなくなってしまうからな。
やりすぎず、怠らないのが私のモットーだ。
さて、どうしようか。
私にはあまり趣味はないし……。
ピアノや歌の練習しても良いのだが、あんまり歌ってると、母上が芸能事務所の履歴書を持って現れるからあまり長時間の暇つぶしにならないからなぁ。
なんて、考えていると……。
「初めまして、月穂様」
私の目の前には、いつの間にか見たことがない男性が立っていたんだ。
気配が、全くなかった。
まるで、透明人間なのでは? と思うくらいに彼の気配は皆無だった。
「警戒しないでくださいって言っても無理ですよね。気配がない男にするなと言う方が間違っていますし、この状態のままお話しましょう」
彼は優しい表情で、困ったように笑った。
だけど、私は警戒するのをやめない。
「そうですね。
それより、あなたは誰ですか」
いつでも対処出来るように、私は隙を見せないように、そして戦う姿勢を崩さない。
「流石は冬利の娘ってところですね。親子共々、誰かを戦わせるなんて考えず、自分が傷つくことを選ぶなんて、本当に良く似ています」
冬利とは、父上の名前である。
そんな父上のことを穏やかに、優しげに話す彼を見て敵とは思えなくなってしまった。
私は前世で、たくさんの人間を見てきた。
だけど、この顔をして人を裏切るような行為をした人を見たことがない。
だから、私は戦う姿勢をして、彼を警戒するのをやめた。……彼に対して、これ以上警戒する必要はないとそう判断したからだ。
「警戒するの、やめてしまったのですね。関心するくらい、隙のないものだったのに」
と、本当に残念そうな顔をしながら彼はそう言うものだから、参ってしまう。
「あなたは警戒する必要がないと判断したのです。あなたは、父上の秘書の方ですね?
噂は聞いています、父上以外には姿を見せることがない「姿なき秘書」の星崎満さんですね。お初にお目にかかります。姿が見れて、光栄です」
私は使用人、水月が管理する会社の会社員、水月が良く関わる人々のプロフィールは大体は頭に入っている。何故、彼を星崎満さんだと思ったのかはプロフィールはあるのにも関わらず、彼だけは写真が存在しなかった。でも、彼の体格はそのプロフィールに合致する。
「流石ですね、月穂様」
また困ったように満さんは笑って、私を褒めてくれた。何か、くすぐったい。
「月穂様は努力家です。それは、冬利にとってもそっくりな部分な1つとも言えます。
だから、私は心配なんですよ。
なので、こうして月穂様だけのタイミングを狙って、姿を現したという訳なんですよ」
……私が父上に似ているからこその心配ってなんなんだろうか……?
私がそう考えていれば、満さんにクスクスと笑われてしまった、何故?
「考えるときの仕草すらもそっくりですね、ここまでになると関心してしまいます」
そりゃ、親子ですからね。
それなのになんでこんなに恥ずかしいと思ってしまうんだろうか? 笑われたからかな。
「それより用があるのでしょう?」
私は恥ずかしいと感じていることを隠すために、そう話をそらしたのだった。