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変わり映えのない、毎日を過ごしていた今日この頃。鍛錬をしていた私は、父上に呼び出された。

場を移し、そこは客間。

ドアの前だと言うのに、とても強い緊張感と、それに伴うように圧迫感を感じて自然と背筋が伸びる。

私が会った人の中で、ここまで緊張感を感じさせる人は数人くらいしかいない。緊張感のある場には、前世からの経験のおかげで、同年代の子達よりは慣れているつもりだ。

思わず、背筋が伸びてしまうくらいの緊張感を出させるような人となると、月穂が「私」ではない時から、あまり社交場を好まない私にはその人物に当てはまるような人の心当たりは1人くらいしか思いつかない。

きっとドアの先にいるのは……。


「……藤夜様、先日はわざわざお見舞いありがとうございました」


私は客間のドアが開かれたと同時に、その部屋にいるのは藤夜様だと確信を持ってお礼を言った。

案の定、そこにいたのは藤夜様で。

だけど、少し違ったのは、客間にいたのは藤夜様1人ではなかったと言うこと。

お礼を言った私に対して、まるで自分の孫に向けるような笑みを浮かべる藤夜様の隣で、月穂である私と同年代くらいだろうか、にこやかに、そして爽やかに笑う目元が藤夜様にそっくりな男の子がそこにはいた。


……政略、結婚だろうか……?

私にはその言葉に良い思い出はない。

敬愛するお嬢様を失ったきっかけであり、そして私自身苦しめられたものだから。

……冷や汗が、止まらない。

そんな私の内心を読むかのように、藤夜様は再び穏やかに笑って、私の額に浮かぶ汗をハンカチで優しく、丁寧な手つきで拭ってくれた。

そして、藤夜様は静かな声でこう言う。


「君はこの世界の真実を知っているか?」


とても静かな声だったのに、藤夜様のはっきりとこの客間に響き渡った。……独り言のように呟くような声だったのに関わらず、だ。

私は完全に場に飲み込まれていた。

だから、こんなにも内心は考えていると言うのに、いざ声を出そうとすると自分の意思に反するかのように、掠れた音しか生まれなかった。

そんな私のことをお構いないしに、藤夜様は相変わらず静かな声で淡々と話を続けた。


「君はこの世界の真実を知りたいか?」


問い直されたその言葉に、私は頷くことしか許されなかった。……いや、そうでなければならないと私が思い込んでしまっただけなのかもしれない。

だけど、私は1度頷くことしかこの場では出来なかったのだ……。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


この国には、今では5つの家系でまとめているが……、この国をまとめる6つの家系があった。

その家系は代々、妖達に護られていた。

葉月、椿、柊、紅葉、葵。……そしてその5つの家系のトップに立つのが、穂月だった。

時は遡ること、2世紀と少し前。

この世界には科学と言う存在はなく、魔法と言う手段でこの国を成り立たせていたらしい。

いつの時代も1つの力に依存してしまうようだな、生活源全てを魔法に頼っていたようだ。

そのため、魔物と言う存在が生まれた。

それが生まれたのが、魔法と言う存在が意図的に消え、超能力が生まれる十年前のことだ。

魔物が生まれる核のような存在を壊したのは、魔物が生まれてから5年後。それは魔法と言う存在を消す、そんな代償を払ってから出来たことだったんだ。


そしてその5年後。

3人の能力者が生まれた。

1人は「瞑想」と呼ばれる力を、

1人は「強化」と呼ばれる力を、

1人は「特殊強化」と呼ばれる力を持って。

その3人が生まれたことにより、それをきっかけに、次々と能力者としての才能が開花した。


それから1世紀後のことだ。

また、新たな時代の始まりが生まれた。

妖と呼ばれる「人ならぬ者」と契約し、力を得た者が現れた。そしてそれと同時に、妖が大切にしていたものに宿る意思のようなものに共鳴し、具現化出来る者が現れたのである。

前者の能力者を「憑依遣い」と言い、後者の能力者を「具現者」と呼ばれるようになった。


穂月家は魔法と言う存在が消えたと同時に、トップの座から降り、表舞台から姿を消した。

魔法が消えたから、穂月家が消えたのではない。魔法と言う存在があろうとなかろうと、彼らの存在は6つの家系の中でも安定した存在だったから。

穂月家は表舞台の歴史から語られなくなった、彼らは自分達をあたかも最初っからいなかった存在だったのかのごとく、この世界の「歴史」から消えた。

藤夜様は、静かな声で淡々とそう話をした。


「これがこの世界の真実の歴史だ」


魔法が消えたこと、いや……魔法と言う存在があったことすら、意図的に消されてしまった。

そして、穂月家の存在。

彼らは意図的に姿を消し、自分達がいたと言う歴史すらも消し、そして表舞台から降りたこと。

そのことは意図的に消された歴史だと言うこと、それがこの世界の真実の歴史だと言うのか。


「藤夜様、どうして私なんかにこんなことを話されたのですか。いち会社の令嬢に過ぎない私に、そんな世界の重要な話を私にしてくださったのですか」


やっと緊張感から解かれてから、初めて言った言葉がそれだった。何故、そんな重要な秘密をこんな私にしてくれたのか不思議だったから。


「それは君が、あの方に似ていたからだ。失礼なのかもしれないが、君が寝込んで目覚めてからと言い、余計に君はあの方の生き写しのように似てきている。だから、君は真実を知るべきだと思ったんだ」


……あの方に似ている……?

あの方とは誰のことだ?

と、そう考えていると、そんな私の心を読んだかのように藤夜様は深呼吸をした後、話を続けた。


山城唯やましろゆいさん。たった1人のお嬢様の無実を晴らすために、情報を集め、行動し、そのお嬢様が無実だと証明した従者の方だよ」


私はその名前を聞いた時、思わず肩を揺らしそうになってしまった。

そう、山城唯と言う名前は紛れもなく、前世の従者だった頃の名前なのだから。

藤夜様の観察眼に、ぞくりと鳥肌がたった。


「月穂、私は2世紀前の人間だ。

山城唯さんが通り魔にあった時、私はまだ10歳だった。私が20歳の時、超能力が生まれた。

それから2年後、私は瞑想系の能力を手に入れた。予知能力が開花し、強すぎる能力の代償として、私は不老不死体質になってしまったんだ。

死に方は出血死くらいしか許されない。例え、不老不死だろうが、急速に血液を作れる訳じゃないからな。

だから、山城唯さんがいた時代も、穂月家が存在した時代のことも知っている。

私は、この命が尽きるまで、この世界を見守り続けたいと思ってる。だから、記憶を繋げるために誰かに話さなければならなかったんだ。

それに、月穂にこの話をしようと思ったのは山城唯さんに似ているからって言う理由だけじゃないよ。

月穂に、この子……私の孫の雪夜ゆきやのサポートをして欲しいんだ。

私は雪夜に政略結婚をして欲しくない。

だから、雪夜に大切な人が出来るまで、それまでは雪夜の隣にいて欲しいんだ」


その言葉は純粋にこの国の幸せを祈る気持ちと、孫の幸せを望む祖父の気持ちだった。


「わかり、ました……」


その優しさを見て見ぬ振りを出来るくらい、私は人に対して無関心になれなくて、その頼みを了承することしか出来なかった。




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