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「私は姫君のことを弱いだなんて思ったことは一度たりともございません。
むしろ姫君は強すぎるくらいです。
あなたは何でも1人で抱え込もうとする、その癖はきっと治ることはないのだろうから私は姫君の居場所となります。時には弱音を吐く居場所として、泣きたくなったら泣く姫君を隠す居場所となりましょう。初めて姫君に会ってから、私の主人はただ1人、姫君だけであります。ですから、弱々しい姫君を見ただけでは呆れたりは致しません。むしろ、1人で何でもこなす姫君が頼ってくれるなど、秘書冥利です。ですから、気にせず私をお頼りくださいませ。
私が姫君に呆れる時は、姫君が自ら命を絶とうとした時と、姫君が手離したくないと願うにもかかわらず私のことを手離した時と、姫君だけがすべての罪をかぶる決断を姫君がした時のみでございます。それ以外、何かされたとしても姫君が味方であって欲しいと、そばにいて欲しいと望むのであれば私は……」
これから言うことの照れ隠しなのか、お決まりの困り顔をしながらも、はっきりとした声で、理玖は淡々とこう言った。
「私自身の意思で姫君から離れることは、私が私である限りあり得ないことであり、私が敬愛する姫君が姫君のままである限り、私はあなたを主人として愛し、尊敬し続けます。
私の唯一は、あなただけなのですから」
そう言って、いつもの困り顔をしながらの笑顔ではなく、まるで向日葵のような眩しく、輝いている笑顔を浮かべる理玖に私は目を奪われ、心を奪い去られたような気持ちにさせられた。そう、その感情は……。
……あの方に抱いた感情に酷似していて、私はその熱に気付いた時、何故あの時、理玖だけに目を奪われた理由に気づいてしまった。
……気づくべきではなかった、その感情に気づいたからこそ私はそう思う。
私の感情は恋情だ、だが理玖の感情は恋情ではなく敬愛でしかない。愛は愛でも分類は違い、その違いが何よりも虚しさを感じさせる。
恋とは何と酷いことをするのだろうか。また、私は身分の違う人を愛してしまった。
前世とは違う、私の方が名誉も富もある家系に生まれたから権力を使えば理玖を手に入れることが出来るのかもしれない。でも、それをしてしまえば理玖は理玖でも永遠に彼の心を手に入れることが出来なくなってしまう。いや、むしろそうした私は永遠に軽蔑され、純粋な恋を出来なくなるだろう。
ならば、またこの恋を隠し、また死ぬ時まで独身を貫くだけだ。もう笑うしかないな、私は何度生まれようと誰とも結ばれず死す運命なのか……。
だが、1つだけ我儘をしても良いだろうか? ……前世では口に出来る立場ではなかったから言えなかった、言いたかった言葉を言っても良い?
「全てが終わったら、私は別人として生きていかなければなるだろう。
そしたら自由に恋をしても良いのかな」
私は車の天井を仰ぎ見ながら、ぽつりと独り言ととしてそう呟けば、ガタンッと何かが落ちたような音がしたから、視線を音がした方へと向ければ、そこには口元を手で覆い、顔を真っ赤にさせている理玖の姿があった。
……どうしたんだろうか?
私には何故、彼が顔を赤くさせる理由がわからなかった。




