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理玖の友人は申し訳なさそうに私の部屋に入ってきて、私と二人きりで話したいと言って来た。そう言われた時、切羽詰まったような顔だったから見捨てることは出来なかった。

……我ながらお人好しだ、と呆れて笑いそうになる。


その提案を私は断ることは出来ないんだろう、そう考えながら了承しようと声をかけようとした時、


「この方は未婚の女性だぞ!

こんな時間に、僕の友人であろうと二人きりにはすることは出来ない! この方は、この方は……!」


珍しく、怒鳴るような声で理玖がそう言っていて。……同時に、どこか理玖は苦しそうだった。

その様子から見て、次に何を言おうとしているのかわかってしまった。


きっと……。


「………この方は雪夜様の婚約者なんだぞ……。夜会いに来たと知られたら! お前が何されるかわからないんだぞ……」


彼は私に好意を伝えてきている。

だから、私には好意を伝える相手の前で別の人の婚約者だと言うのはどれだけ苦しいことか、感じ取れる。


私が理玖に「好きだ」と伝えたら、彼の気持ちは少しでも楽になれるだろうか?

いや、それは違うな。理玖は優しい人間だ、きっとライバルである雪くんのことを考えてまた、傷つくんだろうな……、きっと。


さらに傷つけないためにも、今は言うべきではない。全てが終わったその時、私はただの一人の人間として彼に思いを告げると決めている。

雪くんには、執着心は恋ではないと自覚してもらわなければならない。

そうでなければ、恋の相手が従者だ。雪くんの立場であれば、私と理玖の関係など簡単に引き裂かれてしまう。

従者に恋をしてしまったからこそ、自分の主に恋をしてしまったからこその苦しみであり、そう簡単に実ることはない恋なのだろう。


だが、万が一、この計画がバレてしまった時の対処は考えてある。

理玖の移動先や計画をどう戻すかも全て計画済みだ。むしろ、バレて当然の前提で考えた計画、雪くんの油断を利用する計画などその時その時で対応を変えるつもりだ。

そうでなければ、雪くんの私への執着心の強さを考えるとこの計画が上手くいくとは思えない。

今、想いが通じあってしまえば、絶対に理玖は確実に消される。理玖がいる前提で立てた計画だ、消されるのをわかってて今の段階で想いを告げるのはさっき言った通り、告げる気はない。

告げてしまえばもしかしたら、雪くんのことを好きにならない私すらも消されてしまうのかもしれない。

まあ、そうなったら父上が黙っているとは思わないがな。あの人は元々、椿の人間で、武力、戦術の面ではどの家系よりも長けている人だ。

それに、水月家の経済力はどの家系よりも何故か上回っている。戦力は十分確保できるし、簡単に負けるとは思えない。


だが、万が一だ。万が一、 負けた場合は水月家は滅ぼされるだろう。

でも、それでは困るのだ。何があっても水月家は生き残ってもらわなければ困るから、だから失敗は許されない。


だから、一人の話ですら聞き逃す訳にはいかないのだ。……例え、殺意を持った相手だとしても、私は客人として受け入れる。


「良いでしょう。でも、その条件をのむにあってこちら側にも条件があるわ。

ここで話すのはまずいし、客室へ移動することを提案するわ。それで構わないわね?」


私がそう提案すれば、理玖の友人は躊躇わずその提案をのんでくれた。

それを確認した後、メイドに、


「あの部屋に案内してあげて。

申し訳ないけど、あなたには目隠ししてもらうわ。重要な話をする時にはその部屋を使うの。……構わないかしら?」


場所を指定した後、私は部外者にばれたくない客室だから目隠しをして良いかと確認すれば、理玖の友人は覚悟を決めたような顔をして頷いたから、メイドに目線を送る。

それを合図に、メイドはマニュアル通りの対応を完璧にこなし、理玖の友人をあの部屋へと誘導していった。


さて、何の話をされるのか。私はそう考えながら理玖に視線を向ければ、彼は複雑そうな顔を浮かべていた。

はて。何故、そんな表情をしているのか理由はわからなかったから、理玖が口を開くまで待っていると……、


「あの部屋って何ですか」


その一言を聞いただけでわかった。

……理玖は怒っているのだ、自分が知らない部屋が存在することを。







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