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「……意思表示をした君に言っておこう、私は彼に罰を与えたい訳ではないのだ。雪夜様のことは本当に愛していた、もしかしたら彼の華のある雰囲気に当てられただけなのかもしれないが、それでも私は彼を愛していたとはっきりと言える。確かに狂気は持っている、だけど彼は魅力的な人だと今でも思う。彼が歪みに当てられていなくて、あの時に出会っていたのなら私は時間はかかるけれど、私は彼を愛していただろう。そう思うくらい、彼にはカリスマ性がある。

だから、私は彼に幸せになって欲しい。彼に更生の機会を与えて欲しいんだ。私は、転生をして幸せだよ。本当の愛を知って、愛されて、幸せ。転生してなかったら、私はこの気持ちを知らなかった。こうなるまで、私は随分遠回りをしたようだね。でも、その遠回りは必要なものだったと思ってる。

転生しなくちゃ、理玖にも会えなかったからね。彼には、彼に見えない本質を見える女の子が必要なんだよ。心配なのは、秋葉だ。私に対して異常に敬愛の感情を持ち、依存している。私には愛する人がいる、だから狂ってしまわないか心配なんだ」


秋葉は明らかに、彼が言う歪みの影響を受けている。そうでなきゃ、秋葉が私が来ることを知っていたこと、私に対して盲信的で、周りが引くほど依存していることが説明することが出来ない。

私は秋葉に対して何かをした訳じゃない。

秋葉は、何かに縛られている。……何故かはわからないけど、そう思った。


「……こうして、私にその話をしたと言うことは、私にも秋葉様と何かしらの縁はあるのでしょう。私は傍観者を徹しつつ、秋葉様と接触してみます。……何故でしょうね、そうしなければならないとそう思ったんです。その勘を信じてみたいんです、秋葉様のことは私にお任せしてはくれませんか」


そう考えているうちに、彼は彼で答えを出していて。私の望みを叶えつつ、秋葉と会ってみると言ってくれた。

時に、勘というものはとても強い力を発揮することがある。正論では語れない何かを信じてみるのも良いのかもしれない。


「……良いだろう。その代わり、覚悟はしておけ。秋葉は一度、内に入れると異常なほどに依存する。共倒れだけはしないでくれよ、そうでなければ君に任せた役目を別の人に任せなければならなくなる」


だが、素直に任せたと言うのも癪。

傍観していてくれと頼んだと言うのに、彼はまた関わろうとするから致し方なくだ。


「肝に銘じときます。

それと、一つ聞いて良いですか?」


素直に皮肉を受け入れるもんだから、僻みで言った自分に恥ずかしさを感じながらもそれを言葉にはしない。捻くれていると、自分から認めるようなものだから、それを認めるくらいなら、質問に答えておいて話をそられるならそれが良いと思った。だから、構わないとそう言った。


「……私が、あの方に似ているから、この計画に関わらせたくないという訳ではないですよね……? 神々から言われました、私は魂の形すら見間違えるくらいに、あなたの愛しいと思ったあの方に似ていると。

もし、そうであっても、そうでなくてもこれだけは言っておきます。私は、あの方ではありません。ただの他人の空似でしかないのです。もし、人材が足りなくなった時には、私のことを遠慮なく戦力として数えると言うことを約束して頂きたい」


……眩しいな。眩しいと感じるくらい、彼は真っ直ぐだ。

他人の空似だと、しっかり理解しているつもりではあるけれど、心の何処かで、ここまで似ている彼を戦力として数えることを躊躇っていた自分がいなかった、そう躊躇いもなく言えない自分がいて。

これ以上、彼と共にいると、あの方と共に過ごしているような感覚になるし、また好きな人との約束を違えることになるような決断をしてしまいそうな気がして、惹かれやすい自分が嫌になる。

自信を持って、あの方に似ていても、一番は理玖だよと言えない自分がとても不愉快で。


「……私が愛したあの方との恋は、結ばれない恋だった。そう言う運命だった。

きっと、君ともそうなんだろうね。あんな思いをするのは一度きりでお腹いっぱいだ。

それでも、私はあの方を嫌いにはなれないから、君との関わりは最低限にしたい。あの方を私は忘れることは出来ないけれど、過去の恋愛だと思えるようになってきた。君を君自身としてみたいから、君との関わりは最低限にする。

それほど、私にとってあの方は、想い人として、主人として魅力的な人だった。今は、主人として人柄やカリスマ性の高さに尊敬する気持ちの方が強い。

君のことは傍観者だと言ったが、戦力の頭数には入っている。……秋葉のこと、くれぐれも頼むよ。あの子も、私の大事な家族だから、幸せになって欲しいんだ。

私は秋葉を縛るつもりはなくても縛ることしか出来なかった。……だから、どうか秋葉の様子を注意深く見ておいてくれ。それで、秋葉に人として惹かれたのなら、側にいてあげて欲しい。もし、秋葉に惹かれなかったなら様子を注意深く見ていてくれれば良い。あの子は敏感だから、頼まれたから仲良くしていることはすぐ察して、うわべだけの付き合いに切り替えて、そうなったら一生心を開かなくなる。……無理して仲良くすることだけはしないで、接触する時は引き際に気をつけて接してくれよ」


……わかりました……と耳を澄まさなけれれば聞こえないような小さな声で返事をした理由はわからなかった。ただ、彼は何処か、悲しげで、切なそうな顔をしているのはわかるけど、その理由までは理解できなくて。それでも、その理由は聞くべきではないのだろうと何故か思ったから、その反応を気にすることなく私は話を続けた。


「君とは協力関係だ。建前上、私の方が立場が上だから、君は敬語を使わなければならないが、協力関係である以上、君との関係は同等と思っておく。困ったことがあれば、ここに連絡してくれ。父上に借りていたお金も返済したし、経営も随分と安定して、収入もそこそこになった。経済的な立場もそこそこになったしな。だから、困ったことがあればある程度のことなら手を貸そう」


あくまでも、協力関係としてを強調して言う私は、きっと自分が思っているより彼のことをあの方と重ねてしまっているんだろうと気づいてしまった。だけど、理玖のことを好きでいたいから、こうして気づいていないふりをして、何事もないような反応を彼に見せている。

本来なら、私のこの行動は良くないのかもしれない。……こうして、彼と距離を置かなければ理玖を好きでいられる自信がないと言っているようなものだから。

それでも、私は彼と距離を置き、協力関係を築くことを選んだ。それは、理玖を選ばなければ後悔すると感じたからだ。


私は理玖を大切に思っている。

……今では、あの方以上に大きな存在だ。

だからこそ、私はこの選択をしたのだ。


「ありがとうございます、そう言って頂けると嬉しいです。……これ以上、夜分遅くまで女性と二人っきりは例え私よりお強いあなたでも世間的によろしくないので、そろそろ自宅に帰宅したいところなのですが、本題の話をしておきたいと思います。本来なら、後日改めて話すべきところなんでしょうけど、早急に知っておいて欲しい話なんです」


私が話をそらしてしまったんだ、早急に話をすべきことなら聞いて置かなければならない。……私が、彼より強いと言う点はだいぶ引っかかるが、平凡だと言い張りたいんだろうからあえてそれだけは突っ込まないでおく。また、話をそらしてしまいそうだからなと悶々と考えながら、話でも構わないと意思表示をするために彼の目を見て、声に出さず一度だけ首を縦に振った。

これ以上、私が話すと話が脱線して、思わぬ噂で彼に迷惑がかかりそうだしな。

その意図を感じ取ったのか、彼は淡々と話の続きを話し始める。


「私があなたに伝えなければならないこと、それは水月家のルーツです。突如、流星のごとく現れ、ものすごいスピードで大きな存在となり、経済的な地位を確立していった水月家の真実を伝えておかなければ、後々あなたの計画の足を引っ張ることになるかもしれないと思い、それがきっかけであなたに面会を頼みに来た訳です。

水月家の本当の名は、穂月。水月家の人間はこの世界で唯一、穂月家の血を引く者なのです。この事実はあなたの武器になるはずです、上手くこの事実を生かし、幸せな結末を過ごしてください。

何故、穂月家は水月と名乗るようになったのかはそれは自ずとわかることであり、そして私が伝えるべきの範疇を超えています。藤夜様が伝えた歴史だけが全てだとは限りませんし、穂月家の人間のみ知る歴史もあるのかもしれません。それは私が伝えるべきではないこと、あなたが穂月家の人間であることだけは伝えておきます」


そう言って、何事もなかったかのように、使用人の指示に従って颯爽と去っていく彼の姿を私は呆然と見つめることしか出来なかった。




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