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彼は彼女に微笑んで、彼女もまたつられたように微笑み返した。一見、微笑ましい光景のようにも思えるが、彼こと雪くんの雰囲気はとても冷たくなっていて、彼女が誰なのか正体を気づいていることは一目瞭然だった。だが、それくらいでは計画には何ら支障はないから平気だ、雪くんのことだから気づくとそう予想はしていたからシナリオ通りに進んでも何にも問題はなさそうだ。


「月穂様、よろしいのですか? 取り巻きが随分増えたような気がしますが」


そう言ったのは私に取り巻く令嬢だ。

成る程ね、私は令嬢だとしても成果が高い大企業の令嬢だ。そんな私なら、文句はないけれど何処の小娘かもわからない彼女に恋人の座を奪われたくないと言いたいのだろう。つまり、牽制しろと言うことだな?

今、そんな行動は移すつもりはない。

そこまで牽制したければ、自分の名を出してすれば良いのだ。堂々とな。


今は私の出る幕ではないのだよ。


「彼が婚約者以外の私を好きになるなどありえないことですから、多少の夢は見させてあげましょう。彼も交友関係を広げるべきだと思いますし」


なんて、そう言ってみれば、彼女は納得したように微笑んだ。……後付けで考えたような理由で納得してしまうとは、何と張り合いのないものだろう。


まあ、良いや。

張り合ってもらってもそれもまた面倒くさいし、それより早くこの場から逃げ出してしまいたい。雪くんの視線が痛くて居心地が悪い。


私は雪くんの側にはいられない。

それが私の決断だが、彼はきっと私からの申し出では受け入れないだろう。

だから、彼から私から離れてもらうしか手段がないのだ。だから、この計画を立てた。


これなら犠牲は私だけで済む。

役者は、彼を慕う者ばかり揃えたから役者であっても演じてはいないのだ。


だから、邪魔はするな。犠牲者は増やしたくない、傷つけたくないから。

見守っていてくれ、慕っているのであれば尚更見て見ぬ振りをしていて欲しい。


そう願うばかりである。


そう考えていれば背後から理玖の声がして、私は振り返れば困ったような笑みに見えるけれど私にはわかる、何処か嬉しげでもある笑みでもあることを。そんな表情を浮かべながら彼は私の元へと駆け寄って来る。

その真実だけで私は彼を信じられる。


「私、彼を立派な秘書にするために監督をしなければなりませんの。

雪夜様に話しかけられないことは残念でありますが、これが水月としての役目ですから致し方ないのです。今日のところはお怒りにならないで差し上げて?

私の婚約者のけじめは私が致します、思ってくださるのは嬉しいですが彼女への対処は全て私がすると皆様にお伝えくださいませ」


そう私が忠告すれば彼女は、


「わかりましたわ、そうですよね。

流石は月穂様ですわ。皆さんにもそう私の口から伝えておきます。お伝えすることは本当にそれだけでよろしいのですか?」


くどく、雪くんに近づく彼女に忠告するように言ってくるもんだから思わず、


「それなら、雪くんに近づく全ての女性に忠告しなければならなくなりますわ。それでもよろしいのであれば、彼女に忠告致しますけれど?」


最終宣告するかのように、きつい言い方になってしまった。できる限りのことなら、誰かを傷つけるような発言を控えたかったのだけれど計画に支障があるならばそうするしかないようだし、しょうがない。

犠牲なく、進むことはないのだから。


ズキリッと何処かが痛くなったような気がした瞬間、待ち望んでいた声が聞こえた。


「月穂様、そろそろお時間です」


ああ、優秀で人を見る能力に長けている貴族ならバレてしまうことだろう。理玖は場数は全くないことだけが欠点なだけと言うだけと言うことに。

本来なら私の指導はいらないのだ。

主の感情の変化に的確に気づき、正確に主のフォローをすることが出来る。だから、私には指導することは何もない。私に出来ることがあるとしたなら、それは自分の下で経験を増やしてあげることしか出来ない。


「そうね、それではご機嫌よう」


私は軽やかな足取りで歩み出し、理玖と共に迎えの車まで早足で向かう。

早く、この学園から逃れたかったから。

私は五分も経たずに車へとたどり着き、いそいそと車へと乗り込んだ。


そんな私の隣へと理玖が座る気配がしたから、すぐに彼に抱きついた。


「ありがとう……、あともう少しで本音が出るところだったよ。良いタイミングで来てくれて助かった。まだ、私は雪くんに依存しているんだなって再認識したような気がするよ、……呆れただろ?」


弱音すら堅っ苦しい言葉から抜け出せない私は、何て可愛らしくないんだろうか。

……素直に甘えられる性格だったら、今も何も知らずに雪くんの側にいることが出来たんだろうか? とたまにそう考えてしまう。

それはきっと私はまだ雪くんに依存してしまっていると言う証拠なんだろう。


だけど、私は戻らない。

雪くんの側にいる人生ではなく、私は私らしく生きる人生を選んだから。


けど、たまには弱気にだってなりたくなる。

だから、側にいて。弱さを見せないために甘えさせて。そう年下の理玖に願うのは、少し恥ずかしいけれど支えが欲しいの。

弱さを隠すために、弱さを見せられるたった1つの居場所が私は欲しい。


私は理玖の返事が返ってくる間、そんなことばかりを考えていた。






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